周りの見る目がないせいで不遇な扱いを受けていましたが、どうやら俺は最強みたいです。

三口三大

第1話 プロローグ

 魔法都市の第9地区で爆発が起きた。

 とある工事現場で、コンテナが吹き飛び、黒煙が上がる。爆発現場の近くに、金髪の少年が立っていた。臥龍院蓮司がりゅういんれんじ。最強ランクである『プラチナ』の称号をもち、『次元の魔王』と呼ばれている魔法使いだ。

 爆炎を眺めながら、蓮司は呆れ顔で杖を下した。

「余計なことに首を突っ込まなかったら、死なずに済んだのに」

 やれやれと蓮司は肩をすくめる。実力を勘違いした馬鹿が、自分に挑んでくることは今に始まったことではない。たとえ最低ランクノーランクでも、勢いとプライドだけ勝とうとする連中はたくさんいる。そんな奴らを相手にするたびに思う。過信しなければ、もっと長生きできただろうに、と。

「これだから、身の程知らずは……」

 と言いかけ、蓮司は眉をひそめる。

 煙に人の影が映った。

 風が吹き、煙が晴れる。そこに一人の少年が立っていた。黒髪で、憂いを帯びた表情の少年。少年は、爆発に巻き込まれたはずなのに、制服に傷一つついていなかった。

「ほぅ」と蓮司は目を細める。「少しはできるみたいだな」

「うん。まぁ」

 少年は、煩わしそうに首の後ろを撫でると、蓮司に杖を向け、呪文を唱えた。

「”吹き飛べブロー”」

 ふん、と蓮司は鼻で笑う。ノーランクの魔法など効くはずがない――と思ったのに、蓮司の体は吹き飛び、コンテナに叩きつけられた。

 呆然とする蓮司。今、自分の身に起きたことが理解できなかった。最強プラチナである自分が、雑魚の魔法をくらった? そんなわけない。あまりにも現実離れした話であるから、蓮司は笑い出した。

「俺としたことが、つい、うかっり、手を抜いちまったみたいだ」

 蓮司は立ち上がって、杖を少年に向けた。そして、殺意に満ちた瞳で呪文を唱えた。

「”吹き飛べブロー”」

 『』を見せようと思った。が、少年に向けて放った風の塊は、少年が再度放った風の塊にかき消され、蓮司の体は再びコンテナに叩きつけられた。

「がはっ」

 衝撃で肺の空気を吐き出す蓮司。それで、ようやく理解した。自分が、”吹き飛ばし”の魔法で、目の前の雑魚ノーランクに負けたことを。と同時に、額に青筋が浮かび、引きつった笑みを浮かべる。

「あぁ、わかったぞ。てめぇ、本当はプラチナのくせに、ノーランクのふりをしているやつだな?」

「いや、普通にノーランクだけど」と少年は答える。

「あぁ、はいはい。そうやって、俺を欺こうとしたって、無駄ってわけ。俺は、わかっているから」

「本当にノーランクなんだけどなぁ。『白金の七人衆プラチナ・セブン』に俺みたいな日陰者はいなかったでしょ?」

「あ? ほかの雑魚の顔なんて覚えてねぇよ」

 少年は面倒くさそうにため息を吐いた。その態度に、蓮司はカチンとくる。

「初めてだぜ、俺をここまで馬鹿にしたやつは。だから、決めた。てめぇは、楽には死なせない」

 蓮司は杖を構え、唱える。

「”時よ、止まれ”」

 蓮司を中心に、世界が灰色に染まる。時が、止まった。ゆらめく炎も、空に昇る黒い煙も、何もかもが停止し、その世界で動けるのは、蓮司だけ。――のはずなのに、もう一人、動ける人物がいた。

 蓮司に対峙する少年である。少年は興味深そうにあたりを見回した。

「なっ」と蓮司は目を見開く。「馬鹿な! 時は、止めたはず」

「時は止まっているよ。俺の時間は止まっていないというだけで」

 蓮司は、少年に杖を向けて叫んだ。

「”終焉の黒ブラックホール”」

 少年の周りの空間がゆがみ、電流を走らせながら、空間が捻じ曲がる。ねじれの中心に黒点ができて、点は周囲の空間を飲みながら、大きくなり始める。”終焉の黒”。すべてを飲み込む破壊の魔法だ。

 ――が、少年が杖を振ると、ガラスが割れるような音がして、黒点は消滅した。世界は色を取り戻し、時が、動き出した。

 少年は静かに口を開く。

「”強制終了キル”。――まぁ、この世に未練とかはないけど、まだ、やりたいことはあるんで、あんたの魔法は中止させてもらった」

「なっ! てめぇ、ナニモンだぁ! なぜ、俺の魔法を打ち消すことができる!?」

「なぜ、と言われると難しいな。俺の方が強いとか?」

「馬鹿な! ノーランクのお前が、俺より強いだと!?」

「まぁ、少なくとも、現状だとそうなっちゃうね。なんか、ごめん」

「あぁん? ノーランクは嘘だろ!? てめぇがノーランクなわけがない!」

「いや、ノーランクだけど」

「何でノーランクなんだよ」

「それは、まぁ、俺が日陰者だからかな。俺に興味をもっている人間は誰もいないから、俺の実力を正しく認識できている人間は誰もいないってわけ。それに、俺みたいな、友達もいない寂しい奴に、プラチナとか、ゴールドとか、光の住人が身につけるキラキラランクは似合わないじゃん?」

「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」

「すまん。べつにふざけているつもりはないんだわ。俺に友達がいないのは事実だし、誰も俺に興味がないのも事実だから。あんただって、普通に生きていたら、俺なんかの存在に興味をもたないと思うよ」

「あぁ?」

「ってか、それよりさ、そろそろ本気を出してくれないか? あんたは、まだ、本気を出していないだろう?」

「あ? あぁ、あたり前だろ」

 蓮司は頬に冷や汗を浮かべながら答える。

「だよな」

 少年――紅 次郎は、ニヤッと口角を上げ、言った。

「最強がこの程度のわけがないもんな」

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