最後だから逢いに来ちゃいました
SEN
最後だから逢いに来ちゃいました
台本:SEN 声劇2人台本(男女) 所要時間:50分
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本編↓
秋人
「ただいま~…あー…疲れたぁ~」
木埜葉
「おかえりなさいー!ご飯できてるよー!!」
秋人
「ん、ただいま!良い子にしてた?寂しくなかった?ん?」
木埜葉
「めちゃくちゃ良い子でした!掃除もしたし洗濯もしたよ!」
秋人
「そうかーえらいな木埜葉は…寂しくは、なかったのか?」
木埜葉
「大丈夫!忙しかったから大丈夫でし──」
秋人(台詞に被せ)
「ん、寂しかったな、待たせた…ただいま」
木埜葉
「うん……寂しかった…おかえりなさい…ううぅ」
秋人
「また、泣かせたな…ごめんな」
木埜葉
「ううん…お仕事大事だから…でも、今から離れません!えへへ~」
秋人N
高校からずっと付き合っていた木埜葉と、同棲をし始めた。仕事はまぁそれなりに忙しく、遅くなることが増えてきていた。帰ってからは、ずっと離れず一緒に居たがる木埜葉を、俺は本当に好きなんだなと毎日思った。休みの日はいつも二人で買い物しに朝から出かけた。
木埜葉
「あっくーん!見てこの猫ぉお!可愛い~!!」
秋人
「いつか飼おう…二人共猫大好きだしさ」
木埜葉
「うんっ!絶対だよ!!あ、でも今のあっくんのお給料じゃ無理か」
秋人
「あ、さーせん…もっと頑張りやす」
木埜葉
「私も働くから!一緒に頑張ろー!」
秋人
「うん…………ごめん、な?木埜葉…」
木埜葉
「もー!すーぐ謝る~!悪い癖だぞー?」
秋人
「うん…」
木埜葉
「私は、今のままでも、十分幸せだよ」
秋人
「ありがと………なんか………腹減った」
木埜葉
「落ち込んだと思ったらすぐこれだー!はいはいどこのラーメン屋いきますかー?」
秋人N
大手企業への就職に失敗し力仕事の配送業をしていた。毎朝早くから遅くまで働きつくめだが給料はそれほど多くはなかった。が、毎日がとても幸せだった。
秋人
「ただいまー」
木埜葉(泣きながら)
「あーっくーーん!!!お帰りさないいいいい」
秋人
「おっとこれまでにない勢いだぞこれ。どうした?」
木埜葉
「レンジがね!!ピッボンッ!!って火花散って爆発したのぉぉぉ!!」
秋人
「っ…ぷっ…あっはっはっははは!!ピッボンッって!爆発って!ははははは!!」
木埜葉
「あ!!笑い事じゃないんだからね!本当に怖かったんだからね!!」
秋人
「ひーっ…くくっ…はー……怪我はなかったのか?」
木埜葉
「うん…ごめんね?あっくんが昔から使ってたレンジなのに…」
秋人
「それはいいよ…新しいの買おう…木埜葉の、電子レンジ爆破記念にーククッ…あはははははっ!」
木埜葉
「もぅ!!知らない!!!」
秋人N
こんなやりとりさえ幸せだった。怒った顔も仕草も声も…ほんと可愛いらしくて守ってやりたいと毎日思う。木埜葉の全てが愛おしくて…本当に毎日幸せだった。
木埜葉
「いえーい!見てー!あっくーん!!」
秋人
「ん?…何?レシート?これがどうかしたの?」
木埜葉
「ん!ここっ!」
秋人
「ん~?……お、すげえ555円だ」
木埜葉
「えっへへ~!好きな数字で更に嬉しい!!大事に取っとこーっと♪」
秋人
「良かったな…そいやさ、前にも5が好きだ~って言ってたけどなんか理由あるの?」
木埜葉
「んー?えーっとねぇ………あー…やっぱ教えなーい♪」
秋人
「なんだよぉ!教えろよぉぉ!!」
木埜葉
「だめでーす!おしえませーん!!」
秋人
「いーじゃんかよぉぉぉ!」
木埜葉
「お!?やるかー!こい!」
秋人
「うわはははは我の剛腕にかかればすぐさま陥落しようぞ!おりゃー!!」
木埜葉
「ちょ!ちょっとぉぉぉあはははははっ!!わかった~ギブギブ!あはは!!!」
秋人
「じゃぁ教えて」
木埜葉
「はーっ…はーっ…えっとですね…教えません!!」
秋人
「うぉりゃぁああああああ」
木埜葉
「ぎゃぁぁああああああはははははっ♪」
秋人N
本当に絵にかいたような幸せだった。これまで大変だったけどようやく俺にも幸せが訪れたのだと実感したんだ………ただ…俺は我儘だった…もっと幸せになりたいと思ったある朝…
木埜葉
「え?」
秋人
「結婚しよう」
木埜葉
「はい!」
秋人N
玄関での俺の突然の言葉に彼女は二つ返事で返してくれた。本当に嬉しかった!式も挙げなきゃだし色々忙しくなるな…幸せな道まっしぐらだ……そう……思っていたんだ……
木埜葉
「明日健康診断受けてくる!何と診察費は会社持ちなのですエッヘン♪」
秋人
「おー!儲けたな~!じゃ終わったら浮いたお金で久しぶりに外食だ!」
木埜葉
「うん!お寿司~焼っき肉~♪」
秋人
「間違いなく赤字だわそれ」
秋人N
2週間を過ぎたある日…
木埜葉
「あっくん…」
秋人
「ん?どしたー?一段と暗いな今日は…ん?泣いてた?寂しかった?ん?」
木埜葉
「ううん…違う…違うの…ごめん…ごめん」
秋人
「泣いてちゃ何かわかんないだろ?どうした?言って?俺が何とかするから」
木埜葉
「…ごめん…ごめんね…今は…泣かせて…ごめん」
秋人N
こんな弱い木埜葉を見るのは久しぶりだった…いつも明るく振舞っている木埜葉
…寂しがりだけど弱いところなんて滅多に見せない彼女が……
木埜葉
「……ガンだって……乳ガン…もぅ手が付けられない程になってるって……」
秋人
「え……は?………う………嘘…だろ?」
木埜葉
「うっ…うぅぅ…ごめんね…ごめん、ごめんね」
秋人
「また冗談言って…俺を…騙そうとしてるんだよ……な?…なぁ……なぁ木埜葉…嘘だと……言ってくれ…なぁ…木埜葉!!……嘘だと………」
木埜葉
「ごめんね…ごめん…ひっく…ごめんね、ごめんね」
秋人
「………ほんと…………なのか……嫌だよ………嫌だよぉぉ!!!」
秋人N
俺は膝から崩れ落ち木埜葉の両膝に頭を突っ伏して泣き続けた…木埜葉も一緒に泣いていた…
時に泣きあい、抱き合い、キスをして、また抱き合い…朝が来てもそうしていた…仕事にも行かず、抱き合い、キスをして…何時間そうしていたかわからない…時間を見ようとギリギリ動く腕で取ったスマホの充電は…切れていた
木埜葉
「何か…食べよ?ね?あっくん」
秋人
「だめっ…だめだ!…行かないで」
秋人N
俺を気づかい何か作ってくれようとしたが、俺は木埜葉を引き寄せ抱きついた…
どうやら2、3日…何も食べていなかったらしい……俺は憔悴しきってしまい深い眠りについていた
昔見たような光景が夢にでてきた……お母さん?違うな…誰だ?…料理してる…なんだろ…凄く落ち着く……懐かしい匂い………あ…木埜葉だ
秋人
「……ん…木埜葉……」
木埜葉
「起きた?作ったよ?あっくんが大好きな私特製からあげ!ご飯も炊いたから、一緒に食べよ?」
秋人
「……うん……うん!!!」
秋人N
一緒に食べた久しぶりの食事…しかも俺が大好きな木埜葉特製からあげ…泣き枯らした出ないはずの涙が出るほど美味しかった
木埜葉
「明日から…入院するから」
秋人N
一気に現実に引き戻されたような冷たい感覚だった…だがそれと同時に感じた…彼女は戦おうとしてるのだ…一人前を向いて……本当に強い
秋人
「わかった…色々、準備しなきゃな…俺が全てやるから…木埜葉は休んでろ…な?」
木埜葉
「うん、ありがと…そう、するね」
秋人N
いつもは俺がやると言うと絶対させないと頑固な木埜葉が…こうも…弱っているだなんて……だめだ……挫けそうだ
そして翌日…県で一番大きいガン治療センターに入院することになった
木埜葉
「あっくん…ありがと……あとはいいから…仕事、行かないと」
秋人
「……行きたくない」
木埜葉
「……」
秋人
「……離れたくない」
木埜葉
「……それは、私もだよ…ずっとそばに居てほしいよ…けど、お家賃も払えなくなるよ?二人の思いでのお家…無くなっちゃうよ」
秋人
「……それも…嫌だ…」
木埜葉
「じゃあ頑張らないと!ね!猫飼うんでしょ!あっくーん!ファイトー!!」
秋人
「……ぉー…」
木埜葉
「どうしたー?声が小さーい!もっと声出さんかーい!あっくぅぅぅん!ファイトぉぉ!!」
秋人
「おー……って…めっちゃ看護婦さんに睨まれてるぞお前」
木埜葉
「ぁ、病院なの忘れてた…えへへっ」
秋人
「まったく…本当に可愛いやつっ」
木埜葉
「えへへーあっくんに撫でられるの好きー」
秋人
「ん!……よしっ…仕事行くか!二人の家守らないとなっ!」
木埜葉
「おー!秋人選手やる気になっております!どうしたことでしょうかこれはっ!!」
秋人
「よしっインタビューして」
木埜葉
「ん!今のお気持ちをっ!どうぞ!」
秋人
「えー…そうですね、色々迷っていましたが、力強い声援があったので…このまま…続投していきたいと思っております…みんな!!ありがとぉぉぉ!!」
木埜葉
「わーわー!やんややんやー!……あ、看護婦さんこっち来たよ」
秋人
「フッ…任せろ…全力で平謝りだぜっ!」
木埜葉
「よっ男の中の男!」
秋人N
いつもの木埜葉だった…俺は安心して病院を後にした
木埜葉
「………行っちゃった……痛い…こんなに…痛いの…私…耐えられるかなぁ…ごめんね……秋人…もぅ会いたいよぉ……秋人ぉ…」
秋人N
それからというもの…俺は仕事の後に病院に通う日々が続いた。木埜葉が好きな漫画を買って行ったり。今日あったことを話したり…気になっていたアニメの続きを話してあげたり……とても楽しかった…木埜葉に会って話せるだけで俺は幸せだった
今日も仕事が終わり足早に病院に向かう。だいたい着く頃には面会時間は過ぎているが、病院の配慮もあり、特別に許されていた。夜間出入り口から入り、5階と7階にしか止まらないエレベーターで7階まで上がる。いつもの順路だ。今日は木埜葉の好きな猫のぬいぐるみを買ってきた。早く喜ぶ顔がみたい。
時刻も21時を回ろうとしている。いつも通りエレベーターは5階には止まらずに7階まで上がる。そりゃそうだ、こんな時間に乗る人はいない。あっという間に7階に着き足早に木埜葉の元へ向かう
秋人
「あれ、病室真っ暗だ……木埜葉?」
木埜葉
「スー…スー…」
秋人
「あ…寝ちゃってる……可愛いな…相変わらず……ん」
秋人N
俺は寝ている木埜葉にキスをした…それでも木埜葉は起きなかった。手を握り俺の頬を触らせる
秋人
「……偉いな…お前は……頑張ってるな…痛いんだろ…苦しいんだろ……ごめんな…変わってあげられなくて…ごめんな……木埜葉…ごめんな」
秋人N
木埜葉はよく眠りについていた…枕元に猫のぬいぐるみを置いて、俺は帰ることにした。
帰る途中に看護婦さんに呼び止められた…抗がん剤治療での影響か何かわからないが昼間に木埜葉が暴れたらしい…泣きじゃくりながら、喚きながら暴れて抑えられてから…こう言ったと
木埜葉
「……あっくん…会いたいよぉ」
秋人N
俺は戻った、木埜葉の元に。どうしても会っておきたかった…あいつは…頑張ってるんだ。無理して、耐えて、寂しくて…それでも、耐えているんだ…痛みから…悲しさから…無念から…死ぬ事から…俺ならとっくにおかしくなってしまう事を…あいつは…耐えているんだ
秋人
「木埜葉!!!」
木埜葉
「…ん…んー…っ!?あっくんだ!!あっくん!あっくん!」
秋人
「居るよ…ここに居る、大丈夫だから、ここに居るから」
木埜葉
「うん!…うん!!!夢でも居てくれて現実にも居てくれた!嬉しいっ!!」
秋人
「あははっ…毎日…来てるだろ?」
木埜葉
「でもでも嬉しいのっ!えへへーもぅ離しませんよー」
秋人
「はいはい…明日日曜だから朝から来ようと思ったけど…このまま居るよ」
木埜葉
「うんっ!このままここに居て!離れてはいけません!!」
秋人
「わかったわかった…あ、でもその前に…トイレ行ってきていい?」
木埜葉
「ん!」
秋人
「う…しびん……しかも女性用」
木埜葉
「可愛い彼女が見ててあげるからここでしなさい」
秋人
「何このプレイ」
秋人N
いつもの木埜葉だった…そのあとも他愛の無い事を話していたが、仕事で疲れていた俺はそのままベットに突っ伏して寝てしまった
夢…だろうか……木埜葉が何かこらえて唸っていた…悲痛な声…押し殺していた…何で夢でまで木埜葉を苦しめるのか…俺はそう思っていた
木埜葉
「…はぁっはぁっ…ひっ…いぃ…い……はぁっはぁっ……あっくん…あっくんー…」
秋人N
翌日も夜まで病院に居て木埜葉のそばに居た。着替える為か何回か看護婦さんに出ていくようにと廊下の先の休憩所まで追いやられることがしばしばあった。
木埜葉
「ん……今日はもぅ休むね…ごめんねあっくん…お見送りできなくて」
秋人
「いいんだ…しっかり寝て、体休めてくれ」
木埜葉
「うん、ありがと……あっくん、大好き」
秋人
「俺もだよ木埜葉…大好きだ」
秋人N
長いキスをして別れを告げた
秋人
「また明日来るな…木埜葉」
木埜葉
「スー……スー……」
秋人
「寝た…か…また、明日な、木埜葉」
秋人N
そうして俺は病院を後にした
次の日の朝…
木埜葉の容態が悪化したと連絡が入り慌てて病院へ向かった
木埜葉は痛みに苦しみ、叫び、暴れ、俺の名を呼び続けていたらしい…
ずっとそばに居てやればよかった…毎回俺は…後悔してばっかりだ
木埜葉のご両親の決断もあり。痛みを麻痺させるために鎮痛剤の投薬を開始したと聞いた…それはとても劇薬で、深い眠りに入り昏睡状態にすることで痛みもなく眠り続けることができるからだ…痛みで苦しんでいる木埜葉を見るのは俺も耐えれないが木埜葉のご両親も同じだった
それから…ずっと眠り続ける木埜葉の元へ通う日々が始まった…
仕事が終わるたびに病院に向かい、ずっと傍に居続ける…朝になってそのまま仕事に向かう…病院が、木埜葉の病室が俺の住まいになっていた
秋人
「ただいま、木埜葉!今日はお前の大好きな吉農屋の牛丼だぞー!!一緒に食べような♪」
木埜葉
「スー…スー…スー…」
秋人N
木埜葉が寝ている横のサイドテーブルに二人分の牛丼を置き食べる…木埜葉が大好きだったおろしぽん酢牛丼…一時癖になって毎日買ってきてとせびられたことがある。
秋人
「ごちそうさまでした!木埜葉も美味しかったか?ん?」
木埜葉
「スー…スー…」
秋人
「そうか!よかった!!また買ってくるからな!楽しみにしてろよ~?」
木埜葉
「スー…スー…スー…」
秋人
「なぁ…木埜葉……結婚式さ、どこで挙げたい?もし、さ。木埜葉がいいならだけど…前から気になってたあの…城みたいな結婚式場で挙げないか?俺仕事頑張るから、そしたら盛大に挙げよう!絶対皆喜ぶし、木埜葉だってめちゃくちゃ思い出になると思うんだ…だから、な?あの結婚式場で挙げよう…木埜葉…なぁ…なぁ…なぁ…木埜葉ぁ…何とか、言ってくれよ…またいつもみたいに元気に俺と話してくれよ!…なぁ…うんって…いつも、みたいに…頼む、よ…木埜葉ぁ…うぅ…ううううう」
秋人N
しばらく泣かずにいれたのに…押し殺していた気持ちがまた打ち寄せてくる。俺は泣いた…子供のように…何時間も…返答の無い木埜葉の手を握りながら…朝が来るまで泣いた
秋人
「……ん…朝、か……木埜葉…おはよう」
木埜葉
「スー…スー…スー…」
秋人N
このまま起きないのだろうか…このまま死ぬのを待っている事しかできないんだろうか…なんて無力なんだ俺は……自分が嫌になる…何もできない自分が…木埜葉がいない世界なんて考えられない。いないならいっそ…………俺は無意識のうちに屋上に来ていた
秋人
「………木埜葉…お前がいなくなるなんて……俺には……考えられない………」
秋人N
俺はフェンスを乗り越えようとしていたらしい。朝ということもありその場に居た入院患者や看護婦に引き戻されていた。その後色んな人に怒られたり諭されたりされていたらしいが…正直…覚えていない……その日は木埜葉のご両親と共に、木埜葉の実家に帰った……思い出のアルバムをいっぱい見せてもらった…どの木埜葉もとても元気で、泣いてる顔は6歳の時にペットが亡くなった時の顔だけだった。
秋人
「9割…笑顔ですね……凄いや…俺には……とても……」
秋人N
木埜葉のご両親は、アルバムを全て俺に持たせてくれた……その夜は…木埜葉の笑顔を見ながら眠りについていた
それからも毎日病院に通い続けた…
そしてついに……きてしまった……その日が
20時…仕事も終わりかけのその時、携帯が鳴った。木埜葉のご両親からだった
木埜葉が……危篤…だと……持って…今夜だと…
俺は仕事道具やら伝票、何もかも投げ捨て病院に向かった…自分を落ち着かせ車を走らせる
秋人
「だめだ、だめだ、だめだ。まだだ…まだだ、まだ……まだだぞ…木埜葉…まだ……生きて…くれ…木埜葉…」
秋人N
こんなに信号待ちが長いものかと、こんなに病院まで遠いのかと。数十時間に感じた。ようやく病院につき、いつもの夜間出入り口へ…守衛さんももぅ顔パスで通してくれる。ようやくエレベーターの所まで来た
秋人
「頑張れ、頑張れ、頑張れよ…木埜葉…最後に…生きて最後に会わせて…逢わせてくれ……神様…どうか…木埜葉に……木埜葉にぃ…」
秋人N
エレベーターの前で祈る……ようやくエレベーターの扉が開く。こんなにエレベーターを待つのを長く感じたことはなかった
秋人
「頼む…どうか…木埜葉……」
秋人N
勢いよく上がっていたエレベーターが5階で止まろうとする。夜間は1階から5階、7階へと直通で動いている。5階から上に行こうとする人がいるのかと察した
秋人
「……こんな時に…誰だよ…ちくしょぅ…木埜葉…」
秋人N
扉が開く…………入ってきたのは
木埜葉
「泣き虫あっくん!」
秋人N
木埜葉だった
秋人
「……ぁれ」
木埜葉
「もぅ!何情けない声だしてんの!あっくん!」
秋人
「いや…だって……ありえないだろ…木埜葉じゃないか…え?何?これ…」
木埜葉
「えっへへぇぇ♪……最後だから、逢いに来ちゃいました!」
秋人
「最後…って…そ、そんなことができるわけがないだろ…お前、体は?大丈夫、なのか?」
木埜葉
「もー!見てわかるでしょー?この通り!元気元気♪ね、ほら、しっかり触れるでしょ?」
秋人
「あ、あぁ…本物だ……Bカップの───」
木埜葉(被せて)
「サイズの話じゃねぇんだわー!そーやってあっくんは私が一番気にしてること言うー!もー!!」
秋人
「その話方も…本物だ…胸のサイズを気にしてるとこも…怒り方も…その笑顔も…木埜葉だ」
木埜葉
「そーだよー!本物の私!あっくんが大好きな、私だよ!ほら、ぎゅーってして?ね?」
秋人
「あぁ……本物だ…木埜葉の香りだ……」
木埜葉
「うん…無理言ってあっくんに逢いに来たの」
秋人
「…先生…に?…よく許してくれたな…まぁこれだけ元気なら許可も出るか」
木埜葉
「うん!いいよって、逢って来なさいって…ペロにも助けられちゃった」
秋人
「ペロ……木埜葉が飼っていた犬だよな…毎日写真見てるから知ってる」
木埜葉
「驚いた~話したことないのに!やるね~あっくん♪今日から君も!木埜マスターだ!」
秋人
「ありがとうございます!…じゃなくて…乗っちゃうところだった」
木埜葉
「あはは♪………うん、あのね?私、ずっと寝てたでしょ?」
秋人
「うん、ずっと傍にいた…木埜葉の」
木埜葉
「うん、あっくんが傍に居るのずっと気づいてたんだ…けどね…体が起きなかった…目が開かなかった…声が出せなかったんだ…何回も何回も頑張ったんだけど…だめだった」
秋人
「そぅ…か…頑張っててくれたのか…聞こえていたのか…よかった」
木埜葉
「牛丼もありがとうね!凄い匂いしてて看護婦さんがめちゃくちゃ嫌な顔してたのが声でわかったよ♪」
秋人
「大好きだろ?あれ…だから」
木埜葉
「うん…大好き…でもね、私が一番好きなのは…あっくんだよ」
秋人
「俺もだ…木埜葉……」
木埜葉
「あっくん…ん……」
秋人N
俺は木埜葉にキスをした…とても長いキスを…
木埜葉
「……ん…久しぶりだ…あっくんのキス…いいな、やっぱ♪」
秋人
「だろ?」
木埜葉
「ん、でも最後…決めてきたんだ私」
秋人
「最後……だめ、なのか?やっぱり…体……ガンが…」
木埜葉
「ううん!違うよ……あっくんは、私がいなくなると…ダメになってしまいます。私が居なくなる前にもダメになろうとしました。私知ってます」
秋人
「う……あれは…ほんと…無意識だった…ごめん…」
木埜葉
「ほらー!すーぐ謝る~!悪い癖だぞー?これ前にも言ったぞー?」
秋人
「うん……わかった……直す…」
木埜葉
「おー?言ったなー!?……その癖もそうだけど…ダメになるところも…治して?絶対、自殺なんかしないで」
秋人
「……わかった」
木埜葉
「私より長く生きて、もっと世界を楽しんで?あっくんはまだまだ世界を知らない。私達が見てる世界はほんの一部…雨の一滴しか見ていない…だから、私の変わりにいっぱい見て欲しいの…素敵な世界を。その眼で、体で感じて欲しい。」
秋人
「うん…わかったよ」
木埜葉
「ん……私からは以上です!あっくんからは何かありますか!!」
秋人
「えっと……あ、大事なことが一つあります。」
木埜葉
「はい!なんでしょうか!聞いてしんぜようではないか!」
秋人
「言い方よ…あははっ」
木埜葉
「ようやく笑ったー!いつぶりかなーあっくんが笑ったの…」
秋人
「本当だ…長らく笑ってなかったな…ありがとう木埜葉」
木埜葉
「えへへ~さす木埜で!あります!」
秋人
「…えと……あった…財布に入れてたんだ……手、貸して」
木埜葉
「ん?はい!」
秋人
「んーん…左手、こっち………はい」
木埜葉
「え……あ、これ……結婚指輪?」
秋人
「うん…あのお城みたいな結婚式場で…結婚するんだろ?指輪が無いとさ…仕事…頑張ったし」
木埜葉
「……ぁ…ぁりがと……嬉しぃ…あっくん…ありがと…ありがとう…ありがと…」
秋人
「泣き虫なのは俺だけじゃないな…木埜葉も泣き虫だ…ん」
木埜葉
「ん…………キス…好き…あっくん」
秋人
「うん…俺も、大好きだよ…ずっとずっと…俺が死ぬまで大好きだよ…木埜葉」
木埜葉
「……うん!そろそろかな…だめみたい」
秋人
「だめ?何がだ?ッお前、やっぱり体調悪いんじゃないのか?木埜葉!」
木埜葉
「ううん!違う…時間。あ、そうだ秋人!猫のぬいぐるみもありがとね!!あれも欲しかったやつ♪大切な場所に持っていくね!」
秋人
「あ、あぁ、あれな…探したんだぞ~?」
木埜葉
「うん!ありがと!!超嬉しかった!!!…じゃぁ…あっくん…元気で」
秋人
「もぅすぐ7階に着くから一緒に病室に行こう、な?」
木埜葉
「えへへ……うん!…私の…私の大好きな秋人さんに…どうか、どうか素敵な日々を送らせてあげてください」
秋人N
7階に着くと同時にエレベーターの扉が開いた。開くと同時に視線を木埜葉に戻すと
秋人
「……木埜…葉?……え」
秋人N
もぅそこには木埜葉は居なかった
呆然と立ち尽くしていると木埜葉のご両親が走ってきた……たった今…亡くなったと…
俺の頭は理解が追いついていなかった…病室に行くと息をしていない木埜葉の姿があった…木埜葉の母親は泣き崩れていた……
秋人
「いや…おかしいだろ…今さっき…会ってた…俺…会ってたよ…木埜葉」
秋人N
木埜葉の左手を取り握りしめる…その左手の薬指にはキラリと光る指輪がはめてあった。俺がさっき付けてあげた指輪だった。その時全てわかった……
秋人
「……そうか…お前…逢いに来てくれたのか…木埜葉…ありがとうな…木埜葉」
秋人N
不思議と悲しみは無く、嬉しさがこみあげていた…元気な姿で会えないはずの木埜葉に会えたこと。話せないはずの木埜葉と話せたこと。また、キスができたこと…こんな気持ちにしてくれた木埜葉の気持ちに…今度は嬉しすぎて泣いてしまっていた……
秋人
「ありがとう、木埜葉…まったく…お前ってやつは……よく神様も許してくれたな…あ、犬のペロの力借りたって言ってたな。ペロのお墓にも行かないとな」
秋人N
木埜葉のご両親は悲しそうではなく、嬉しく泣いている俺を心配そうに見ていたがしっかりと説明した。木埜葉が霊安室に運ばれてから病室を掃除しているとあることに気づいた…
秋人
「あれ…やっぱ猫のぬいぐるみが無いな…持って行ったのか?木埜葉…大事にしろよな…そういえばあいつ何で5番が好きだったんだろ…聞きそびれたなーちきしょー…」
秋人N
通夜が終わり葬式が終わる、そして火葬…俺は悲しくなかった…ずっと木埜葉はまだ居る気がするからだ。こういう気分にさせてくれたのも木埜葉のおかげなんだと思う。あのエレベーターの中での出来事が無ければ俺はおそらくダメになっていただろう。逢いにきてまで俺を救ってくれた。ほんと俺はダメな人間だった…けど木埜葉が変えてくれた。あいつの望みも、叶えてやらないとな…素敵な世界を見て欲しい…だっけか…まず、あそこに行くか…二人で行きたかったけどな…本当は
お城みたいな結婚式場に来た…外見から二人して一目ぼれした場所だった…
中を見学させてもらいロビーで待っていると係の人が俺宛てに電報が届いていると言って箱を持った人形を渡してきた。俺が木埜葉に渡した猫のぬいぐるみだった。電報は箱から流れる音声だった。
木埜葉
「あっくん!久しぶり!5番が好きな理由を言うのを忘れていました!えっと…あのー…秋人と会った時に覚えた秋人の出席番号が5番…だったからです!あー恥ずかしー!おしまい!またね!!……………───」
秋人N
まだ録音は続いていた……最後の……言葉は……
木埜葉
「………秋人、愛しています」
完
最後だから逢いに来ちゃいました SEN @sensensenkou
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