第6話 颯真と雪那①
ブルっブルっブル
「おっメール」
裏で休憩前の在庫補充をしていると、携帯のバイブの揺れと共に、携帯の画面が光りメールの受信を知らせる。
雪那からか……
颯真くん
バイトおつかれさま
もうすぐ休憩でしょ?
私13時からバイトだから
一緒に駅前でお昼食べよー(≧∇≦)
「OKっと」
お昼の時間に抜けても問題ないくらいに、ゴールデンウィークに入り、学生が減ったコンビニは閑散としていた。
雪那からのメールに一言で返すと、すぐに駅前で待ってると返信があった。
「じゃあ俺、昼入りまーす」
「はいよ。ごゆっくり」
手を上げ応えたのは、接客業には不向きな茶色に染めた長い髪を纏めた2個上の先輩、
夏に向けバンドの資金を稼ぐ為、メンバー総出でバイトに励んでいるらしく、かなりの頻度でシフトに入っていて、仕事に関して色々教えてくれる頼もしい先輩だ。
コンビニを出ると、すぐに駅前広場の像の近くに立つ雪那を見つける。
フレアスカートにカットソーを着こなした彼女はその容姿を含め、非常に目立つ。
そのため周囲の何人かは彼女をチラチラと視線を送っている。
「お待たせ」
「ううん。私も今きたところだから全然待ってないよ。それよりも時間ないから早く行こっ。ほらほら」
定番のような挨拶を交わすと、雪那が背中を押し催促する。
「わかった。わかった。押すなって。で、何食べる?」
「ん〜。パスタ!カルボナーラが食べたい!」
こう言ったときに何でも良いと言わない雪那のはっきりとした性格は本当に助けられるな。
「じゃああそこの生パスタの店行くか。チャルム」
「うん!私もそこかなって思ってた。チャルム行こ!」
***
建物の地下にある少し暗い感じの店内。
いつもは、学生で満席の店内に並ぶ事なく、席に案内される。
そう言えばいつも4人だし、2人だと結構早いのか?
「ではお決まりになったらベルを押して下さい」
「はーい。颯真くんは何にする?私はカルボナーラに生卵トッピングで!」
雪那はいつも女の子にしては、カロリー高めのチョイスだ。下手に太るからサラダだけでとか言わないから一緒に食べても楽しい。
「じゃあ俺は定番のナポリタン特盛。厚切りベーコントッピングで。ランチドリンクは?」
この店は毎日ランチタイムには特盛り無料。厚切りベーコンは100円増しだが、さらにミニサラダとドリンクも付いて900円だ。食べ盛りの学生には生パスタがこの値段なら本当にありがたい。
「えっと…紅茶かなアイスティー」
「了解。俺はジンジャーだな」
いつものようにベルを押して、二人分の注文をすると10分程で注文が揃った。
学生がメインのこの店の提供スピードは驚くほど早い。
「「いただきます」」
すでにミニサラダを空にしていたが、やはりメインがくるともう一度言いたくなる。
二人でもう一度手を合わせると、湯気を思いっきり吸い込む。ナポリタンの酸味の効いた甘いケチャップの香りが鼻腔の奥を刺激する。
フォークに一気に巻き取り口に運ぶと、ナポリタン特有の甘味と旨味が口いっぱいに広がった。
うまい
もう一口と思いフォークをパスタに刺したその視界の先に、雪那がゆっくりと巻くフォークがうつる。
そのまま顔を上げると、耳に掛けた髪を左手で抑えながらパスタを口に運ぶ雪那の姿。
少し染めたウェーブのかかった長めの髪を抑えながら食べる姿に一瞬顔が熱くなり、鼓動が速くなった。
そう言えば雪那と二人でここにくるの初めてだな……。
それにいつもと少し服の印象も違う?いや化粧が違う?
「んっどうしたの颯真くん?」
「えっ?いやなんでもない。雪那と二人でメシくるの初めてだな〜って思ってさ」
「むっ。今頃気付いたの?私誘うの結構勇気出したんだからね!そんな颯真くんの罰として……こうだっ!」
そう言うと雪那がナポリタンのパスタの山の端にフォークを刺し素早く巻き付け口に運んだ。
「ん。美味しい。ここのナポリタンは初めてだけど、美味しいね。はい。私のカルボナーラもあげるね」
そう言ってカルボナーラを巻き付けたフォークを差し出した。
「えっと…」
「もう。早く口開けて」
雪那は少し頬を赤く染め、目の前に差し出したフォークを軽く上下に揺らす。
「それじゃあ……」
「どう?」
「うまいな。これも」
「でしょでしょ。ここのカルボナーラ美味しいよね。あっ早く食べないと。そうだ颯真くん明日も同じ時間でしょ?また一緒にご飯どう...かな?」
「そっそうだな」
***
食事を済ませて、時間ギリギリまで店で過ごし、雪那をバイト先のレストラン近くまで送る。
雪那がレストランに入る手前で振り返ると、こちらに微笑みかけ、手を振った。
そのまま雪那がレストランに入るまで手を振り、コンビニへと戻った。
「ただいま戻りましたー」
「おっ帰ってきたか。どうした?ポケっとして。さては可愛い子でもいたな⁈このヤロー」
コンビニに戻ると、そう言うネタには敏感な先輩に髪をぐしゃぐしゃにされる。
そして、可愛い子と言われドキッとしてしまう自分がいた。
「やめて下さいよ。先輩。ちょと友達と会っていただけですよ。さっ次は先輩が休憩どうぞ」
先輩の腕から解放され、髪の毛を直す。
「ふーん。まあいいけどよ。んじゃ行ってくるわ」
「はーい」
さっと薄手のパーカーを羽織り裏口から出て行く先輩を見送ると、一人レジに立ち自分の胸に手を当てる。
一瞬、頭に浮かぶ雪那の髪を耳に掛け食べる姿、そして別れ際のあの微笑みにまた顔が熱くなり鼓動が早くなる。
俺、なんかおかしいな。
「はぁー」
春佳以外の女の子と、ご飯なんて久しぶりだったから緊張してたんだろうな。
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