第2話 友達を作ろう!

 19xx年。人間は魔法が使えるようになった。世界は、国際魔法機構を設立し、魔法の安全な利用方法について議論した。その結果、魔法の使用およびその研究は、各国の特別区域でのみ行うことができる『魔法特区条約』が締結された。そしてできたのが、魔法都市である。当初、魔法都市には欧米の街並みをイメージした建築物が多く作られたが、再開発に伴い、最近はビルなどの近代建築も増えた。また、魔法都市は学園都市としての機能も有しているため、学生が多いのが特徴である。そして魔法都市の学校に通う生徒は、伝統的に各学校の校章が入ったマントを羽織ることが多い。(『学園都市としての魔法都市』より引用)



☆☆☆



 地方の小学校に入学してから3か月。次郎に友達はいなかった。だから、昼休みとか放課後とか暇なので、図書室に行って本を読むようになった。そして、『きょうから始める魔法の本』を読んで魔法に興味をもつようになり、暇なときはいつも魔法の勉強をするようになった。

 それから時が経ち、次郎は魔法都市の中学校へ進学、高校も魔法都市の学校へ進学した。高校生になってから、約一年と一か月が経ったが、次郎には、相変わらず友達がいなかった。

 そんなある日、次郎は担任の花代に、職員室へ呼び出された。何だろう? と思って、行ってみると、花代は心配そうな顔で言った。

「次郎君。あのね、私が次郎君の担任になって、一か月が経ったわけだけど、先生は一か月間、次郎君を見ていて思ったことがあるの」

「何ですか?」

「次郎君は、どうして皆と仲良くしないの?」

 花代の容赦ない一言に、次郎は言葉が詰まる。目の前の、眼鏡をかけた、若くて優しそうな女性を見て、次郎は思った。

(もう少し、オブラートに包んだ言い方をしてほしいな)

 次郎が沈黙していると、花代は話を続ける。

「次郎君。先生はね、次郎君みたいな人を救いたいから、先生になったの。先生も、学生の頃は友達が少なくて寂しかった。だから、生徒には同じ思いをしてほしくないの」

「……なるほど」

「次郎君。私には心を開いてほしいな」

「べつに閉じているつもりはないんですけど」

 次郎は戸惑いながら、首の後ろに手を当て、考える。

「……まぁ、俺が仲良くしない理由は、周りが俺に興味ないからですね」

「興味がない?」

「例えば、目の前に可愛い子犬がいたとします。その子犬に興味があるなら、子犬と飼い主に対し、声をかけるじゃないですか。でも、俺にそうやって接する人がいないということは、俺に興味をもっている人はいないってことじゃないですか」

「確かに。でも、それはきっと、次郎君が周りに興味をもっていないからだよ」

「俺もそんな風に考えて、歩み寄る努力はしました。でも、結論から言うと、仲良くはなれませんでした」

「何で?」

「知りませんよ、そんなこと。考えられるのは、俺と周りの価値観が違いすぎて、ノリが合わないとかですかね。ほら、世の中の人ってノリとかを大事にするじゃないですか? でも俺にはそれがなかった。だから、周りと仲良くできそうにないので、俺は仲良くなることを諦めて、自分の世界で生きることにしたんです」

「そこで諦めるからダメなんじゃないの?」

「そうかもしれません。けど、俺は人間関係で悩むために、この場所へ来たわけではないので、余計なストレスはさっさと切り捨てようかなって」

 じわっと花代の目に涙が浮かぶ。次郎は「えぇ……」とドン引きする。突然、泣き出したので、わけがわからない。

 花代は、目元をハンカチで拭いながら言う。

「ごめんね。次郎君が、そんなことで悩んでいたなんて知らなくて。何もできなかった私が悔しい」

「何もできないって、一年の頃は、別のクラスの担任だったじゃないですか」

「それでも、同じ学年の生徒だったのだから、気づいてあげるべきだったわ。よし、わかった!」と花代はこぶしを力強く握る。「先生に任せて!」

 大丈夫なのか? と次郎は不安に思ったが、水を差すのも悪いので、余計なことは言わないことにした。

 そして三日後、再び花代に呼び出される。職員室には、使命感に燃える花代がいた。

「次郎君。準備ができたよ!」

「準備?」

「ついてきて」

 意気揚々と花代が歩き出したので、次郎はそれについていく。

「それで、俺は何をすればいいんですか?」

「次郎君みたいな子が、友達を作るためには、部活に入るのが一番だと思うの」

「部活? いやいや、絶対に無理でしょ。集団行動とか、俺の苦手とするところですよ」

「うん。だから、普通の部活じゃなくて、ちょっと変わった部活に入ればいいんじゃないかなって」

「変わった部活に入って、友達を作るとか、10年前のアニメじゃないんだから」

「そう!」と花代は目を輝かせる。「まさにそんな感じ! 先生は、ああいう青春に憧れていたの!」

「……なるほど」

 花代の純粋な瞳を見て、次郎はそれ以上、何も言えなくなった。

 そして花代は、部室棟にある部屋の前で足を止める。

「次郎君。とっても可愛い子がいるから、ビックリしないでね」

「はい」

 次郎は、変わった部活に入る可愛い子なんて都市伝説だろうと思った。が、花代が扉を開けた瞬間、息をのんだ。

 窓際の椅子に座って、本を読んでいる少女がいた。透き通るような銀髪をツインテールにした少女。活字を追う切れ長の目つきからは知性を感じる。少女は二人の存在に気づいて顔を上げる。目が合って、次郎は思った。都市伝説って本当にあるんだ、と。

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