拝啓、ライ麦畑より。

青春中毒

プロローグ

Dear my world

 俗世間では彼のような人間はニート、不良債権、と石を投げられてしまうような立場であろう。しかし、倉木 一(28)は背はピシッと伸ばし爛爛とした目を失っておらず、稀有なライ麦畑のごく潰しといえよう。中肉中背の冠を欲しいままにしていよう外観であり、吸血鬼のごとく日の光に浴びないため、アルビノのアイデンティティを犯す勢いの白い肌で臓腑を覆っていた。

 いつも通り、ドアの前にタウンワークと生きるのに困らない程度の食事が置かれていたが、タウンワークのみ外に追いやり、食事をさもありなんという風に手に取りかっこんだ。ただ、鈍感な彼は、それが最終忠告であることに気付くことはなかったようだ。

 ガチャリと音がした。何かを恐れるように無意味立てつけられた鍵が開けられたことを意味する。マスターキーを握った彼の父が、幽鬼のように立ち尽くしていた。

「そのタウンワークをとってくれたら、もしかしたらと思ったが。」

 聞きなれた父の声であったが、様子が違うことを察することができなかったようだ。

「なんだよクソジジイwwwww僕は、響たんの攻略に忙しんだが?wwww」

 父は教会で告白する罪人のように影を落とした。

「こんな風に、育ててしまった私の責任だ……」

 彼の父は国家公務員で、勤勉が服を着たような男であった。不幸であったのはあまりにも息子と彼の思考が隔絶していたことだろう。彼は、彼自身の人生を、息子の人生の幕引きを今日と決めていた。

 彼の父は、懐から鋭利な刃物を取り出し、猫背で自分の方を最期の瞬間ですら見ない愚かな息子の人生に終止符を打った。

 彼は最期すらも度し難い間抜けであった。刃渡り18cmの三徳ナイフ、果物を切るならこれに間違いなし!!とテレビで某社長が宣伝していたのを思い出したのだった。

「情弱ジジイwwwテレビに釣られるとかw……」

 それが彼の最後の言葉だった―

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