不死の最強生物が蔓延る絶望的な世界で、落ちこぼれは覚醒する〜何の才能も無いと思っていたら、実は最強生物を倒せる伝説の武器を扱えた〜
齋歳うたかた
第1話 追われる少女、落ちる少年
文明の光が一切存在しない森林。
生い茂る木々が月の光を遮り、暗黒が森林を支配する。
そんな暗夜の森の奥底で、せわしく動く光が幾ばく。よく見ると、たった一つの光を多数の光が追いかけていた。
「はぁ、はぁ……あぁもう! しつこいっ!」
息を切らしながら、森林の道無き道を走る少女が一人。そのやや小柄な身体に不釣り合いなほどの巨大な荷物を背負っていた。荷物の端には、小さな洋燈がぶら下げられている。
その小柄な少女は額の汗を拭いながら、自分を追いかけてくる光との距離を確認した。
「近っ! しかも多いし! 一体、何匹いるのよっ!」
逃げる少女を追うは、狼のような形容をした獰猛な獣ども。真っ黒な毛に、鋭い牙を持つその風貌は、弱肉強食の世界にて勝ち抜く勝者の象徴とも言える。
腹を空かし、よだれを垂らす獣どもが、目の前の御馳走である少女を逃がすはずがない。着実に、少女との距離を詰めていく。
少女の荷物にぶら下がる洋燈と、暗闇でもぎらりと光る獣どもの目。それが、森林の奥で起きている、光の追いかけっこの正体だった。
「んぎゃ!? わっ、わっ、へぶっ!」
しかし、その追いかけっこは突然終わることになる。
後ろの獣どもに気を取られていた少女が、木の太い根っこに足を取られて盛大に転げたのだ。
少女の洋燈が割れて、草木に火が移る。そして、その火が少女の大事な荷物にまで届いた。
「え……? あっ、わぁ、わぁあ! 商品に火がっ、火がぁぁ!」
悲痛な叫びをあげる少女は、荷物に燃え移った火を消そうと外衣を脱いでばたばたと忙しなく仰ぐ。少女の全力の消火で、荷物の火は消えたが、獣どもが少女に追いついて取り囲んだ。
「ったく、どんだけ悪質なストーカーなのよ、あんた達……」
荷物の火は消えても、草木に燃え移った火はその勢いを止めない。草木を焼き尽くさんと揺らめく炎が、少女の姿を明るく照らす。
絹のように柔らかそうな髪に、美しく澄みきった瞳。外見だけで言えば、彼女は可憐な花のような少女だった。しかし、猛獣の牙にも負けない棘をどこか感じさせる。
「いち、にぃ、さん……全部で五匹か」
少女は獣の数を確認した後、己の荷物の惨状を見てうんざりとした顔をする。荷物の外側にぶら下げていた肉塊が、一番の被害を受けていた。
「ああ、もう、さいあくぅ! 新鮮な鹿肉だったのに……これじゃ、売り物にできないじゃない! どうしてくれんのよっ!」
少女の文句に対し、獣どもはガルルと唸り返す。
にじり寄ってくる獣どもに、少女は溜息を盛大に吐いて
「おらぁ! 覚悟しなさいっ! その毛皮も、肉も、余すところなく商品にしてやるからなぁ!!」
怒りを露わにして目一杯に叫ぶのだった。
そして、数分後。
その場で立っているのは、血で汚れた少女だけだった。
周りの獣どもはピクリと動く気配すら無く、血を流して力無く横たわっている。
「はぁ、はぁ……ったく、重労働は私の専門外っての……」
息を切らしながら、顔に付いた血を拭う少女。草木の火もすっかり消え、焦げた臭いが辺りを覆っている中、少女は倒した獣どもを引きずり、一箇所に集める。
「さて、と……今日は徹夜ね、こりゃぁ…………」
苦労して倒した獣どもの皮や牙は商品になる。獲物を捌くという面倒な作業をこれからしないといけないと想像して憂鬱になっていたところで、少女は変な気配を感じ取り、真っ暗な夜空を見上げた。
「ん……?」
暗闇の中で微光を放つ数多の星が群れて、見惚れるほど綺麗な天の川を形成する夜空。しかし、その光の帯に不自然な黒点が一つ、染みのようなものが生まれていた。
それは、ブラックホールのように周りの光を捻じ曲げ、次第に広がっていく。そして、際限なく拡大していくように見えたが、突然ぴたりと止まったかと思うと、その中心から何かを勢いよく吐き出した。
「なに、あれ?」
「うわぁぁぁ!?」
上空へ放り出されたのは、一人の少年だった。少年は突如として自分の置かれた状況にただ叫ぶしかできないようだ。無情にも落ちていく少年を、少女はその瞳を輝かせて眺める。
「突如、降ってくる男ねぇ……」
この時、少女は思いもしなかった。
落ちてきた少年との出会いが、全ての始まりであることを。
物語は、少年が空を落ちてくる数時間前まで遡る。
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