第15話 思いつき



「ただいまー」


「あら、おかえりなさい。今日は少し遅かったのね」


ベイルの宿に戻ると、シンシアさんが受付で帳簿付けをしながら言ってきた。


「ええ、ちょっと村長のところに」


「そう。夕飯の用意はもうできてるから、いつでもいいわよ」


「はい、ありがとうございます」



夕飯を食べて部屋に戻ると、いつもの日課のからだ拭きをしようと、タライの水でタオルを濡らした。


「そういやこの世界に来てから、風呂に入ってないなあ」


タオルを絞りながら、独り言ちる。


シンシアさんにきいたら、この世界では風呂はないらしい。


というか、風呂というものに入る習慣がないから、風呂そのものを知らないらしい。



「まてよ・・」



俺のスキルって、なんだっけ?


◇◇◇◇◇◇◇◇


スキル 【温泉】


◇◇◇◇◇◇◇◇


だよね。



「そもそも、なんで【温泉】なわけ?」


温泉にいて異世界に飛ばされたから?


温泉好きだから?


よくわかんないけど、このスキルの能力って・・。


◇◇◇◇◇◇◇◇


〈水魔法〉

水を生成し消滅することができる。

レベル3で最大30L

消費MP1(生成・消滅セットでも片方でも消費MP1)


〈火魔法〉

熱を操ることができる。

レベル3で30kgの水を最大36度に熱せられる熱を操れる。

消費MP1


〈土魔法〉

任意の鉱物を生成することができる。

レベル3で3種類最大30kg

消費MP10


〈回復魔法〉

あらゆる症状を癒すことができる。

レベル3で軽度~軽中度の傷病の治癒

消費MP10


〈収納魔法〉

時間停止で物を収納できる。

生物不可。

レベル3で脱衣所程度の容量

消費MP1


◇◇◇◇◇◇◇◇


だよね・・。


最近、回復魔法のことばかり気にしてたから、忘れてた。



「・・・なんかできる気がしてきた。少なくとも風呂くらいは」


よし!


きょうのところは、このタライを使って足湯にして、明日あれを買いに行こう!


「ヒート」


俺はタライの水を温めると、椅子に座って両足を突っ込んだ。


「あったけ~~」


ぬほほ、極楽極楽!


これは、明日が楽しみになってきた!


じゅうぶん足湯を楽しんだ俺は、早めにベッドに入った。




翌日、いつものように治療を終えた俺は、例のザイルばあさんの店へと向かった。


「でも、あの店にあったかなあ?」


お目当てのものがあるか不安に思いながらも、店の前まで来た。


「ごめんください」


ギギギギと、きしむ音をさせながら扉を開く。


「あいよ」


例によって売り物に埋もれて、ザイルばあさんが帳場のカウンターから返事をする。


「あのー、#タライ__・__#ありますか?」


俺は店内を見回しながら、カウンターに向かって尋ねる。


「ん」


ザイルばあさんが、杖で壁際の棚を指した。


棚には、色んな種類のタライが積み重なっている。


「もっと大きなものが欲しいんですけど」


「そんな大きなタライが必要なのか?独り身じゃろ?」


どういうこと?


・・そうか、普通大きなタライって洗濯に使うのか。


だから、大きなタライは大家族用。


俺は独り身・・。


「そ、そうですけど。ちょっと使い道がありまして・・」


「ふん。どんな使い道か知らんが、そこの棚の陰の方にたてかけているのがあるじゃろ」


ここの陰の方?


「ありました!」


並んだ棚の間の一番奥の方に、たしかにたてかけて置いてある馬鹿でかいタライがあった。


直径は100cmほどで、深さは30cmくらい。


いったい、何に使うやつなんだろう?


「これください」


「25000セム」


たっか!




「まいど」


一応言うのね。


大阪商人みたいだけど。



俺は、タライを抱えて表に出ると、周りの人たちの注目を浴びながら宿へと戻っていった。


・・が。


あまりに目立つし、重いので、路地裏の建物の陰に入り込んで例の詠唱を唱えた。


「ストレージ」


するとたちまち、あまりに大きなタライが、目の前から消えたのだった。



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