第12話 不良たちが来た結果……
北高の玄武の登場に、不良たちはどよめいた。さらに、不良Bと不良Cもバイクで駆け付け、不良たちをにらむ。
「てめぇら、何してるんだ!」と不良Bの怒声が飛ぶ。
「いや、兄貴の敵を討とうと……」と不良Dは口ごもる。
「玄ちゃんはそんなこと頼んでねぇぞ!」と不良Bはさらに語気を強めた。
「しかし、兄貴!」と不良Eが不良Bを見返す。「玄の兄貴がやられたと聞いて、俺らも黙ってはいられなかったんです」
「その気持ちはありがたい」と北高の玄武。「でも、やり方ってものがあるだろう?」
次郎は、不良たちのやり取りを見ながら思った。
(説教なら、他の場所でやってくれないかなぁ……)
正直、迷惑である。次郎のその視線に気づいたのか、北高の玄武は寝転がる不良たちを見て言った。
「とりあえず、ここからは撤収だ。話は学校に戻ってからする」
「ほら、早く立て!」
不良Bに促され、不良たちは慌てて立ち上がる。
北高の玄武が、バイクから降りて次郎のもとへやってくる。
「すまなかったな」と北高の玄武は律儀に頭を下げる。
「まぁ、べつにいいんですけど」
良くはないけど、それ以外の言葉が見つからなかった。
遠方からサイレンの音が聞こえた。西の空から、箒に乗った人影がやってくる。
「ポリ公が来たか」
北高の玄武は空をにらむ。
「早く、逃げたほうがいいんじゃないですかね?」
「そうだな」
北高の玄武はバイクに戻ろうとする。が、振り返って、次郎を見る。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったな」
「……佐藤太郎です」
知らない人には偽名を伝えることにしている。
「俺は倉持玄太だ。また会おう」
いや、もう会いたくないだが。そんな次郎の気持ちをよそに、玄太はバイクにまたがって、走り出した。他の不良たちもそれに続き、校庭に土煙が舞い上がる。
「そこの高校生、止まりなさい!」
駆け付けた警官たちが、不良たちの後を追って、飛んで行く。次郎は警官を見送り、ため息を吐いた。
「やれやれ、面倒な連中に目をつけられたな」
再び襲撃されたら面倒だ。いっそうのこと、完膚なきまでに潰すのもありかもしれない。そんなことを考えていると、「次郎君!」と声を掛けられた。振り向くと、花代が心配そうな顔で立っていた。走ってきたのだろう。息が上がっている。
「大丈夫?」
「ええ、まぁ」
花代はホッと胸を撫でおろす。
「それは良かった……」
「おい! お前!」と肉体派の体育教師が厳かな雰囲気でやってくる。「話がある! 生徒指導室まで来い!」
その強気な態度を不良たちに向けろよと思ったが、教師という生き物に期待しても無駄であることを理解しているので、次郎は大人しく従う。
生徒指導室にて、不良たちがやってきた経緯について話す。次郎は、暴走した不良たちが一方的に悪いと考えていたが、不良に喧嘩を売った次郎にも責任があるということで、一週間の謹慎処分が下った。
☆☆☆☆☆
その日の放課後、次郎は不貞腐れた顔でコーヒーを飲んでいた。
「謹慎なんじゃないの?」と恵麻。
「明日から」
「ふぅん。学校では、あなたのことがとても話題になっていたわ。良かったじゃない。人気者になれて」
「あんなんで注目されてもなぁ」
次郎は苦虫を嚙み潰したような顔で答える。
(それよりも……)
次郎は気になることがあった。恵麻がサングラスをかけていたのだ。父親のサングラスよりも薄い色のレンズだが、何故彼女はサングラスをしているのだろう。気になるものの、言いたくない理由があるかもしれないので、次郎は質問できずにいた。
すると恵麻は、次郎の視線に気づいて、ふっと笑う。
「なぜ、私がサングラスをかけているのか知りたいんでしょ?」
「え? まぁ、うん」
「あなたの考えていることはわかるわ。『心の目』で見ているからね。私は今、心の目を鍛えているの」
恵麻はどや顔で語る。
「……なるほど」
そういう年ごろなのだろう。無粋な気がしたので、次郎はそれ以上、何も言わないことにした。
そして、コーヒーを飲みつつ、読書をしていると、入り口の方から鐘の音がした。来客である。次郎が目を向けると、明るい髪色でポニーテールの女の子が立っていた。制服から察するに、中学生である。
彼女は、次郎を認め、微笑んだ。
「あなたが、お姉ちゃんの気になる人ですか?」
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