第10変 勝ち目なしの負けられない戦い②

「裕の部屋、懐かしいよ」


 晴翔が俺の部屋を見渡しながら、嬉しそうに言う。テスト勉強をするために、俺の部屋に来てもらった。


「別に懐かしくないだろ。一昨日来てたし」

「いや、懐かしいさ。つまり、そのくらい裕の部屋は素晴らしいっていうことさ」


 意味が分からない。


「って、それより勉強するぞ。はやく座れ」


 そう言うと、晴翔はいつも座っている場所に座る。


「ええと、あれを約束通り持ってきてくれたか?」

「もちろんだよ。中学生の時に受けた、テストだろう? ちゃんと持ってきたさ」


 持って来てもらったテストを受け取る。

 中学の頃のテストの点を見ることによって、どの教科ができているのか、あるいは、できていないのかを知ることができるはずだ。


「一応聞くけど、本当に見ていいんだな?」

「もちろんさ。勝つためには犠牲はつきものだからね」


 晴翔の言葉を聞くと、テストを見る。

 中学の頃のテストを置いといてくれて助かった。何分かかけて、すべてのテストに目を通す。


「どうだい?」

「凄いな」

「そうだろう!? 僕のテストは素晴らしいのさ」

「そうだな。こんなに、酷い点数を初めて見た」


 晴翔のテストの点数は酷いものだった。ほぼ、すべてのテストが三十点以下だ。あえて言うなら、社会だけ八十点と、一番点数が良い。きっと選択問題が多いので運で乗り切ったんだろう。これは大変なことになりそうだ。


「それなら、この一週間は特にやばい教科……数学と英語を重点的に勉強しよう」

「分かったよ」

「じゃあ、早速、数学から教えていくか。教科書を開いてくれ」


 そう言うと、晴翔は教科書を開く。

 俺は早速、晴翔に教え始める。


「まず、xにこの数字を代入するんだ」

「代入? 代入って何だい?」

「え?」

「え」


 これは大変なことになりそうだ……。

 そして、かなり時間が経ち、外は暗くなっていた。


「よし。今日はここまでにするか」

「やったあぁ」


 そう呟くと、晴翔は倒れ込む。


「こんなに勉強したのは初めてだよ。もうしたくない……」

「これが毎日続くんだ。弱音を吐いても苦しくなるだけだぞ」

「う……。いつもより、厳しいじゃないかい?」

「お前を勝たせるためだ。仕方ない」


 恥ずかしそうに言うと、晴翔は嬉しそうな顔をする。


「僕、頑張るよ」

「ああ。頑張ってくれ」

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