第26話 日常



「はい、これで治りましたよ。次からは気を付けてくださいね」


「ありがとうございます」


森で、足を滑らせて崖から落ちて右足を骨折した、猟師のランスさんを治療して、今日の診療は終了した。


この1ヶ月、毎日診療を続けてきたおかげか、1日の患者さんの数は目に見えて減り、だいたい平均1日5人以下となっていた。


特に、病気の人はほとんどいなくなり、大抵が怪我人だった。


村民の健康が増進されたのは良かったと思う。


この世界の生活では、怪我はどうしても付きものだし、怪我が原因で死に至ることもある世界なので、十分貢献していると思う。


健康増進と言えば、風呂も健康増進に大いに役立つものだと思う。


まず第一に、体を清潔に保つことができるし、温浴効果も免疫力の向上など色んな効能が期待できる。


まあ、いまのところは、その効果に浴せるのは、村長一家と金持ち連中といった、一部の村人たちだけなんだけど、いま建築中の銭湯が出来れば、多くの村人たちが、入浴の効用を受けることが出来るようになると思う。



俺は集会所を後にすると、いつものように風呂のお湯を供給してまわった。



「よし、ここで最後か」


10軒目の風呂にお湯をため終わると、俺は中央広場へと向かった。



「外からはよく分からないけど、トンカチやノコギリの音、木くずの匂いで絶賛建築中なのがわかるな」


目の前にはレンガ造りの、立派だが古めかしい2階建ての建物。


「いよいよ始まったという感じで、なんかワクワクするな」



前の世界での仕事は、平たく言えば、『温泉旅館の立直し屋』だった。


様々なニーズや、地域の実情、特産品や特産物、色々と調べ上げた上で、どうすればその旅館が魅力あふれるおもてなしの空間になるのか、プランを立案し、それを形にしていく。


そんな長い過程の中で、俺はこの音と匂いが好きだった。


何かが生まれる息吹を感じさせてくれるのが、この音と匂いだったから・・。



「お疲れ様でーす」


俺は建物の中に入り、音のする方へと向かった。


「おう、坊主。作業は順調だぞ」


ドンクさんが、ノコギリの手を休めて俺の方を振り向いて言った。


「いい加減、名前で呼んでくださいよ」


「何を言っている、100にもなっていない奴は、みんな坊主だ」


「無茶苦茶な!」


「ワハハハハ!」


俺の突っ込みに、楽しそうにドンクさんが笑った。


「あ、そうだ!これをぞうぞ、よかったら飲んで一休みしてください」


俺は、カップに冷水を生成してドンクさんに渡す。


「お弟子さんたちもどうぞ」


他に3人いた、ドンクさんのお弟子さんたちにも、カップを渡していく。


「おう、ありがとうな」


「「「ありがとうございます!!!」」」


カップを受け取ると、一斉に飲み干した。


「「「うまい!!!」」」


「なんだこれは!えらい冷えてうまいじゃないか?!」


ドンクさんが、俺を凝視して叫んだ。


「水魔法ですよ。風呂にお湯を入れるのの応用です」


「そんな水魔法があるか!ったく、この坊主はどうなっているんだか・・」


「いいじゃないですか、これの応用でエールもキンキンに冷やすと、これがまた・・・」


「なんだとーーー!!!」

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