第13変 勝利のパフェ
球技大会で優勝して貰ったパフェの無料券を見ていると、一つのことに気づいた。
「期限……。明日まで!?」
今日この券を貰ったのに関わらず、期限が明日までだったのだ。どうするべきか、考えていると、晴翔から電話がかかってくる。
『裕、パフェ食べに行かないかい?』
『急だな』
『パフェの無料券の期限、明日までだったんだよ。明日は休日。これはもう、みんなでパフェを食べに行くって神様が決めてくれたに違いないよ』
『……まあ、明日は暇だし、別にいいぞ』
『本当かい!?』
『ああ。で、久保にも連絡したか?』
『もちろんさ。最初は乗り気じゃなかったんだけど、裕の名前を出したら来てくれるようになったよ』
少し可哀想だ。
『って、俺が行く前提で話してるじゃねえか』
『だって、裕は優しいから絶対に来てくれるだろう?』
『……それより、何時にどこに行けばいいんだ』
そう言うと、晴翔は笑う。
『ははは!場所と時間は——』
次の日、指定された場所に行く。この場所に着いたのは約束の時間の二十分前だった。早く着きすぎたと思い、スマホをつついて待っていると、
「お待たせしました」
久保の声が聞こえてきた。
顔を上げると、思わず固まってしまう。久保は、ルーズなトップスに大人っぽいフレアスカートを合わせていた。そこにバッグと厚底のサンダル。お世辞なしに物凄く似合っている。
「どうしましたか?」
「いや、その、似合ってるなって思って」
「お世辞は結構ですよ」
「いや、お世辞じゃなくて……」
「えっと……あ、ありがとうございます」
久保は照れながらはにかむ。
「裕様も凄く似合っていますよ」
「いや、久保と比べたら全然普通なんだよな」
「おーい! 二人とも!」
そうしている間に、晴翔の声が聞こえてきた。
「あ、やっと来たみたいですね」
「よー、はる……と?」
思わず固まってしまう。
晴翔は英語がプリントされた、ピッチピチのTシャツにピッチピチの茶色いズボンを履いていた。頭には、カラフルなピンで髪の毛を止めている。さらに、ループタイ、そして何故か十字架をつけていた。靴はピンクのサンダルだ。お世辞なしに物凄くダサい。
「二人ともどうしたんだい?」
「……」
晴翔を見ないように後ろを向く。
「幻覚か?」
「津久井ではない人の可能性もあります」
「そうだよな。晴翔があんな服で来るわけないよな」
振り返ってみる。そこには物凄くダサい格好をした晴翔がいた。また、後ろを向く。
「……あんなに酷かったか?」
「いえ、小学生、中学生の頃は普通でした」
「そうだよな。というか、一緒にテスト勉強した時は普通だったぞ」
「数日しか経っていませんよね」
「ああ」
「どうしましょうか?」
「とりあえず、服を変えさせないと」
「そうですね」
もう一度振り返る。晴翔は不思議そうな顔をしていた。周りの人がチラチラと晴翔を見ている。
「どうしたんだい? 裕、花織」
「……俺は裕じゃないです。な? 久保も久保じゃないですよね?」
「そ、そうです。私は久保花織なんて知りません」
「二人とも、本当にどうしたんだい? 二人は、裕と……」
「あ、私、お洋服を見たくなりました」
「それは奇遇ですね。俺も見たくなってきたところです」
「それでは、行きましょう」
「そうですね」
そう言うと、俺と久保は晴翔の手首を掴み、服屋に向かって思いっきり走る。
あれからしばらく経ち、服を着替えた晴翔がお店から出てくる。
「流石、久保だな」
久保が選んだ服装は、さっきのと比べ物にならないぐらい良かった。
「それにしても、一体何なんだい? 知らない人のふりをするし、来た途端に服を変えさせられるし」
「だって、あれはな……」
「それにしても、あの格好は一体何なのですか?」
「そうだ。こないだまではあんなの着てなかったじゃないか」
「ん? オシャレだっただろう?」
「え?」
「いつもはママ……お母さんに決めてもらうんだけど、今日は自分で選んできたのさ。僕なりに凄くいい格好だと思っているんだけど、何故かお母さんに止められたんだ。二人にも服装を変えられるし……。一体何が良くなかったんだろう?」
晴翔のファッションセンスの無さを認識する。今までは晴翔のお母さんに選んで貰っていたから良かったのか。
「晴翔は二度と服を選ばない方がいいな」
「そうですね」
「え?」
「それより、お店に行きましょう。ここから歩いてすぐですよ」
そうだ、本来の目的を忘れていた。
ここから、歩いて五分でその店に着く。ネットでは、人気のお店なので、休日は凄く並んでいるみたいなことが書かれていたが、奇跡的にすぐ入ることができた。
「なんか女子って感じな店だな」
あまり入ったことがない店だったので、緊張する。
「裕様、行きますよ」
「ああ、すまん」
案内された席に座り、店員さんに無料券を見せる。それを見た店員さんは、無料券を受け取り、どこかへ行った。そして、しばらく経つと店員さんがやってくる。
「お待たせしました。季節のパフェです」
「おお……」
思わず声が出るほどのパフェだ。店員さんが持ってきたパフェは、とても大きく、たくさんのさくらんぼが乗っている。食べ切れるか不安だが、とても美味しそうだ。
「ああ、なんて美しいんだ! このさくらんぼが真っ赤な宝石なようだ。そこに真っ白なクリームが合わさって……。なんて素晴らしいんだろう!」
「まあ、何となく晴翔が言いたいことが分かるような」
「それほど、綺麗っていうことですね」
「そうだな。じゃあ、そろそろ食べようか」
パフェに釘付けな久保と晴翔を見ながら、スプーンを取る。
「それじゃあ……」
「「「いただきます!」」」
まず、さくらんぼを食べてみる。
「うまっ!」
「旬だけあって、凄く甘いですね」
「ああ、これは天使が作ったような美味しさ。こんなに美しいのに、味も美味しいなんて……何て贅沢で罪なパフェなんだろう」
「ああ、そうだな」
棒読みでそう返事をする。
パフェが美味しすぎて、食べていると止まらなくなり、しばらく夢中になって食べる。器の底が見え始めた頃、夢中になっていた久保が口を開く。
「本当に美味しいですね」
「そうだね。こんな素晴らしいパフェをタダで食べれる、最高だ……」
「あの時はどうなるかと思ったけど、とにかく、貰えて良かったな」
「だね!」
「ですね」
三つの空になった器を見て、俺らは満足そうに笑った。
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