月の鏡と雪の城 僕らは夜が明けるまで卒業できない

雨森すもも

1.位置について ー来訪ー

第1話 夜が続けば月も出る(1)

 サヤは石の廊下を震えながら急いでいた。いつの間にか夜が来ていた。寒さがはらぺこのお腹に染みる。

 なんで誰も起こしてくれないの?もう夕食の時間過ぎてるよ。サヤはちょっとだけむっとしながらガラスがはまっていない、四角く穴があいているだけの窓から雪がぱらついているのを見た。通りで寒いわけだよ。サヤは羽織っていたポンチョの中で組んだ腕をさらにぎゅっと引き締めた。造った人の趣味か、それともただ単にどケチだったからかわからないが、この学園にはこんな風にむき出しで雨も雪も風も入り放題の廊下が何本もある。これさえなければ良い学校なんだけどな。サヤはできるだけ早く風の入らない所に着けるよう、さらに足を速めた。

 夏は暑いし、冬は寒い。いいことなんてなんにもない。はめてよ窓ガラス。

 でもそのおかげで、石で出来た校舎はより一層ヨーロッパのお城みたいに見えた。理由が節約にしろ、中世ヨーロッパの真似にしろ、考えた人がおかしいことに変わりない。そのせいでサヤが今震えていることも。古くなって石が欠けたりして段差ができ始めてしまった床につまづきかけながらもサヤは速度を少しも落とさなかった。

 それにしても人がいないな。そう思って、サヤは思い出す。今日から冬季遊学旅行だった。通称「冬巡礼」。サヤ達の学校では、定期的に外に出る行事が設けられている。短くても一週間、長いとひと月にわたることもある。中でも大規模なのが「冬巡礼」で、いくつかのグループにわかれて学園のほとんどの生徒が先生たちに引率され外に出ていく。だから、今が一年で一番校舎内ががらんとしている時期なのだ。

 それを思い出すと同時に悔しさも思い出す。本当は、サヤも行くはずだったのだ。去年は大吹雪でサヤ達の組の巡礼が中止になってしまったため、その分まとめてもっと長く外に行けるはずだったのだ。

 この学園は全寮制で、基本的に卒業までずっとここで他の生徒や教師たちと共に寝食を共にする。外に出る機会は、そういった行事以外にほとんどない。

 それなのに突然一昨日から出た熱が下がらず、寮官から留守番を言い渡されたのだ。あーもう悔しい。今回はサヤの知っているうちで一番沢山の生徒が巡礼に出るのだった。よくはわからないけれど、そういう年らしい、その上去年の吹雪もある。留守番なんてハズレくじもいいところだ。多分、各学年に一人か二人か、両手に収まってしまうことは間違いない。

 ということはもしかしたら食堂ももう閉まってるかも?とんでもなく恐ろしいことに思い至って、サヤは本気で走り出した。

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