第48話 人族側待遇
開けられたドアの向こうが食堂だ。
王国貴族の食堂だから、10m位のテーブルに着かされるのかと想像していたけど、違った。
大人数での会食の場ではない時には、それなりの丸テーブルのある部屋が食堂になるようだ。
丸テーブルなのは会話がし易い工夫だと思う。
さすがにテーブルの中央に回転テーブルがある訳じゃないけど。
マクシミリアン国王の対面の椅子が引かれ、俺はそこに座る。
「ラーデル、長旅と謁見で疲れたであろう、寛げたかな?」
謁見の時と打って変わって、ラフな雰囲気で国王様が話し掛けてくる。
「余はラーデルに危害を及ぼそうとは考えておらぬ。気軽に直答せよ」
「あ、はい、有難う存じます」
マクシミリアン国王の合図で、食事が載せられているワゴンがメイドによって運び込まれてくる。
「食事はラーデルが気疲れせぬよう、普段どおりの食事にしておる」
パーティー料理じゃないから、質素な方だと説明された。
いくら王様でも毎日御馳走と言う訳には行かないのは解る。
それでも王侯貴族の食事だから、平民の食事とは段違いの贅沢品が並べられる。
この食堂で食事をするのは俺とマクシミリアン国王様の二人だ。
食事の進行に合わせ、横に立つ給仕のメイドが皿を交換していく。
「それでも素晴らしいご馳走ですね」
「
「はい、ルベルタス騎士団長宅よりも」
「ははは、
領地を失ったエルコッベ伯爵は、爵位を剥奪されてしまったと改めて聞いた。
国王から領地の自治を任されるからこそ、その貴族は爵位が与えられる事になる。
その領地を守れない者は、責務を全う出来ない無能として、罰が課せられる事になるという。
貴族にそんな規則が有ったなんて始めて知った。
騎士団長ルベルタスは騎士団・兵団ごと王国軍に編入されるらしい。
いくら何でも騎士団長ほどの武力を無駄に捨てる事は出来ないか。
魔術師エルムントは、王族付き魔術師として改めて召抱えられると言う。
この世界、魔術師の絶対数が少なく、魔術の使える者は優遇されるとか。
エルコッベ伯爵には気の毒ではあるけど、国王の定める責任の問題だから、誰もがどうこう言える事ではない、下手に何か言えば反逆罪に課せられる危険性がある。
それでも身近にいた魔術師エルムントと、騎士団長ルベルタスの処遇を聞けて安堵した。
マクシミリアン国王と会ってみれば、想像と違って意外と話の解る人に思えて来る。
多くの貴族を束ね頂点に立つ者だから、それなりに善人とは言い難いかもしれないけど。
例えるなら織田信長タイプなのかも。
農民を徴用しないで専用兵士を定めるとか、楽市楽座で商人を優遇するして富国強兵を実現した。
新しい技術は積極的に取り入れて国民から人気がある。
ザーネブルク王国は、そういう王様が治める国なのかもしれない。
絶対君主制の世界だから、国王の方針は強制力を伴いトップダウンに伝わって行く。
方針を固めるために国王だって会議を開くが、会議で国王に何かを迫る事はできない。
厳格な身分制度社会とはそういう物だろう。
だから反乱を起せないように時には、れいげん冷徹に対応を強いられるだろう事は想像が付いた。
王侯貴族が冷血だと思われる訳だ、そういうのもいるかも知れないけど。
それでも下克上のある世界だと、君主自ら配下の武将の背中を流してやる人もいたそうだ。
「
マンデーヌの街はザーネブルク王国内に属している。
だからマンデーヌの陶器は、ザーネブルク王国の文化に組み込まれるようだ。
「
そのためにも国内を自由に動けるように配慮するつもりがある」
マクシミリアン国王様は随分と話の解る王様のように見える。
配下を上手く使う事に手馴れているだけなのかも知れないけど。
「余はラーデル、
国王の庇護下に置く事は、保身や名誉欲の為に権謀術数に長ける貴族達から、守られる事になるらしい。そのための保険なのだろう。
俺としても罠に嵌められ、断頭台に送られるより安心出来そうだ。
もう一つ理解出来たのは、俺の立場は側近であって従者ではないという事のようだ。
騎士団長ルベルタスの従者からすれば、大した出世だ。
「余の用事が有る時に呼ぶ事になるが、それまで城内で寛ぐが良い」
「有難う御座います」
食事が終わり、国王様から自由時間を貰えたようだ。
この後俺に付ける側仕えと護衛騎士、文官を用意してくれると言う。
国王の側近ともなれば、何事にも命令を出すだけで、自分で作業をしてはいけないらしい。
そういう所が既に貴族待遇と言うか、VIP待遇と言うか。
五人の取り巻き付けられ紹介された。
側仕女性、ステイシー・デージットの二人が身の回りの雑事を担当する。
護衛騎士、バイロブ・エドウェルの二人が常時護衛として付いて廻る事になる。
専用文官、ランダレンは誰かと連絡を付ける時の連絡係や書記を勤める。
そんな側近が付いた経験が無いから、正直どうすれば良いのか解らないけど。
当面国王様からの連絡が来るまで、自室で待機になる。
側仕え達は近くに部屋が当てられたと言う。
但し二名の騎士は室内で扉の左右に立って警護体制を執っている。
さて、お呼びが掛かるまで何をしよう。
どうせ剣の練習くらいしか思い浮かばない。
「そういえば俺の剣はどうしたっけ」
「城内でお預かりしていると聞いております」
部屋付きの執事が即答する。
「剣の練習でもしようと思うけど、良いですかね?」
「それでしたら私が受け取って参りましょう」
「あ、出来れば練習場の確保も」
「承りました」
デージットが剣を受け取りに行ってくれた。
二名の護衛騎士は無表情を装っているけど、興味津々な様子。
やがてデージットが俺の剣を与ってきた。
皆は見慣れない剣に興味を持ったようだ。
護衛騎士が帯剣するのは、取り回しに困らないように、片手持ち剣のブロードソードが多い。
一口にブロードソードと言っても小刀や脇差と違って、1m弱の長さで腰に帯剣して歩くに困らない長さという事だ。
屋外での練習や実戦には、両手持ち剣のロングソードを使うらしい。
俺のファルシオンはブロードソード位の長さで曲刀、幅が広い片手持ち剣だ。
剣としては下級騎士が使うような安物の剣。
それでも冒険者時代には高級品だったんだよ。
久しぶりに愛剣で型の練習をする。
今は亡きロザベルとルグリットから教わった剣術でもある。
「ほう、あの方は剣術の型は一通り身に付いているようだ」
「あのような剣でアレンジをされている」
「一度お手合わせ願いたいものだ」
練習場の片隅で型の練習をしていたにも拘らず、訓練中の騎士達が見慣れぬ者の見物に来た。
「お手合わせは国王様よりまだ許可は頂いておりませぬので」
護衛騎士のバイロブとエドウェルがガードしてくれる。
「そうか、中々面白そうな逸材のようだが」
「誰ぞ、許可を申請してみぬか?」
中には諦めの悪いのもいるようだ。
「教官の俺が腕を見極め、問題が無ければ申請を出そうではないか」
ルハイストという教官が具合を見ようと言い出した。
ルベルタス騎士団長の王国騎士団版といったところか。
俺も久しぶりに体を動かすに丁度良いかもしれない。
「それでは……」
護衛騎士バイロブが食い下がろうと必死だ。
「俺の方は大丈夫ですから」
「おお、そうか、では
「宜しくお願いします」
俺が勝手に申し出を受けてしまったから、バイロブ達は慌てふためいている。
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