第9話 お買い物


「これでようやく落ち着いて行動できるな」


ベイルの宿にチェックインした俺は、まだ日が高い(というか昼前だ)ということもあり、宿の外に出た。


「マモルおにいさん、これからどこに行くの?」


雑貨屋と宿に案内してくれたハサンさんとはすでに別れており、一緒についてきたミミがトコトコと並んで歩きながら聞いてきた。


「そうだなあ・・この服をなんとかしないとかな」


俺は来ているスーツを眺めて言った。


転移なのか転生なのかわからないけど、持ち物と服はそのままこっちの世界に来たんだな。


「その服、不思議な服だよね~。ミミも生まれてから一度もそんな服、見たことないもん」


5才児に『生まれてから一度も』って言われても、微妙なんだが・・。


でも。


「たしかに、周りの人たちから注目浴びてる気がするものなあ」


「だったら、新しい服を買って着替えたらいいんじゃない?」


ミミが二かっと笑った。


「新しい服か!それはどこで売っているんだ?」


「う~んとね、さっきのザイルばあちゃんの店!」


「ああ、さっきの雑貨屋さんか」


「そう!」


「じゃあいってみるか」


「は~い」


俺たちは、さっき銀塊を換金した雑貨屋に向かった。





「ごめんください」


「ザイルばあちゃん、また来たよー!」


店に入ると、それほど広くない店内なんだけど、色んな商品が所狭しと陳列してある。


「おや、どうした?わすれものかい?」


帳場のカウンターに、商品に埋もれる様に座っているザイル婆さんが、眠たげな眼をあげた。


「ええ、忘れ物というか、服を買いたいと思いまして」


「ああ、そのなりじゃあな。男物の服はそっちの角にあるから、適当に選んで持ってきな」


ザイル婆さんは、持っていた短い杖で店の反対側の角を指示して言った。


「わ、わかりました」


「ミミがえらぶー!」


俺が戸惑いながら、そちらの方に行こうとすると、ミミがなにやら嬉しそうに向かっていった。


俺は苦笑しながら、そのあとを追った。


「う~ん、これかなー?それともこっちかなー?こっちもいいよねー」


うずたかく積まれている服の山に突入したミミは、その中でゴソゴソとなにやら掘りだしていた。


「ミミ、売り物をあんまり乱暴に扱うと・・」


「あったー!これーー」


服をつかんだ右手を突き上げて、服の山から飛び出したミミが叫んだ。



「へー、なかなかいいな」


ミミの持ってきた服を試着し、俺はつぶやいた。


「でしょー?」


超得意げな顔をして、ミミが二かーっと白い歯を見せる。


「決まったかの?」


「はい、これにします。お代はいくらですか?」


「8500セム」


げっ、残金が1500セムになっちまう。


また銀塊でも売るか?


「その靴と、着ていた服を買い取ってもよいぞ。そうじゃな、全部で50000セムでどうじゃな?」


所持金が少ないのはバレバレだものな。


「分かりました。じゃあ、新しい靴もください。それと、下着みたいなのってありますか?」




「結構買ったなあ」


店を出た俺は、両手にぶら下げた荷物を見て言った。


結局、替えの分の服とか下着とか、身の回りの雑貨とか・・それからミミにお礼のプレゼントで帽子とか色々買ったのだった。


「えへへ~」


ミミはご満悦である。


こりゃあ、持って帰るの大変だ。



『ピコン』

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