第24変 サイドチェストッ!?破れた、ピンクエプロン!

 駄菓子屋の中に変な人がいる。その人の体は今にも張り裂けそうな筋肉で覆われており、ピンク色のフリルがついたエプロンをつけている。


「……帰りましょうか」


 唖然としていると、久保が小さな声で言う。久保の問いに応えるように小さく頷いた。そして、俺達は何も見ていないかのように駄菓子屋から出ようとする。


「待たないかッ」


 どこかで聞いたことがある声だ。

 俺は足を止め、その男を見る。


「あ……」

「裕様?」


 久保も足を止める。そして、不思議そうに俺の視線の先を見る。


「あなたは確か……生徒会長?」

「いかにもッ。二人共、久しぶりだなッ」


 その男は球技大会の時にジェンガで戦った、生徒会長の臥龍岡ながおかさんだった。


「お久しぶりです。えっと、その服装は……」

「実は駄菓子屋でアルバイトをしているんだッ。だが、この筋肉が子供達を怖がらせてしまうようでなッ! だから、このエプロンを着て怖がらせないようにしているんだッ!」


 そのエプロンは、より異質感を高めさせている。きっと逆効果だろう。


「そ、そうですか」

「そうだッ! 二人共、駄菓子を見て行かないかいッ? 全然、お客さんが来なくて暇なんだッ!」


 そう言われ、久保と顔を見合わせる。

 果たして、この人とここにいて大丈夫なんだろうか……。


「断るのは申し訳ないよな……」

「でも、ここは断りましょう。あの人からは危険な匂いがします」

「そうだな」


 帰る。そう意見をまとめた所で、そのことを臥龍岡先輩に伝える。


「そうかッ。残念だッ」

「すみません。せっかく誘ってくれたのに……」

「いや、問題ないッ。それにしても、二人にはまだ駄菓子は早かったかッ」


 その言葉を聞き、久保は臥龍岡先輩を見る。


「それはどういう意味ですか」

「んッ? 言葉のままだッ。最近の子は駄菓子の魅力が全然分かっていないッ。その魅力を聞きたくないっていうことは、二人もまだ駄菓子を恐れているんじゃないかッ」


 ……言っている意味はよく分からないが、煽られていることは分かる。


「確か、君は久保家のお嬢様だよなッ。駄菓子を食べたことないから、魅力を知るのに恐怖を感じているのではないかッ? 君は駄菓子から逃げているッ」


 久保は真顔になり、臥龍岡先輩をじっと見る。一方、臥龍岡先輩はいつもと変わらない笑顔で久保を見ていた。


「……私も舐められたものですね。分かりました。そこまで言うならあなたに付き合いましょう」

「よしッ! それじゃあ、早速始めよう」


 二人は駄菓子屋に入っていく。俺も二人の後を追いかけるようにして駄菓子に入る。

 駄菓子屋は昔からあるのか、昔特有の独特な匂いが漂っており、そこに駄菓子の甘い匂いが少し混じっていた。棚一面に様々な駄菓子があり、一気に昔を思い出させてくれるような場所だ。


「まずは、みんなが知っている駄菓子ッ。その名も『うんまい棒』だッ」

「うんまい棒……?」


 久保が呟く。


「まさか、うんまい棒を知らないのかッ!?」

「そ、そのくらい知ってます。ただ、食べたことがないだけで……」

「食べたことがないッ……。と、とにかく、まずは食べてみたらいいッ」


 臥龍岡先輩はそう言いながら、棚からうんまい棒を取り出す。味は王道のコーンポタージュ味だ。

 

「これがうんまい棒ですか……」


 久保は受け取ったうんまい棒を真剣に見ている。


「それでは、いただきますね」


 うんまい棒を開け、一口齧った。


「どうだッ?」

「……まろやかな味わいでありつつも、とうもろこしの風味が強いですね。……正直、こんなに美味しいとは思っていませんでした」

「そうだろッ。美味しいだろうッ!」


 臥龍岡先輩は不安そうな顔から、嬉しそうな顔に一転した。

 そして、うんまい棒に続き、様々なお菓子が紹介されていく。


「次はこれなんかどうだッ!?」


 今度は棚から『ピーピーラムネ』を取り出した。


「それは?」


 臥龍岡先輩は一つラムネを取り出すと、口に咥える。すると、ピーピーと音が鳴り響いた。


「音が……。一体、この音はどこから」

「このラムネだッ。これは『ピーピーラムネ』と言ってな、咥えて息を吹き込むことで、笛みたいな音を鳴らせるんだッ! そして、この駄菓子のメインと言っても過言ではない、大切なものを忘れてはならないッ」


 臥龍岡先輩はパッケージの下の方にある箱を取り出すと、久保にその箱を渡す。


「これは一体?」

「とにかく開けてみるんだッ」


 久保は箱を開け、中のものを取り出す。すると、小さな人形が出てきた。体は人間の形をしているが、頭がピーピーラムネのような丸い形になっている。

 今まで何度かこの駄菓子を食べてきたが、このようなおもちゃは見たことがない。


「な、な、それは……」


 臥龍岡先輩はこのおもちゃを見て、目を丸くする。


「これがなにか知ってるんですか?」


 そう聞くと、臥龍岡先輩は驚いたように目を大きく開く。


「知っているも何もッ! これは15%の確率でしか出ない、レア級のレアなおもちゃ『ピーピー星人』だッ」

「ピーピー、星人……」

「実際にピーピー星人を見るのは初めてだッ。まさか、それを引き当てるとはッ」


 臥龍岡先輩は目を輝かせて、ピーピー星人とやらの人形をじっと見ている。


「……よかったら、差し上げますよ」

「え。ほ、本当かッ!?」

「はい。そもそも、これは私が選んだのではなく、あなたが選んだものですから」

「しかしッ、これは君が開けたから、出てきたかもしれないッ! だから、貰うわけにはッ……」

「それなら、今日のお礼として貰ってください」

「お礼ッ?」

「私はあなたのおかげで色々な駄菓子を知れました。そのお礼です」


 久保はそう言うと、臥龍岡先輩の手にピーピー星人を乗せる。


「……か、感激だッ!」


 臥龍岡先輩はサイドチェストをする。その勢いでピンクエプロンと共に、服が勢いよく破れる。

 

 ……何なんだ、これは。

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