第11話 次郎 vs 不良

 落下する次郎。杖を握って、呪文を唱える。

「”瞬間移動テレポート”」

 次郎は校舎の3階から校庭まで一瞬で移動し、不良たちの前に着地した。

突然現れた次郎に、不良はどよめく。

 そんな不良に、次郎は言った。

「もしかして、俺のことを探していましたか?」

「お、おう、そうだ!」と不良Cが声を荒げる。

「そうですか」

 次郎はホッと胸を撫でおろす。勘違いだったら、恥ずかしい思いをするところだった。

「それで何の用ですか?」

「てめぇ、昨日、玄の兄貴に恥をかかせただろ! 俺はそれが許せねぇ。だから、兄貴のためにも、今日はお前を殺す」

「こいつが、玄の兄貴をやったのか?」と『金属バット』を持った不良Dが言った。

「ああ、そうだ」

 不良Dは値踏みするように次郎を眺め、鼻で笑った。

「全然、そうは見えねぇな」

「気をつけろ。こいつは、そうやって油断させているんだ」

「油断させるつもりなんてないんですけど」

 次郎は眉根をよせる。相手が勝手に油断しているだけだ。

「その余裕がいつまでもつかな」と不良Cはにやり。「今日はNG4、そして、兄貴の親衛隊が集結しているからな」

「っし」

「ふー」

 ゴキゴキと不良Cの後ろに控える強面の不良たちが首を鳴らした。

 次郎は不良たちを観察しながら言った。

「NG4?」

「そうだ。ネクスト玄武。つまり、次の玄武候補のことだ」と不良Cは胸を張る。その胸には、ブロンズの称号があった。

「おいおい、あまり調子に乗るなよ、田辺。次の玄武は俺だ」と言う不良Dの胸にはシルバーの称号。

「けけけっ、田辺はNG4でも最弱だからな」とソフトモヒカンの不良Eが笑う。その胸にはブロンズの称号。さらに、その隣に立つ寡黙なイケメンの胸にもブロンズの称号があった。

「ビビッて、何も言えなくなってやがるぜ」と不良Eは次郎を笑う。

 しかし次郎はビビっているわけではない。正直、興味なかった。ゴールドですら、思ったほど強くないことを学んだからだ。

「で、どうするんですか? 今日もタイマンですか?」

「あぁ」と不良Cが答える。「ボコボコにしてやるよ」

 不良が指を鳴らしながら進み出る。その手には『グローブ』がはめられていた。

「もしかして、一人ずつ戦うつもりですか?」

「おぅ、そうだ」

「面倒なので、全員、まとめて相手しますよ」

「あぁ? 舐めてんのか?」と不良Dが次郎をにらみつける。

 次郎は面倒くさそうに不良Dを見返す。

「何人束になったところで、俺には勝てませんから」

「あぁん?」と不良Dの額に青筋が浮かぶ。「上等じゃねぇか、なら、お望み通り袋叩きにしてやんよ!」

「けけけっ、ママに泣きつく準備でもしておくんだなぁ」

 ぶんぶーん! と親衛隊がバイクをふかし、不良EとF、その他の不良たちもバットや杖などの武器を手にした。

 そして、「行くぜ、おら!」という不良Cの掛け声がきっかけで、不良の波が次郎に襲い掛かる! ある者は拳を光らせ、ある者はバイクを走らせ、ある者は後方から火球を放つ。 不良たちのむき出しの敵意が次郎に向けられた。

 が、次郎は淡々と杖先を向け、呪文を唱えた。

「”吹き飛べブロー”」

 空が爆ぜる音。杖先より放たれた強風は、不良はもちろんのこと、バイクや火球すらも飲み込んで、吹き飛ばした!

「「「「「ぐわあああああああ」」」」

 弧を描いて落下する不良たち。仰向けだったり、うつ伏せだったり、体勢はいろいろだったが、不良たちが地面に転がる。

「つ、つぇぇ」と不良E。そこに、先ほどまでの余裕はない。

「くそが」と不良Cも顔を上げ、気合で立ち上がろうとする。「でも、兄貴のためにも負けるわけにはいかねぇ」

「そうだ」と不良Dもゆっくりと立ち上がる。「俺たちにはなぁ、『プライド』ってもんがあるんだ」

「まだやるんですか?」

 次郎はため息をついた。彼らの執念は尊敬するが、べつのところで発揮してほしいと思う。

(どうしようかなぁ)

 次郎的には、穏便に諦めてほしいのだが、このままでは難しそうである。

(とりあえず、吹き飛ばしておくか)

 次郎が不良たちに杖先を向けた瞬間、校庭に野太い声が響いた。

「止めろ!」

 新たなバイクが現れ、次郎と不良たちの間に割って入った。ドライバーのリーゼントが風に揺れる。現れたのは、北高の玄武だった!

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