アタック・オブ・ザ・キラー・大きなカブ
悠戯
アタック・オブ・ザ・キラー・大きなカブ
むかしむかし、あるところに(~中略~)おじいさんは集めた仲間達と一緒になってカブの葉っぱを力いっぱい引っ張りました。
「うんとこしょ、どっこいしょ」
すると皆で力を合わせた甲斐あって、ようやくカブは抜けました。
大柄なおじいさんの身の丈をも超えるとんでもない大きさです。
村人全員がお腹いっぱい食べてもなお余るくらいの量はあるでしょう。
ですが、こいつをどう料理してやろうかと気を緩めたおじいさん達が談笑していると……。
「わんわんっ」
「うわぁ、助けてくれ」
一緒にカブを引っ張った犬の鳴き声を受けて振り向くと、そこにはなんと村人達に襲い掛かる先程のカブの姿があるではありませんか。
巨大な葉を器用に曲げて足のように使って歩き、畑から民家の集まる村の中心へと向かっています。そしてその巨大な白い実(※厳密にはカブの可食部は肥大化した茎ですが)の中心が動物の口のようにぱっかり割れて、伸ばした葉で捕えた村人を次々と捕食しているのです。
「これは大変だ。いったいどうしたことだろう」
「おじいさん、私に心当たりがあるわ」
いくら異常な大きさとはいえ所詮はカブ。
それがどうして人を襲うような異常な進化を遂げたのか。
一緒にカブを引っ張っていたおじいさんの孫娘には思い当たる理由がありました。
「誤解している人も多いけれど、元々『大きなカブ』の原作はロシアの民話なのよ」
「なに? すると、わしらは実はロシア人だったのか」
「ええ、そうよハラショー」
「なるほど、それならカブが異常な進化を遂げたことにも説明がつく」
厳しい環境下において生物が生存に有利な形質を獲得しようと進化を遂げるのはままあることです。かのダーウィン先生も大体そんな感じのことを言っています。
ならば、ロシアの厳しい自然環境の下で育ったカブが、より栄養を集めやすいようにと能動的に行動して他の生物を捕食できるように進化したのも当然の帰結。論理的に考えて何もおかしくはありません。
「そんな怪物を目覚めさせてしまったとは。仕方がない、わしが責任を持ってヤツを始末しよう」
おじいさんはおもむろに懐からウォッカの小瓶を取り出すと景気づけにグイっと一呷り。アルコールの力を借りて戦意を高揚させると、村の中心に向けて進む大きなカブに向けて駆けだしました。
「ハラショー、ロシア! ハラショー、サンボ!」
なんということでしょう。
おじいさんはロシア伝統の格闘技、サンボの達人だったのです。
ついさっきまで自分がロシア人である自覚すらなかったように見えましたが、アレはきっと常飲しているウォッカのアルコールが悪さをしていたのでしょう。ですが長年の鍛錬で身につけた技は頭が覚えておらずとも肉体の芯にまで染みついています。
「このカブ野郎め。喰らえっ、このっ」
流れるような低空タックルでテイクダウンを取ると、体格の不利を物ともせずに大きなカブを地面に転がしました。更には先程のウォッカの瓶を地面に叩きつけて中ほどで割ると、その鋭く割れた部分を刃物のように使ってカブの実をザクザクと突き刺しています。
関節の存在しない相手にサンボの技術が通用するのかと、戦いを遠間から見守っていたおばあさんや孫娘は気をもんでいましたが心配無用。痛覚があるのかどうかは判然としませんが、ジタバタと苦しそうにもがいている様子からしておじいさんの荒技はカブにも有効のようです。
「こいつでトドメだ。カブ如きにくれてやるのは、ちと惜しいがな」
やがて相手の動きが鈍くなってきたのを確認すると、おじいさんは懐から二本目のウォッカを取り出し、その中身を倒れたままのカブにぶちまけました。そして機敏な動きで遠ざかりつつ、これまた懐から取り出したマッチを投じて浴びせたウォッカに引火させたのです。
大きなカブはそれでもしばらく動いていましたが、やがて全身を黒く焦がして絶命しました。おじいさんの完全勝利です。
「ハラショー、ロシア」
「ハラショー、おじいさん」
「さあ、ウォッカをありったけ持ってこい。宴だ、宴の準備だ」
村の広場には偉大なる祖国とおじいさんとを称える声が響き渡ります。
こうして村は殺人カブの脅威から救われたのでありました。めでたし、めでたし。
アタック・オブ・ザ・キラー・大きなカブ 悠戯 @yu-gi
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