第三章 第九節 ~ 初戦決着 ~
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「な、何が起こったんだ⁉」
「わからん! 二人は無事か⁉」
「クソッ! 土煙でよく見えねえッ‼」
もうもうと立ち昇る土煙がリング全体を覆い隠していた。
両者がかち合った瞬間、とてつもない衝撃が周囲を襲い、リングの一部を破壊したのだ。
それにより、観客の視界は完全に遮られていた。
果たして、決着は着いたのか。
二人の選手は生きているのか。
観客が手に汗を握る中、段々と立ち込めていた土煙が晴れていった。
リングには人影が一つだけ。
立っていたのは――
「試合終了――ッ‼‼ リングに立っていたのは――
なななんと! 初期レベルにしてチャンピオンズカップ初参戦‼ 〝アンネームドルーキー〟リオナ選手だあぁぁぁッ‼‼ あのバキュア選手を打ち破り、見事二回戦進出ですッ‼‼」
視界を取り戻したリングの中央で
そのバキュアの元に歩み寄り、リオナは石壁の中から彼を引っ張り出してやる。
「オイ、大丈夫か?」
「……ああ……何とかな」
その光景を見て、観客達はようやく決着を理解したようだった。
誰も彼もが興奮冷めやらぬといった表情で、称賛の拍手を送る。
どんでん返しを見せたリオナは
「うおーーーーっ‼‼ 凄かったぞ二人共ーーっ‼‼」
「バキュアーー、惜しかったなーーっ‼‼ また戦ってくれよーーっ‼‼」
「リオナちゃ~~んっ‼‼ こっち見てえ~~っ‼‼」
リオナと固い握手を交わしたまま、バキュアがぼそりと
「……まさか、我が流派秘伝の奥義が真っ向から破られるとは……。一体どんな絡繰りを使ったんだ?」
「そんな絡繰りと呼べるような大それたモンじゃねえよ」
バキュアが渾身の右ストレートを繰り出した瞬間、リオナはそれに合わせて、バキュアの右の更にその外側から、顔面めがけて最速の左フックを繰り出していたのだ。
相手のストレートに対し、同方向のフックを打ち込むカウンター――
リオナはゲームの合間に漫画を読んだりもするが、その時に見た技を、自分なりにアレンジして習得していたのだ。
(……ま、使う場面が来るとは思っていなかったがな)
リオナがちょっとした思い出に浸る前で、バキュアは沸き立つ観客席をぐるりと見渡し、表情を綻ばせて言った。
「興業試合などどうかと思っていたが……こうもたくさんの声を浴びせられると、なかなかどうして気持ち良いものではないか」
「まあな。正直周りのヤツらなんていてもいなくても同じだが、勝った時の称賛は、味わい深いモンだぜ?」
「フ、それは敗者への当てつけか?」
「個人の感想だ」
未だに観客達の称賛の嵐は
リオナは背を向け、控室へと足を向けた。
「じゃあな。そこそこ楽しめたぜ?」
「それは何より。私も更なる鍛錬を積んで、リベンジを果たすとしよう」
二人がリングを去る。
観客席の
「やあ、お疲れ様! そして、一回戦突破おめでとう!」
「テメェは……」
暗闇の中から姿を現したのは、闘技場の受付で出会ったハイドルクセンという青年だった。
灰色のふさふさ尻尾が左右にパタパタと揺れている。
犬は
「……ま、そいつはどうも」
「バキュアを相手に圧勝とは、
うむうむと
「勿論、約束は覚えてくれているだろう⁉」
「あん? 何の事だ?」
「ふふ、そうやって照れる姿も愛らしい……。忘れたのかい? 私と君がこのチャンピオンズカップで決闘し、私が勝った暁には――君は私の物となるのだッ‼」
ズビシッ!と風切り音が聞こえてきそうな程一切無駄の無い無駄な動きでリオナを指差すハイドルクセン。
そう言えば……とリオナも彼と言葉を交わした時のことを思い出した。
「そういや、そんな約束もしたっけな。だが、オレは冒険者だ。誰か特定の男の隣に根を下ろすつもりなんて、更々ないぜ?」
「君は冒険がしたいのかい? ならば構わぬ、私も共に付いて行こうではないかッ!
(それはそれで面倒だな……)
だが、目の前のこの青年は、決して悪い奴ではないだろう。
実力も確かなようだし、パーティーに入れて連れて行けば、そこそこ役に立つかもしれない。
問題があるとすれば、リオナがソロプレイヤーで、集団行動に慣れていないことか。
あと、彼の言動や行動がやや情熱的過ぎることか。
(……でも、〝結婚〟は困るな)
リオナは見定めるような視線をハイドルクセンに向け、挑発的な態度で言った。
「ま、テメェがどうしてもって言うなら、オレに釣り合うだけの実力を見せてもらおうか?」
「勿論、お安い御用さ! 必ずや君と戦い、私の力を認めさせてみせるともッ!」
ハイドルクセンの瞳がギラリと輝く。
紳士のような態度を繕っているが、中身はバリバリの肉食動物だ。
獲物を前にした時の鋭い視線が、リオナの身体を貫いた。
リオナはハイドルクセンに負けないくらい
「ハハッ、そいつは楽しみだ! 途中で脱落してくれるなよ?」
リオナがAブロックの最終試合だったのに対し、ハイドルクセンはBブロック最初の試合だった。
つまり、
「君の方こそ、この私をがっかりさせないでくれよ? ……さて、そろそろ時間だ。私も初戦へ向かうとしよう」
リオナとすれ違い、ハイドルクセンはリングへと向かう。
その背中から感じる闘気は、大会参加者の誰よりも強く、気高く、決意に満ちたものだった。
「……それじゃ、お手並み拝見といきますかねえ」
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