第47話 マクシミリアン国王

「天井たっけーーー」


 国王の威容を示すこの玉座の間は大きな部屋だった。

 床の赤い絨毯は15mほど向こうの玉座の下まで続いている。

 玉座の両側の壁には、鎧を着た騎士達が勢揃いしていた。

 玉座の両隣には重鎮と見られる者達が勢揃いしている。

 中央の玉座に座る者こそが国王マクシミリアンだ。


「この度はマクシミリアン国王様直々のお招きに従い、参上致しまして御座います」


 元騎士団長ルベルタスと魔術師エルムントは国王に対する拝礼の姿勢を執り挨拶を述べる。

 俺も急いで同じ姿勢を執り床を向く。


「其の方等、面を上げよ」

「「「はっ」」」


 拝礼の姿勢のまま顔を上げる三人。


 マクシミリアン国王は正に絵に描いたような王様然とした王様だ。

 王冠の下の頭髪や髭の量が多く、鋭い眼光でラーデルを睥睨へいげいしている。

 面持ちは出来る王様といった感じなのか、想像していたような冷厳な王様なのか今は判断が付かない。


「そこの者、ラーデルと申したの、全てはエルコッベから聞き及んでいる」


……伯爵と言う言葉が無いぞ? やはり左遷させられたのか。


「余はラーデルを側近に召抱えようと考えておる」


 強大な戦力とマンデーヌの街の陶器の事業の一連を報告で知ったと言う。


「この国ザーネブルクは時折魔族の襲来を受けていてな、其方そなたの力を高く評価しているのだ、是が非にでも協力をして欲しい、そのために余の側近という栄誉を其方そなたに与えようと考えた、如何であるか?」


 つまり俺を高待遇で、この国の戦力に取り込みたいと言う事か。

 普通なら断る事が出来ないような凄い条件なんだろうなぁ。

 しかし、この王様の人となりはどうなんだろう。

 前世の知識がある俺には、ブラック企業の謳い文句にも聞こえるけど。


「有り難き御申し出に感謝致します。されど仕官の判断をするにもマクシミリアン国王様の事がまだ判らないので……」

「おい、こら、ラーデル、国王陛下に何という口を……」


 謁見室内に不穏な空気が湧き起こり、重鎮達がざわめき出す。


「ふむ、無理も無いか、見知らぬ所に来ていきなり是非を問われ、惑う気持ちも解らぬでもない」


 国王の臣下の貴族達だったら、国王の申し出を断る事は常識的にしない。

 身分社会の常識に照らしても、貴族はともかく平民に到るまで常識だ。

 マクシミリアン国王が理解の意を示してくれたのは、ラーデルの正体を知っているからだろう。

 それは人族のヒエラルキーの外の者という事でもある。


「暫くの間この城に滞在し、気心の知れる間柄になれれば良いのぅ」

「有り難き御言葉に御座います」


 一見優しい言葉に聞こえるだろうけど『気心の知れる間柄になれれば良い』と言うのは、臣下にならなければ死罪という言葉が裏にあるんだろうな。


 DEAD OR ALIVE、生か死か、ここに来た以上、最初から選択肢は用意されていない。

 実力至上主義の身分会社ってこういう空気が在るのかも。

 織田信長に仕えた豊臣秀吉の凄さが解る気がした。


「これにてマクシミリアン国王陛下との謁見は終了する。ラーデル殿には専用の個室が与えられる、そちらで休まれるが良い。ルベルタス殿とエルムント殿には追って指示が伝えられるので客室で待機されるよう申し付ける」


 玉座の横に控えていた重臣から通達が伝えられた。


「畏まりました」

「承知致しました」


 ルベルタスとエルムントは城の従事者に連れられ退室して行った。





「ラーデル様はこちらにどうぞ」


 俺には別の者から声が掛かり、用意された部屋に案内された。

 城内の廊下を何度か曲がり、階段も二度上がり、一つの部屋に案内された。

 王宮の調度品はさすがと言う他無い見事な物だった。

 しかし見知った者がいなく、一人と言うのは非情に心細い。


「失礼致します。お召し替えをお持ちいたしました」


 執事と三人のメイドがやって来た。

 メイドに着替えさせられるなんて二度目の経験だ。


 室内のテーブルには、お茶の用意が始められた。

 メイドの一人が給仕として横に立つと言う。

 こういうのが貴族の暮らしなのか、俺には落ち着かないけど。


 でだ、この後俺はどうすれば良い?

 旅館ならテレビの一つも有るんだろうけど、この世界にはそんな物は無い。

 当然、本もゲーム機も無いのだから暇を持て余す。


 この部屋付きのメイドさんと世間話でもしてれば良いのかな。

 メイド喫茶のようなナンチャッテメイドと違うから、何を話せば良いのか余計に解らないぞ。

 なんてったって本物の王宮付き、超高級メイドなんだから。


 給仕のメイド以外のメイドと執事は、部屋の隅で直立不動の姿勢で待機している。

 この人達がこの部屋付きの使用人といった所だろう。


「あの~」

「私共に御用の時は、その鈴でお知らせ下さい」

「あ、そうでしたか」


 用がある場合、テーブルの上に置いてある鈴を鳴らしてから呼び付けるようだ。


「トイレは何処でしょう?」

しもの御用で御座いますね、早速器を用意いたします」


 メイドの一人が部屋を出て行った。

 どうやらトイレは持って来てくれるようだ。

 終ったら処分しに何処かへ持って行くんだろうな。

 病院じゃないんだから、こういうサービスは俺には居心地が悪いと言うか。


 国王様は部屋で寛いで欲しいという事かもしれない。

 こういう状況で普通の貴族って、どうやって寛いでるんだろ。

 正直、俺には手持ち無沙汰でどうしようもない。

 やれる事は窓から外を眺める事くらいしかない。


 そんな訳で俺は窓から外を見る事にした。

 この部屋の窓の外にはベランダが無いから、城壁内を見渡す事が出来る。

 いくつかの尖塔と下には中庭があるようだ。

 あの尖塔は物見櫓なのかな。


 中庭は結構広く、庭の向こうには大きな城門がある。

 有事の際には、騎士団が集合して出撃する場所なのかもしれない。


 城全体はどういう石材を使っているのか解らないけど、

 遠くから見れば白い城に見えるんだろう。

 大きな城はこの街のランドマークとして王様の権威を誇るだろう事は解った。


 城壁の向こうには城下町が広がっている。

 王都なだけに街の規模は、今まで見てきた中では一番大きい。

 20万人都市といった所だろうか、その街が街壁でぐるりと囲まれている。

 街壁の向こうには、平野で畑が広がっているんだろうと想像がついた。

 平野の向こうには、青白く山が広がっているのが見える。


「ラーデル様、お食事の用意が出来ましたのでご案内致します」


 窓から外を眺めるのに夢中になっていると、背後から執事が声を掛ける。


「あ、はい、解りました」


 先導する執事の後に歩く俺の後ろには、三人のメイドが着き従う。

 大きな病院の院長回診ってこんな気分なのかも。


 長い廊下を歩き、やがて両隣に護衛騎士が経つ部屋に案内され、鈴が鳴らされドアが開けられる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る