ひかりとあかり【1:1:0】15分程度

嵩祢茅英(かさねちえ)

ひかりとあかり【1:1:0】15分程度

男1人、女1人

15分程度


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「ひかりとあかり」

作者:嵩祢茅英(@chie_kasane)

彼方♂:

あかり♀:

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彼方「彼女を見つけた瞬間、モノクロだった世界に、色が戻ってきた―――」


(間)


あかりN「ある休日。

男と、その彼女は遊園地へデートに行って、帰り道に事故を起こした。


一日中はしゃいだ男は助手席で、帰りは女が運転することになった。

男ははすぐに寝てしまい、帰りの高速道路。

女も眠気に負けて、事故を起こした。


…女は即死だった。


男は、自分一人が生き残ったこと、彼女を失ったことを受け入れることが出来ないまま、女と二人で暮らしていた家に引きこもった。


…女の葬式には出られなかった。

女の家族に会わす顔がなかった。

なにより、死んだ女の遺体を見るのが怖かった。」



彼方M「…どれくらい経ったのだろう。

あの日から、俺の世界から色が消えた。

あの日から今まで、どうやって過ごしていたのかすら、よく憶えていなかった。」


(間)


彼方M「このままでいい訳がないと、久しぶりに出た、外の世界。

街には人が溢れていた。数え切れないほどの人。そこに、ひかりの姿はない。

こんなにたくさんの人がいるのに、ひかりはいない。

俺は、そこにいる人々に腹が立った。

楽しそうに笑いながら歩いている人々に。

もちろん、彼らが悪い訳じゃない。

俺は、俺自身が一番許せないという事実を、感情を、知らない人々に向ける事で、あの日の出来事から逃げていた。

…そうする事しか出来ない自分に、嫌気が差していた。」


(間)


彼方M「人混みをかき分けて歩く。

フと、視界のはしに、彼女が居た気がした。

そう、ひかりが。

そんな事、あり得ないのは、自分が一番分かっている。

それでも、ひかりが居たと思われる方向へと、人混みをかき分けて、無我夢中でひかりを探した。」


(間)


彼方M「…居た。

そこに、ひかりが居た。

彼女を見つけた瞬間、モノクロだった世界に、色が戻ってきた―――」


(間)


彼方「あっ、あの…!」


あかり「…えっ?…あっ、はい」


彼方M「…言葉が上手く出ない。」


あかり「…あ、の……?」


彼方「…あっ、すみません!!

その…友人に似ていたもので!!」


あかり「…あはっ」


彼方「………へ?」


あかり「あ、ごめんなさい!

その…すごく必死な顔をしていたので、つい…」


彼方「あっ、いえ…こちらこそ…すみませんでした…」


彼方M「彼女はひかりと瓜二つだった。

でもひかりじゃない。

当たり前だ。

それでも、彼女ともっと話をしたいと思った。

…離れたくないと、思ったんだ。」


(間)


あかり「お一人ですか?」


彼方「…へっ?…あ、一人、です…」


あかり「カフェでお茶でもいかがですか?

…って、コレ、ナンパみたいですね(笑)」


彼方「…っ!ぜひ…!嬉しいです!」


彼方M「それから適当なカフェに入り、彼女と話をした。

彼女の名前は『あかり』。

喋り方、笑い方、仕草までも、ひかりと瓜二つだった。

…正直何をはなしたのか覚えていない。

連絡先を交換して、その日は別れた。」


(間)


彼方「…こんな事って、あるんだな…」


彼方M「俺は半分ほうけていた。

現実感がなさ過ぎて、実感が持てなかった。

でも、あかりとはなしている時間はとても楽しかった、と、思う。」


(間)


彼方M「それから頻繁にあかりと会って話をした。

そしてある日、意を決して告白をした。

あかりは恥ずかしそうに頬を染め、コクン、と小さく頷いてくれた。」


(間)


あかり「彼方かなたー!今日の夜ご飯、何食べたい?」


彼方「んー…そうだなぁ…ハンバーグ!ハンバーグ食べたい!」


あかり「えー?先週もハンバーグだったじゃん!」


彼方「いーじゃん!ハンバーグ好きなの、俺!」


あかり「ふふっ、子供みたい」


彼方「子供で結構ですぅー」


あかり「はいはい、じゃあ夜ご飯は、ハンバーグね」


彼方「よっしゃ!」


(間)


彼方M「他愛無い会話を交わしながら、日々が過ぎて行った。

ひかりに対する罪悪感はあったものの、あかりと過ごす日常に、幸せを感じていた。」


(間)


彼方「ねぇ、ひか………あっ、ごめん…」


彼方M「気を抜くと、ひかりの名前を呼びそうになる。

あかりと付き合い始めて、幾度いくどか『ひかり』と呼び間違えることがあった。」


あかり「…もしかして、出会った時に間違えた友人って…元カノ、だったりする?」


彼方「……あ……うん…ごめん…」


あかり「何で謝るの?」


彼方「だって失礼だろ。名前間違えるとか…」


あかり「…そうね…

でも、彼方かなたにとってその人は『特別』だったんでしょ?」


彼方「………」


あかり「大丈夫、怒ってないよ」


彼方「…ごめん…」


彼方M「いつまでもひかりを引きずっている自分が情けなかった。

…何より、あかりに申し訳なかった。」


あかり「ねぇ、ひかり…さん…?って、そんなに私と似てるの?」


彼方「…うん。外見もそうだけど、仕草とか、そういうの、全部が似てる…」


あかり「ふーん、そうなんだ。」


彼方「…忘れようとは、してるんだ。」


あかり「…忘れようと思って、忘れられるものでもないでしょ。」


彼方「でも…今付き合ってるのはあかりだし、俺、あかりの事、ちゃんと好きなんだ。ひかりと似てるから、とかじゃなくて、あかりという人が、好きなんだ。」


あかり「…照れるよ…」


彼方「これだけは分かって欲しくて。」


あかり「うん、ありがとう…大好きよ、彼方かなた。」


彼方M「そう言った彼女は、目に涙を浮かべていた。

ホッとしたような、そんな表情だった。」


(間)


あかり「あのね。」


彼方「うん?」


あかり「ひかりは私の双子の妹なの。」


彼方「……へ?」


あかり「一卵性の双子。だから、似てて当たり前なの。」


彼方「…ちょっと、待って。

ひかりに双子の姉がいるなんて、聞いた事ないし、会ったこともない。

…あかり、何を言ってるの?」


あかり「私は生まれてすぐに死んだの。だから、彼方かなたが知らなくて当然なの。」


彼方「…ごめん…全然笑えない。」


あかり「冗談を言ってる訳じゃないの。私は生まれてすぐに心肺停止。

それからずっと、あかりを見てきた。」


彼方「…何言ってるか…分からないんだけど…」


あかり「…生きて両親から愛されるあかりが羨ましかった。

友達や恋人と楽しそうに生きるあかりが、羨ましかった。」


彼方「………」


あかり「あの日、交通事故を起こした日。遊園地からの帰り道。」


彼方「…っ!!なんでそれ…言ってなかったよね…?」


あかり「私は空からずっと見てた。ひかりをうらやみながら、ずっとずっと、見守ってたの。」


彼方「…え…でもひかりは即死で…ってか、あかりが死んでる、って…どういう…」


あかり「彼方かなたは覚えていないんだね。

あの日、事故を起こして死んだのは…彼方かなただよ。」


彼方「……へ…?」


あかり「いきなりこんな事、言ってごめん。

すぐに受け入れられる事じゃないって、分かってる。でも…」


彼方「…でも…?」


あかり「ふふっ…『名はたいを表す』って、本当にその通り!

…『光り』は全てのものを照らす。

『灯り《あかり》』なんて小さな光は、到底敵わないよ。

彼方かなたも、ひかりの方がいいんでしょ?

ちっぽけなあかりなんて、誰も必要としてくれない!」


彼方「そんな事ない!」


あかり「…っ」


彼方「…『光り』は、確かに強い存在かも知れない。

でも『灯り《あかり》』は!『光り』が届かない場所を照らしてくれる!

…俺、まだよく状況が分かってないけどさ、あかりのお陰で、幸せになれたよ?」


あかり「…彼方かなた…」


彼方「…だからさ、そんな事、言わないでよ…

俺には、あかりが必要なんだよ…」


あかり「…ひっく…彼方かなた彼方かなたぁ…!!」


彼方「(ため息)……そっかぁ…死んだのは、俺の方だったんだな……良かった…」


あかり「ひかりから、彼方かなたを奪ってごめんなさい…!」


彼方「…あかり?

…謝らないで。

俺と出会ってくれて、ありがとう。

…こんな事、はなしたくなかったよな…

俺が不甲斐ふがいないせいだ…

…今までずっと、辛かった…?」


あかり「…っ!うっ…!生き、たかった!!!

両親と、ひかりと!一緒に生きたかった!!!

学校に通って、友達作って、バカみたいなこと話して…」


彼方「…うん…」


あかり「…ひかりが…羨ましかった…!!」


彼方「それでも、ひかりを、見守っていたんだろ?」


あかり「当たり前でしょ!だって私、ひかりのお姉ちゃんだもん!!

ひかりに、幸せになって欲しくて…!!でも、羨ましくて…

うわぁぁぁぁぁぁぁんんん…!!!」


彼方「偉かったな…

これからは、俺が側に居る。

ずっと、ずっと、側に居るから!」


あかり「…彼方かなた…ありがとう…ありがとう…!!」


(間)


彼方M「これは、ある双子の姉妹と、一人の男の、ちょっと不思議な話。


…最後に。

ひかり。生きててくれて、ありがとう。


そっちで幸せになって、元気に過ごしてくれよな。


俺たちはこっちの世界で幸せに暮らすから。


…また、会う日まで。」

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ひかりとあかり【1:1:0】15分程度 嵩祢茅英(かさねちえ) @chielilly

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