1年 〜夏〜

第15変 そして、夏になる

 最近、暑くなってきた。雨も多く、じめじめする日が続いている。


「おはようございます」

「おはよう。久保」


 いつものように挨拶を交わす。今日も朝から雨が降っており、憂鬱な気分だ。


「ここ毎日、雨が続いていますね」

「そうだな。ん? 久保、夏服にしたのか?」


 久保は夏服を着ていた。先週まで合服だった。


「はい。雨で蒸し暑くて」

「そうか」

「裕様は夏服にしないのですか?」

「いや、そろそろ夏服にしようと思ってる。この蒸し暑さに耐えきれないしな」

「そうですよね」


 そう言いながら、顔に向かって手で扇ぐ。


「裕様の夏服姿、さぞお似合いでしょうね」

「そうでもないぞ。一回着てみたんだが、かなりぶかぶかでな……」

「それでも絶対に似合っていると思います」

「いやいや。あー、俺も久保みたいに何でも着こなせるようになりたかったな」

「そ、そうですか」


 久保は恥ずかしそうに笑う。

 雨が酷くなってきたので、近くにある建物の屋根の下に移動する。


「久保はこの夏、何かしたりするのか?」

「そうですね……。特に決まってはいないですけど、できるなら、川とかに行ってみたいです」

「いいな、川。でも、海とかじゃないんだな」

「海もいいですけど、私は川が好きですね」


 その気持ちも分かる。海も良いが、川は海と異なる良さがある。


「裕様はこの夏に何がしたいですか?」

「あー、そうだな」


 したいことか……。

 考えるが、全く思い浮かんでこない。


「あ、そうだ。スイカ食べたい」


 やっと思い浮かんだが、スイカを食べることとは。


「ふふ、裕様らしいですね」

「まあな」

「あ、スイカって言えば、スイカ割りですよね」

「ん? まあ、そうだな」

「実は、スイカ割りにルールがあるのをご存知ですか?」


 ルール? ただスイカを棒で割れば良いんじゃないのか?


「その顔は知らないって顔ですね」

「ああ、知らなかった。どんなルールがあるんだ?」

「いくつかルールがあるのですが、その中に『割る人の持ち時間は1分30秒とする』っていうのがあります」

「へー、そんなのがあるんだ」

「はい。他にも『スイカと割る人の距離は、5m以上7m以内とする』など細かいルールもあります」

「全く知らなかった。適当に棒で割るだけじゃないんだな」

「私も初めて聞いた時は驚きました。スイカ割りにもルールがあるなんて思わなかったので」

「そうだよな。あ」


 久保の話に驚きつつ、空を見る。いつのまにか雨があがり、空は青くなっていた。


「雨止んでるな」

「本当ですね。全く気づきませんでした」

「俺もだ」


 その時、蝉の鳴き声が辺り一面に広がる。


「蝉、ですね」

「夏だな」

「はい。もう、夏ですね」


「おーい!」


 突然、晴翔の声が聞こえてくる。晴翔がいつも来る方向を見てみると、手を振りながら走って来ていた。


「やっと来ましたか」

「ああ。それじゃあ、行くか」

「はい」


 俺達は屋根の下から出る。その瞬間、突き刺さるような眩しい光が俺達を襲った。

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