第28話 診療室
「ちわーす」
診療室が出来たと言うので、俺は建物の1階の入り口に来ていた。
「あれ?」
いつもの様に、中に入り奥の階段を上ろうと進んでいくと、上り口が板で塞がっていた。
正確には、板をよければ上がれるのだが、ぱっと見は行き止まりになっている。
「ドンクさ~ん、なんで階段を塞いでいるんですか?診療室が出来たって言うから、見に来たんですけど」
男湯の方で作業をしていたドンクさんに、俺は声をかけた。
「おー坊主か。1階の作業中に邪魔されるとかなわねえからな、診療室へ直接行けるように外階段を仮で作っといた」
「マモルさん違いますよ、本当は患者さんが怪我したり、危ないからって、師匠が別に動線を確保しといたんです」
ドンクさんの言葉を、トムさんが説明してくれる。
「ば、ばか!いちいち説明するんじゃねえ!」
『ポカ!』
「痛いじゃないですか!」
「痛いように叩いているんだ!」
「ハハハ、ありがとうございます。じゃあ、ちょっと見させてもらいますね」
「ああ、勝手にしろ!」
俺は、ドンクさんたちに手をふって、一旦建物の外に出ると、裏手へまわった。
「ああ、これか」
裏手へまわるまでもなく、外階段は建物の横側にあった。
木で作った、階段というか梯子に近いそれを上っていく。
これまた仮の入り口のドアを開けると、直接、待合室に入れた。
「ま、ここはこんな感じだよな」
待合室の広さは4畳半ほどで、椅子が10個並んでいる至ってシンプルな作りだ。
それと、診療室へと続くドアの前に、受付用の小さな机と椅子がある。
「観葉植物的な、緑でもないと殺風景だな」
俺はそう呟きながら、診療室へのドアを開けてみる。
「なるほど。いい感じじゃないか」
20畳ほどの広さを、衝立でいくつかに区切ってあり、一番広い区画に大きな机と丸椅子が置かれている。
その机の隣には、もう一つ丸椅子がある。
そして、他の区画にはそれぞれベッドが置いてあり、全部でその数は3つだった。
大きな窓からは、明るい日差しが十分入る様になっている。
待合室も診療室も、壁は白で統一されており明るく清潔感がある。
「思ってたよりかなり立派になったなあ」
医者でもないのに、こんなところで働いていいのだろうか?
俺のアバウトな注文に、見事に応えるドンクさんの再現性の高い仕事に、俺はちょっと気後れしてしまった。
「・・まあいいか。形から入るのも重要だよな」
俺は自分にそう言い聞かせて、1階へと戻ることにした。
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