第34話 二人の初めて

※R15的描写があります。ご注意を。


 というわけで、東山ひがしやま駅から電車を乗ること少し。

 ちなみに、京都市内は狭いので、電車移動はあまり時間はかからない。

 

「既にカップルがうじゃうじゃいるな。鴨川かもがわ


 カップルの群れを見下ろしながらつぶやく。

 場所は四条大橋しじょうおおはし

 鴨川沿いでも、一番デートスポットとして有名どころだ。


「仕方ないわよ。鴨川がこうなのはいつものことでしょ?」


 しかし、涼子りょうこの言う通りなのだ。

 特に、ほどほどに涼しいこんな季節は。


「とりあえず、川沿いに歩いて、空いてる場所探すか」


 四条通しじょうどおりから五条通ごじょうどおりに沿って南下。

 ちなみに、京都市内は、多くの通りが、東西南北に通りが走っている。

 四条通から五条通へはほぼ真南だ。


「しかし、なんで、本当に一定間隔で並んでるんだか」


 鴨川名物。川沿いに一定間隔で並ぶカップルの図。


「隣のお邪魔をしないようにすると、同じ感じになるんじゃないかしら」

「まあ、そう言われると説得力あるな」


 秋の鴨川は程々に涼しく、風が吹き込んで気持ちいい。


「あと一ヶ月ちょいしたら、紅葉が綺麗だろうなあ」

「そうね。でも、その時は、嵐山あらしやまの方がいいわね」

「たしかになあ。じゃあ、そんときは行くか」


 嵐山は京都の有名観光地の一つ。特に竹林で有名だ。

 また、秋は紅葉狩りでも有名なところだ。


「あ、あそこに空いているベンチあるわよ」

「おお。運がいいな」


 五条まで差し掛かった辺り。

 二人が座れるベンチがちょうど空いたところだった。


「もう、夕焼け空って感じだな」

「そうね。あっという間に過ぎちゃったわ」


 しばし、二人で夕焼け空を眺める。

 

「普段、頭使いまくるけど、たまにはこういうのもいいな」


 思えば、デートでもすぐ研究の話になったり。

 平日は平日で研究の構想について議論をしたり。

 既存研究をサーベイしたりと。

 こうして、ただ二人の時間を楽しんでなかった気がする。


「そうね。私も、こうやって、一緒に過ごせて、嬉しいし」


 ちらっとこちらを見てからの微笑み。

 こんな優しげな表情は初めてな気がして、少しドキっとする。


「俺も、改めて、涼子りょうこの事が好きなんだって実感した」


 一緒に研究の話をするのも楽しいけど。

 でも、こうして、空を見ながら、ぼんやりするのも、嬉しい。


「……これからは、時々、こういう時間取った方がいいわよね」

「同感。ちょっと、研究中毒だったよな」


 こういうところは、お互い似たもの同士かもしれない。

 しばらく、お互い無言で太陽が西に沈むのを眺めていた。


 そして、夜が近づいて来た。

 鴨川で落ち着いた気分が、また少し高揚し始める。


「あのさ。そろそろ、帰る、か?ええと、俺の家に」


 ここで怖じ気づくのもどうかと思って、そう口にした。


「う、うん。その、うまく出来ないかもしれないけど……」

「それは、俺も同じだって。その……」


 この言葉はどうにも照れくさいのだけど。


「出来る限り、優しくしたい、と思ってるから」

「も、もう。善彦も似合わないこと言うんだから」

「俺なりに本気の気持ちだぞ?」

「大丈夫だから。優しく出来なくても。信用して?」

「そうだな。今更だよな」


 どれだけの時間を一緒に過ごして来たんだって話だ。

 というわけで、帰りは言葉少なに市バスで移動。


「ただいまー、って誰もいないけどな」

「その……ひょっとして?」

「頼み込んで、父さんたちには外出てもらった」

「馬鹿。それ、すっごく恥ずかしいじゃないの」

「仕方ないだろ。他に思いつかなかったんだから」


 二人揃って、家に上がって、俺の自室へ。


「いつも研究の議論に使ってるのに。不思議な気分ね」

「そ、それはな。とりあえず、ベッドに座れよ」

「う、うん……」


 もう意識しまくりな俺たち。

 ベッドに隣り合って座ったはいいものの、ぎこちない。


「あの、さ……」


 勇気を出して、声を出す。


「うん……」


 顔がすっかり真っ赤の彼女も、こちらを見てくる。


「なんていうか……今日は、すっごいドキドキした」

「それは私も、よ」

「それで、やっぱり、涼子は女の子なんだなって」

「私も。善彦は男の子なんだなって、意識しちゃった」


 少し、深呼吸をする。


「だから、その……ええと、抱きたい。いい、か?」

「うん。元々、覚悟してきたのだし。お願い、ね」


 まずは、顔を寄せての口づけ。

 ついで、舌を絡み合わせての、激しい口づけ。

 ピチャピチャと水音がして、嫌が応にも気分が盛り上がる。


「ふう……」

「はあ……」


 唇を離して、お互い、大きく息を吐く。

 と、涼子が俺の手を自分の胸に引き寄せて。

 ふに、とした感触が手のひらに広がる。


「善彦、「触っていいか?」とか聞こうとしたでしょ」

「図星。つくづく、情けないな」

「私も、すっごく、緊張してるからね」

「手、震えてるからな。わかるさ」


 幼い頃から一緒だった相手とこういうことをする。

 なんだか、とても奇妙な気持ちだ。

 そのまま、力を入れずに軽く揉んでみる。


「その。こんな感じでいいか?」

「う、うん。でも、もうちょっと強くても」

「えーと、それじゃあ……」


 と力を入れると、


「いた……」

「あ、悪い。力入れ過ぎたか?」


 女性の胸は繊細だというのは、知識では知っていた。

 ただ、痛い加減がわからないので、ドキドキだ。


「えと。これくらいでどうだ?」


 少し力を弱くして、揉みしだいてみる。


「う、うん。それくらいで、ちょうどいい、かも」


 うーむ。こう、お互い、手探りというか。

 そうして、しばらく、力を入れずに揉んでいると。


「も、もう三十分くらい経ってない?」

「あ、ああ。そうだな。えーと、次は……」


 手順は勉強して来たものの、勝手がわからない。

 ただ、おそるおそる下半身に手を触れる。


「えーと、触って、いいか?」

「雰囲気でわかるでしょ?」

「そうだな。悪い」


 こうして、ぎこちないながらも、少しずつ行為を進め。

 なんとか、お互いの服を脱がせ合うことに成功したのだった。


「え、えーと。痛かったら、言ってくれ、な。途中で止めるから」

「う、うん。どうしても痛かったら、言うから」


 瞳には、やっぱり不安の色があって、こいつなりに怖いんだな、とわかる。

 男の俺はうまく出来るかというだけの不安だけど。

 女のこいつは、痛いかも、という不安があるわけだしな。


「じゃあ……」

「うん……」


 お互い、見つめ合って、初めての行為に挑んだのだった。


◇◇◇◇


「そのさ。正味の話、痛くなかったか?」


 行為を終えて、ベッドの中で二人で布団にくるまっている。

 最中こそ、痛いとは一言も言わなかったけど、男としては気になるのだ。


「少しは痛かったけど。想像してたような、凄い痛みじゃなくて。良かった」


 やっぱり顔を赤らめながらそう言う彼女はとてもかわいくて。


「ああ、なんか、痛くて最後まで出来ないカップルもいるらしいしな」

「うん。私も、ネットで読んで、大丈夫かな、って不安だったわよ」

「なんか変な話だけど。ほっとしたな」

「ほっとしたって。も、もう……!」


 何故か、クスクスと涼子の奴は笑い始めた。


「いや、なんか、おかしかったか?」

「ううん。嬉しかった、じゃなくて、ほっとしたのが、善彦らしくて」

「悪い。全然、余裕なかったから」

「いいわよ。そういうカッコつけは似合わないもの」


 と、目を見合わせて、お互い笑い合う。


「……その、これからも、時々、出来たらいいな」

「スケベ」


 ジト目で見られてしまった。


「いや、別にすぐってわけじゃないぞ?いずれって、ことで」

「わかってるわよ。でも、私もやっぱり女なんだなって実感しちゃったわ」

「どういうことだ?」

「そう言われて、嫌な気分じゃないってこと!言わせないでよ……」


 こうして、緊張したり、嬉しかったり、恥ずかしかったり。

 そんな夕方から夜の一時は無事に終わったのだった。


 ちなみに、その後。


「おお、善彦よしひこ。で、初体験はどうだった?」

「ちゃんと涼子りょうこちゃんを気遣ってあげた?」


 父さんと母さんから、興味津々の質問責めを受けたのだった。

 ああ、もう。もうちょっと、うまく家族に隠せれば良かったのに。

 しかも。


「ちゃんと、善彦は優しくしてくれましたから。大丈夫、です」


 と、恥ずかしげに答えてる涼子である。


「そうか、そうか。うまく行ったようで、何より」

「うんうん。初体験って色々大変だものね」


 父さんと母さんから生暖かい目で見られてしまった。

 色々、いたたまれない。

 今度から致す時は、うまくバレないように時間と場所を考えよう。

 そう誓ったのだった。


☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆

第5章はこれで終了です。だいぶお待たせしてしまいましたが。

第6章は再び、文化祭とか研究とかの話に戻ります。

二人の今後とか、研究からみのうんちくぽいのとか。

見たい方は、応援コメントや★レビューで応援してくださると嬉しいです。

☆☆☆☆☆☆☆☆

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