第12変 ジェンガッ!で勝つかッ!?

 ついに球技大会の日となった。

 まず、体育館で諸注意や説明といった話を聞かされる。それが終わると、いよいよ競技大会が始まった。

 ジェンガの会場になっている、地学室に行く。サッカーなどの外競技は運動場、バスケなどは体育館。そして、ジェンガなどの競技は校舎内で行われるのだ。


「何だか緊張してきたよ」

「ジェンガするだけだろ」


 緊張する晴翔を見ながら、苦笑いする。


「勝負って考えるとドキドキするんだ。ああ、鼓動がどんどん高まっていく……」

「緊張をほぐすためには手に人って書いて、それを飲み込めばいいらしいな」

「本当かい?」


 晴翔が実際にやってみる。


「凄いよ、裕! 何だかの魔法かい? 何だか落ち着いてきたよ」

「そ、そうか」


 本当に効くと思っていなかったので、少し驚く。


「そろそろ入りませんか? 津久井の話に付き合ってたら、いつまで経っても入れませんよ」

「そうだな」

「え?」


 晴翔を放っておき、扉を開ける。

 その瞬間、何かが飛び出てきた。思わず尻餅をついてしまう。


「大丈夫か? 君ッ。驚かせてすまんなッ!」


 見上げるとそこには、筋肉ムキムキの男の人がいた。日焼けで黒くなった肌に対して、真っ白の歯が目立っている。

 その人は手を伸ばしてきた。俺はその手を掴むと、勢いよく引き起こされる。


「君たちのことを待ってたよッ! さあ、入った入ったッ!」


 言われたままに椅子に座る。


「それじゃあ、みんな揃ったことだし、早速始めようかッ!」

「え? ま、まだ揃ってませんよね?」


 そう言うと、教室中を見渡す。

 俺達とこの男の人しかいない。他の人はどこに行ったんだ?


「あー、言ってなかったかッ。実はな、君達以外の人達は来れなくなってしまったんだッ!」

「どういうことですか?」

「君達のクラス以外でジェンガに参加する人全員、家の用事か体調不良で欠席してるんだッ!」


 一体、どんな奇跡なんだ。


「あの、あなたは? 私達以外の方、全員欠席しているのですよね?」

「失礼ッ! 申し遅れたッ。俺は『臥龍岡ながおか 大和やまと』だッ! 三年で、この高校の生徒会長をしているッ」


 とびきりの笑顔で握手をしてくる。……ん、なんだか手が湿っぽいような。これは、て、手汗だ。うわぁ。

 久保にも握手をしようとするが、


「……生徒会長が、どうしてここにいるのでしょうか?」


 と言い、臥龍岡先輩から距離を置く。


「君達以外誰も来てないだろッ? それだと君達が参加できないじゃないかッ。だから、授業を抜け出して僕が来たんだッ!」

「それって大丈夫なんでしょうか……」


 ちなみに競技大会は学年別に行われる。今週が一年、来週以降が二年生と三年生となっており、競技大会の日ではない学年はいつも通りで授業をしている。


「競技大会は一年生にとっての初めてのイベント。なのに、人がいなくて出来なくなるのは嫌じゃないかッ。生徒全員に喜んでもらうのが僕の仕事なんだッ!」


 臥龍岡先輩が良い人なのは伝わってくるが、授業は参加しないと駄目じゃないか?


「長話はここまでにして早く始めようッ!」

「あ、はい」


 臥龍岡先輩は椅子から立ち、ジェンガを持ってきた。準備をしながら、ルールの説明をしだす。


「ルールって言ってもシンプルだッ。まず、サイコロを振って出た色のジェンガを抜く。そして、崩したら負け。今回は俺vs君たち三人という感じで、俺と一人ずつやって多く勝った方の勝ちだッ! それじゃあ、誰からいくかッ?」

「それじゃあ、僕が最初でいいかい?」


 黙っていた晴翔が生き生きとし始めた。


「別に良いぞ。久保も良いよな?」

「はい」

「ははは! 素晴らしい勝利を飾ってみせるよ」


 数分後、晴翔は普通に負けた。


「どうして負けるんだ……」

「そりゃそうだろ」


 サイコロは全て取りやすいジェンガがある色が出ていたのに、わざわざ崩れやすい所ばかり取っていた。頭脳は運で拭えないんだな。


「次は私ですね」

「頑張れ久保」


 数分後、久保は普通に勝った。


「凄いな、久保!」

「いえ、勝てて当然です」


 取りにくいジェンガの色しか出なくても、天才的なひらめきと頭脳を使って、不安定な状態でもジェンガをすいすいと取っていた。凄い。


「一勝一敗か、君で勝負が決まるなッ。本気で挑んでこいッ!」


 臥龍岡先輩がサイドチェストをする。その勢いで着ていた制服が破れる。


「……はい。本気でやるつもりです」


 そして勝負が始まった。

 まずはじゃんけんをして、先にどちらがサイコロを振るか決める。今回は俺が勝ち、先にサイコロを振ることになった。


「裕様、頑張ってください!」

「勝利の女神は囁いているよ。絶対裕が勝つってね」


 二人の応援を聞きながらサイコロを振る。出た色は黄色だった。ちなみに色は、赤と青と黄色の三種類だ。

 俺は黄色のジェンガを易々と抜く。


「次は臥龍岡先輩の番ですよ」


 そう言い、サイコロを渡す。


「はッ!」


 臥龍岡先輩が勢いよくサイコロを投げる。出た色は赤だ。先輩も軽々とジェンガを抜き出す。


 数分間、熱い戦いが続く。


「うっ」


 俺の番、サイコロを振ると赤が出てきてしまった。赤は崩れやすい所にしかない。このままでは、負けてしまうかもしれない。


「赤はきついなッ。負けを認めたらどうだッ?」

「いえ、降参はしません」

「ならば、赤を取るしかないなッ」


 慎重に上の方にある赤いジェンガを取ろうとする。人差し指で押すと少し動いた。

 いけるかもしれない! 慎重に慎重に……。


「よし」


 危なかったが、何とか取ることができた。

 臥龍岡先輩は渋い顔をする。


「まさか取ってしまうとは。俺は君のことを侮っていたよ。でも最後に勝つのは俺さッ!」


 そう言い、サイコロを投げた。赤が出るように祈る。しかし、出たのは一番取りやすい青だった。臥龍岡先輩はスッと青のジェンガを抜く。

 次、赤を出したら終わりだ。頼む、青が出てくれ!


「嘘だろ」


 サイコロを振ると赤が出た。


「運も俺に味方をしてたみたいだなッ!」

「う……」


 臥龍岡先輩は勝ちを確信したのか、にやにやとしている。

 そんな時、勢いよく教室の扉が開いた。


「臥龍岡! 授業をサボってこんな所で何をしてるんだ!?」


 教室に何人もの先生が入ってくる。


「いや、決してサボってたのではなく、後輩の為に……」

「言い訳はいい!」


 何人もの先生が臥龍岡先輩を重そうに持ち上げる。


「ちょ、ちょっと待ってくれッ。まだ勝負がついてないんだッ!」

「勝負よりも授業だ!」


 先輩の訴えは全く聞いてもらえず、どこかへ連れて行かれた。


「……嵐のような時間だったな」

「そうですね」


 結局、不戦勝という形で球技大会のジェンガで優勝したことになり、景品としてパフェの無料券を貰った。

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