第28話 大桜祭① 颯真side

 10月。

 昼間の空に、高々と白煙の舞う花火があがり

 桜華大学学祭

大桜祭たいおうさい』の幕が上がった。


 地域を挙げてのイベント。商店街や周辺の掲示板、駅に至るまで、学祭のポスターを見ない日はない。

 

開始の合図と共に校門が開き、同時に校門前で待機していた参加者が一気に雪崩れ込み、出店から呼び込みの声が響き始めた。


「すげぇな。俺この学校の学祭来たことなかったけど、こんな客いんの?」


「えっ颯真くん大桜祭来たことないの?近いからあると思ってた。」


「あー。春佳のやつがあんまり人の多い所得意じゃないからな……。まあ俺もあんま興味なかったんだよ」


 一気に増える客足に、慌てて出店に並ぶ。


「そっか。初めてなんだ」


「なんだよ急に」


 どこか嬉しそうな雪那の頭を撫でる。無邪気に喜ぶ雪那は文句無しに可愛いな。


 色々と手伝いを頼まれていて、雪那と学祭の始まりと終わりは一緒にいようと約束し、オープンと同時に一緒に廻る。


 克哉と春佳はそれぞれ予定が入って別々……と言っても克哉とはあれから連絡を取っていない。


 今会っても、どういう顔していいのかわかんねえからな。


「颯真くん?」


「ん?どうした?」


「ううん。一瞬難しい顔したからどうしたのかなって」


 心配そうな表情の雪那が、下から顔を覗く。


「あー。ごめんごめん。ちょっと克哉のやつと喧嘩しただろ。それを一瞬考えた。悪い。」


 克哉との事は原因は話さず、ちょっと喧嘩したと雪那には話した。


 もやっとした気持ちを切り替え、雪那の手を引き次々と出店をまわった。


***


「んー。楽しかったー」


 ベンチに座り、右手で左手首を掴みストレッチをする雪那


「だな。そろそろ時間か?演劇だっけ?」


「うん。颯真くんごめんね。違う学部で仲良くなった子と体育館で演劇見るんだ。ちょっと行ってくるね」


「ああ。楽しんで」


 待ち合わせ場所に向かう雪那に笑顔で手を振り、背中が見えなくなったタイミングで立ち上がる。


「よし。何処行くかな」


 尻をぱんぱんと叩き、次の予定を考える。

 あと1時間半。


「春佳の所見に行くか……」


 校内3階の一室に長蛇の列が出来ていた。

 先頭に行き、店を確認すると、執事・メイド喫茶とストレート過ぎる店名の看板が置かれ、受付が慌ただしく用紙を先頭から順に客に配っていた。


 最後尾に並びしばらく待つと、順番が回って来た。

 受付で諸注意を受け、メニューを確認する。


 メニューを伝えると、何やら興奮を抑えた感じでインカムに何か伝えている。


 何なんだろう?


 まあこのシステムは、席が空く前にメニューを選んでもらい、少しでも回転効率をあげる良いアイデアだ。


「おかえりなさいませ。ご主人様」


 受付から合図を貰い、教室の扉を開けるとメイド服姿の女の子に出迎えられる。


「春…かか?」


 出迎えたメイドは銀縁眼鏡にメイドカチューシャの後ろで黒髪をまとめ、相応の化粧をした春佳だった。

 その姿に驚き、そしていつもとは違う雰囲気を纏う春佳に、自然と視線を奪われていた。


「颯真くん……。おかえりなさいませ。ご主人様。こちらでお寛ぎください」


 一瞬素に戻りかけた春佳は、顔を振りメイドに戻り俺を席へと案内した。


 春佳が試作に参加した数種類のクッキーと、紅茶のセットを頼むと直ぐにテーブルに用意される。

 実際には受付で注文してある。ご主人様を待たせない工夫でもあるようだ。


 春佳に用意してもらったクッキーセットを口にしながら紅茶のカップを手に取る。


「やめてください!」


 その瞬間教室に春佳の声が響いた。


「いいじゃねえかよ。メイドなんだからご主人様にもっと奉仕しろよ。ほら食べさせろって」


 振り返ると、大学生のグループの一人が春佳の手首を掴み無理矢理引き寄せようとしていた。


「おいっ!」


「おっとお客様」


「なんだよ!お前ら!」


 椅子をひき、立ち上がり春佳の元へ駆け寄ろうとしたとき、騒ぎに気付いた壁際のスタッフが間に入り、騒ぎを起こした男の肩を押さえ座らせた。


 彼らは警護役で待機している格闘系サークルの面々でだった。


「春佳!」


「颯ちゃん」


 警護の面々が春佳を遠ざけた隙に春佳を掴み、引き寄せる。


 格闘サークルの警護達が、大学生のグループを取り囲む。


「困りますねお客さん。お触りは罰金の上即退場。入場前にお知らせしてありますよね。連帯責任で他の皆様もご退室願います。」


 ガタイの良い男たちに囲まれ、先程までの勢いを失った男たちが教室から連れ出させれて行く。


 細かく震える春佳をそっと抱き寄せる。


「今日はこのまま帰ります」


 少し青ざめた春佳を、このまま参加させるわけにもいかず、対応してくれた文芸サークルの部長に春佳との関係を説明し帰る事となった。


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