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カバンを抱えた尾張は思い出の場所に到着した。大学近くにある広い公園である。広場にはベンチがあり、そのもっと先には子どもが遊べる遊具や砂場がある。辺りは一面森に囲まれており、暑くも寒くもない三月のこの時期にはちょうど良い場所だ。尾張はベンチに座ってギターを弾いているのが今田 一(いまだ はじめ)ということにすぐ気付いた。ずっと変わらないその様子に少し安心した尾張だが緩んだ表情を硬くし、今田の隣に向かう。尾張は自分が座るであろう場所に置かれたお茶を手に取り、その場所に自然に座った。

「相変わらずね」

挨拶はいつもしない、それ程の関係だ。今田は弾いていたギターを腹に抱えるためにヘッドとボディの位置を調整した。

「お~本当に来るとは思わなかったよ」

「また下手なギター弾いて、何してんの?」

「この音を聴きたかったから来たんじゃないの?懐かしいだろ」

「違うに決まってるでしょ、で何?急に電話してさ」

三月終わりの公園、辺りは春休みでこの公園にやってきた小さい子どもが楽しい音色を響かせている。ここまで目を一度も合わせず、ずっと目の前を見ている二人を少しばかりか無音の時間が七秒くらい経過していた。

「お前、卒業したらどうすんだよ?」

今田が早速聞いてきた。そういえば進路を話していなかったなと思った尾張は少しカッコつけて答えようと思った。所詮この答えは嘘だし、今田に本当のことを言う必要はないとも思っていた。

「私?東京に行くよ、こんな狭い世界抜け出して新しいところに行くんだ」

「そうか」

今田の反応が思ったより不愛想だったのか、尾張はこの機会に質問を返した。

「はじめは?」

「俺は…どうするんだろうな」

その答えを聞いたとき、尾張は自分が言うはずの答えだったと思ったが、それを悟られないように黙っていた。その時、過去今田とやってきたこと、そして今彼がギターを持っていることからあることを察知し、すぐに聞いてみた。

「まさか、まだバンド諦めてないから呼んだの?」

「…」

今田は黙っていた。彼は黙っていてもその答えは尾張にすぐ分かってしまった。この時初めて尾張は今田を見たが、その視線をすぐさま元に戻した。

「無理だよ、あの時は趣味で組んでただけ、今さら出来ないよ」

「だよな~」

今田がどれ程本気にしていたかは分からないが、尾張は東京へ持っていこうとした思い出を少しずつ思い出していた。すると今田が話してくれた。

「実はこの間テープを送ったんだよ」

「えっ、バカじゃないの!?あんなん無理無理」

「うるせぇな…でも俺はこれしかないんだよ」

尾張は今田が自分より強い信念を持っていると思った。


尾張が思い出していた今田との日々にはもう一人欠かせない人物がいた。

「…まさかさ、まだハンちゃん殴ったこと根に持ってるの?」

「…」

「あれはハンちゃんも悪かったし、よくあるじゃん、方向性の違い」

三人組だった尾張は、今田とハンちゃんに何が起こったのか正確に覚えている。同時に二人の間に入ることで自分が板挟み状態になってしまったことも。

「…でも、いつか絶対ビックになって、また三人でやりたいんだよ、俺は」

これをもっと早く言ってくれたらと尾張は思った。今田が見せている真剣な表情を見て、尾張は自分も今田と同じような気持ちを持っていることを伝えるべく、正直に答えた。この日において初めてかもしれない。

「…もっと早く言ってよ」

「…ごめん」

尾張は少しばかりか嬉しく、思い出していたここでの記憶を今田に話す。

「でもさ~、よくあの原っぱで曲作ったよね、全然出来なかったけどさ」

「そうだな」

思い出が詰まった公園を見渡しているとまだ知らないことがありそうだと思った尾張は、自分にはまだ時間があることを確認し、今田に話した。

「最後にさ、ちょっと探検しようよ」

今田はこの一言に驚いていたが、持っていたギターをケースに仕舞った。


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