第41話 捜索者来る

 マンデーヌの街は、新事業立ち上げで沸き立ち始めた。

 街の外の丘には、二基の登り窯建設の予定になった。

 窯の近くには、窯の火を監視する炭焼き小屋が建てられる予定だ。


 今はせっせと日干し煉瓦の製作中だ。

 街の男も子供も一緒になって作業が開始した。

 二基の窯を作るにしても、建築材料にするにしても、とにかく数がいる。

 炭を作るにしても、煉瓦を作るにしても、材料や燃料の木材も大量に必要になる。





「この街は異様に活気が在りますな」

「新事業が立ち上がったらしいですね」

「どういう新事業なのか、イマイチ理解が出来ないのですよ」


 ゲマリードとベラルダ、エルコッベとルベルタス一行がこの街に入って来た。


其方等そなたらの商売に一役買いそうですな」

「そうですね」


 エルコッベの言葉を、興味無さ気にゲマリードが返事を返す。

 時折見せる彼女達のそんな反応に違和感を受けて来た。

 何処と無く平民の行商人の反応では無いと感じてはいる。


「新事業は焼物らしいですね」

「焼物とは?」

「『とうき』だと聞きました」

「陶器だって!」


 目を見開き驚くルベルタス。


 陶器と言えば、今は無きポルダ村で作られていた物だ。

 貴族階級にとって、ポルダ村の陶器はステータスを示す物になっていた。

 ポルダ村が無くなって以来、二度と手に入らない陶器の価値は爆上がりした。


「この街で陶器の製造が始まると言うのか」


 この街で陶器の製造が始まるという事は、ポルダ村の製法を伝えた者がいる事になる。

 何よりポルダ村唯一の生き残り『ラーデル』に結び付く。


「エルコッベ様、この街で当りのようですな」

「この街にラーデルがいると言うのか?」

「ラーデルはポルダ村出身で御座います」

「では、この事業の発案者を訪ねれば、ラーデルを見つける可能性は高いな」

「儂には、そうとしか考えられませぬ」


 二人の会話に出てくるラーデルという人物に、ゲマリードは興味は無い。

 しかし心の隅に引っ掛かる何かが有る。

 ポルダ村にもゲマリードの子供、ドラゴンの噂は聞かなかった。

 無視して良い程度の情報なのかも知れないが、何かが腑に落ちない。


「話される陶器と言うのは、どの様な物でありましょう?」

「陶器というのは土を焼き固めた皿や器でな、今まではその様な食器は無かったのだ」

「土を焼き固める?」


 現物を知らないゲマリードとベラルダには、原始的で野蛮なイメージが湧いていた。

 ルベルタスの言うには、油を使った料理でも始末に困らなく、食卓に気品さを醸し出すらしい。


「うん、私もポルダ村の陶器の献上品の話は聞いた事が有るぞ」

「エルコッベ様はお使いにならなかったので?」

「領主ともなると新奇過ぎる物は直ぐには試さないものでな」

「それは勿体のう御座いましたなぁ」

「そうなのか」

「ええ」



「それよりも、この事業の発案者を探さねばなるまい」

「果たして誰に聞けば良いものやら」

「冒険者ギルドで聞いてみたら如何でしょう?」

「そうだな、良し聞きに行ってみよう」


 ベラルダの提案で一行は冒険者ギルドで聞くことにした。

 しかし、そういう話は商工会で聞いて欲しいと断られた。


「商工会なる物があるのか」

「工芸職人や商人の集まりのようですな」

「差し詰め、商人や職人のギルドといった所なのかもな」


 場所を聞いて訪れた商工会で、事業を興した者と会いたい旨を伝えた。


「承知致しました」


 やがて受付係員は一人の男を連れて来た。

 新事業発案者は、丁度会議で立ち寄っていたと言う。


「始めまして、私が事業の責任者を務めるホルスカと申します。 本日はどの様な御用で?」


「この男はラーデルでは無いぞ?」

「ポルダ村の生き残りと言ったな、生き残りはラーデルだけじゃ無かったのか」

「其の方、ポルダ村でラーデルという者をご存知か?」

「さあ? 同じ村でも付き合いが無ければ、結構知らない事が多いのです」

「さもありなん」



「…………この男、違う」


 ホルスカを凝視し観察していたゲマリードがポツリと洩らす。


「そうでしたか、残念ですね」


 ベラルダも宛が外れたという顔をする。


「何? この者はポルダ村の生き残りじゃ無いのか?」


 ギクリとしたエルコッベとルベルタスが振り返る。


「そうは言っていない、私に関係の有る者じゃないと言ったのです」

「ああ、そう言う事か」


「あの……何を言われてるのか判りませんが、製品が出来上がったら、是非お買い上げ頂けたらと」


「ああ、そうさせてもらおう」

「ルベルタス、今の我等にそんな金は有るのか?」

「そうでありましたな、うぐぐぐ」


 貴族が使う物だから、とんでもなく高価な商品に違いないと想像がつく。

 当然、行商人の彼女達が扱える範疇の商品じゃない事も理解出来た。

 失望しつつ、一行は街の中に出て行った。


「手掛かりになりませんでしたな」

「ああ、『魔術師と孫』の噂もこの街では聞きませぬ」

「何処で途絶えたのでしょうね」


「もう暫く情報を集めて、次の街に向う事にするか」

「そうでありますな。 ラーデルめは何処へ逃げたのやら」








 商工会長の屋敷で捜索者の連絡を聞いたコスタノラーデル達は胸を撫で下ろす。


「儂等は無事に商工会長に守られたようだな」

「ここで捕まったら、怒りに燃えるヴェルストに連れて行かれるからね」


 商工会長の屋敷の一室で小声で話し合う二人。


 ラーデルは領主の街を崩壊させた重要参考人に違いない。

 天使の軍勢と魔族の軍勢が戦った末に、街が破壊され尽くしたと言っても、天使の軍勢を召喚したのはラーデルだ。

 怒りに燃えるヴェルストの住人に引き渡されたら、無事でいられるとは思えない。

 まだ暫くの間は動き出すのは危険だろうと判断をして潜伏する事にした。

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