第2話 転生選択
イルデストに連れられて来た俺は転生ルームに来た。
そこには話を聞いてくれる神様の姿は無い。
「何か、思ってたのとは違うと言うか」
《地球上では毎日何万、何十万もの人が亡くなってるんだからね》
イルデストの言うには、そんな大勢の人間に神様だって対応しきれないらしい。
『省力化』の波はあの世にも波及し、自動化が進められているようだ。
目の前には、電車の券売機のような機械が並んでいる。
一番の違いはお金を入れる所が無いってところだろうか。
「ほう、次の人生は自分で選べるようになっているのか」
パネルに表示されるメニューに従って、次の人生を選べるなんて合理的じゃないか。
メニューの選択に当って横にいるイルデストが説明をしてくれる。
まあ、これも神のサポートと言えばそうなのかも知れないが。
解りやすいと言うか、複雑極まりないと言うか。
「ほう、転生先は元いた世界だけじゃないのか」
メニューを見れば、地球の世界があれば、地球外の世界もある。
中にはファンタジー世界も選べるようだ。
まあ、ラノベによくある転生先だな。
興味本位にファンタジー世界を選んでみると、パネルの左上に『勇者募集』の欄がいくつか表示された。
初めて知った、話に聞く勇者召喚ってこうなって募集してるのかぁ~。
《ん~、君は異世界で勇者になりたいのかい?》
横にいるイルデストが意味深な笑顔で聞いてくる。
「いや、俺は普通の人生で良いや」
自慢じゃないが、小市民で小心な凡人なのだから。
更にメニューを進めて眺めていくと、様々な種族を選べるようだ。
悪魔・魔族・ドラゴン・エルフ・ドワーフ・人族 (一般人~王侯貴族)等など様々な物が表示される。
まるでゲームアカウントを設定する画面のように見える。
人型種族には職種まで選ばなければならないようだ。
《君は難易度ソフトで行った方が良いんじゃないか?》
「ソフトかぁ、まあ初見のゲームならそうなるだろうな」
《ドラゴンなら初期値が高いから良さそうだね》
「強いし、魔力たっぷり、面白い人生設計になりそうだね」
イルデストも画面を何やら弄りだす。
「ちょ、ちょっと、俺は何が有るのか見てるだけだから」
《ああ、そうなんだ》
メニュー欄には『お任せモード』がある。
イルデストの言うには、初心者は大概お任せを選ぶらしい。
ベテランほどハードモードにするようだ。
何も知らない俺はイルデストのアドバイスを聞きながらメニューを次々に眺めていく。
「ふうん、これなら細かい要望をイチイチ告げなくて便利だね」
オプション欄には『前世記憶保持』なんて物もある。
前世の記憶が在れば転生したという気分を味わえるだろうなと思えた。
しかし俺にはそれを選ぶ事は出来そうに無さそうだ。
取敢えずはある程度の操作法は解った。
改めて最初のメニューに戻って、次の人生を考え直そうか。
改めてバックのアイコンを探すが、何処にもそんなのが見当たらない。
「イルデスト、バックが効かないんだけど……」
《うん、君はファンタジー世界のドラゴン種を選択しちゃったからね》
「ええぇぇぇぇぇぇ!」
イルデストからとんでもない事実を告げられる。
様子見のはずがいきなり本番だったようだ。
こんなに不親切なゲームは普通有り得ないだろ。
「イルデスト~~」
《何? せっかく選んだのに不服だった? もう遅いけど》
「ああ~、お前が『疫病神』って事忘れてたよ」
《何言ってんだよ、全ては君の責任だよ、現実を受け容れなきゃ》
「イルデスト~~!!」
イルデストは何やら追加操作を行った。
俺では操作可能表示にならなかった所だ。
俺には選ぶ事は出来ないが、神であるイルデストには操作が出来る様だ。
前世記憶保持が可能になり、各種パラメーターは初期値MAXになる。
経験により、人族より急激に上昇すると言う。
《これは僕から神のギフトだよ》
おお! 初めてイルデストが神様っぽく見える。
【決定事項】
ファンタジー世界No.14785
ランク:ビギナー
種族:ドラゴン
オプション:前世知識保持
イルデストのギフトとして、各種パラメーター中位からスタートするらしい。
人種の初期値に比べると格段に強いと言わざるを得ない。
いや、同族のドラゴンとしても破格の待遇だ。
経験を積むと、各能力値が爆発的に上がる種族らしい。
正にチート主人公じゃん。
最初から神のサポートまで付いている。
唯一の玉の瑕は憑いてる神が、疫病神という事なんだけど。
素直に「俺TUEEE」が出来るんだろうか。
さすがにコンピュータのゲームじゃ無いから、レベルとかステータスウインドゥが無いようだ。
《神の人生ゲームには上限値は無いんだよ》
イルデストの言うには人の可能性は無限大だと言う。
あ、ちょっと待て、注意深く聞けば、『可能性は無限大』と言うおためごかしに違いないんじゃ?
決して誰しもが無限大の能力を得るとは言っていない。
『努力次第でどこまでも能力は伸ばせるかもね』と聞いておいた方が良いかも。
現実問題、人は寿命まで努力は出来る。
でも成長期があれば、衰退期もある。
陸上競技で金メダルを取れる人でも、時速200kmで走れる人は存在しない。
数値化で表せなくても、つまり、そういう事だ。
危ない危ない。
奴は疫病神だ、注意深くいないと何時か失敗する可能性が大きい。
《ふふふ、周りに不幸をばら撒くのに丁度良さそう》
イルデストは腹の底でほくそ笑む。
緑色に光る最後になる『Enter』ボタンをタップされ、転生開始のカウントが始まった。
15、14、13、12―――――5、4、3、2、1、スタートします。
俺とイルデストは天井から降りてくる白い光に包まれ、目的の世界へ移送される。
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