第三章 第六節 ~ 達人・バキュア ~
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「さて、続いての試合は……これは何とも珍しい! 女性の参加者です!
東側コーナー――闘技場初参加にしていきなりのチャンピオンズカップ挑戦! その破天荒さはこの大会で
「来たかッ!」
ゲートに向かって、光の差さない通路を歩いて行った。
会場では、〝女性〟と聞いて、観客達(主に男性)のテンションが跳ね上がっていた。
空気が割れる程の拍手や指笛が闘技場全体を包み込む。
これではアイドルのコンサートか何かだ。
だが、その
誰もが顔を
時間が凍りついてしまったかのように、彼らは皆動きを止めていた。
静寂が支配し、無数の観客の視線が注がれる中を、リオナは悠然とした態度でリングへと向かった。
しなやかな尻尾を左右に揺らし、観客達を魅了する。
突如として現れた謎の美少女に、会場は完全に言葉を失っていた。
やがて、凍りついたと思われた時間がゆっくりと動き出し、失われた喧騒が戻って来た。
ざわざわと観客達が
「……おい、マジかよ……あんなカワイ子ちゃんが戦うのか?」
「いや無理でしょ! 宣伝か何かだって!」
「でも、ありゃ一体何処の
「そんなのどーでもいい。あんな美少女をこの目で拝めたんだ。俺もう死んでもいい……」
「ちょ⁉ 気をしっかり!」
観客の反応は様々だったが、皆困惑していることだけは場の雰囲気から伝わって来た。
強者として羨望の眼差しを向けられるのも心地良いが、案外こういう好奇の視線も悪くないな、とリオナは内心で酔いしれていた。
リオナの美貌に言葉を失っていた司会が、自らの職務を思い出したように、一つ
「――えーオホン、気を取り直しまして……
西側コーナー――発祥は今より凡そ三千年前、英雄ファルテナも体得していたとされる神話の時代の格闘技〝ガロ流拳術〟! その伝道者が遂にチャンピオンズカップ参戦です‼ 〝グラ拳王会会長〟バキュア選手ッ‼‼」
リオナの向かい側、西側のゲートから現れたのは、明るい色の短髪に刈り込みを入れ、片目に刀傷を負った三十代後半くらいの
武器は拳を守るナックルのみで、その他は道着のような物を着用している。
その
リオナの正面に立つと、頭一つ分以上背が高いことがわかる。
その身長差を見て、周りの観客達が不安げな色を顔に浮かべた。
「だ、大丈夫か、あの娘? この試合で死んじゃったりしないよな?」
「よりによってあのバキュアが相手、か……こりゃ、勝負は決まったようなもんだな」
「あの嬢ちゃんも運が無いねえ。他の相手だったら、ドンデン返しの一つくらいあったかもしれないのに」
そんな声がチラホラと聞こえてくる。
どうやら、このバキュアとか言う男は、この辺りでは名の知れた実力者のようだ。
リオナがじっとバキュアの姿を観察する。
(ふむ……これだけ多くの観衆の目に
少なくとも、一回戦で戦っていたような温室育ちとは別格だろう、とリオナは内心で評価した。
しかし、それは相手も同じなようで、
「……娘……レベルは?」
「あん?」
「貴様の全身から、並々ならぬ闘気を感じる。余程の修羅場を潜ってきた猛者とお見受けする」
「は、そりゃどうも! だが、
「……何?」
リオナの告白に、目の前のバキュアのみならず、観客達までもが面食らっていた。
「な!
「そんなレベルでチャンピオンズカップに挑戦したっていうのか⁉ 無謀過ぎるだろ‼」
「おいおいヤベェよ! バキュアさんなら
「……おい、娘」
「何だ?」
バキュアが厳しい目をして言う。
「悪い事は言わん。今すぐこの戦いを下りろ。今ならまだ笑い話で済む」
「冗談言うなよ。こちとら異世界来てまでこの大会を楽しみにしてたんだぜ? レベルなんてどうだっていいから、早く始めようや!」
「……二度は言わんぞ」
バキュアが構えを取る。
元々大した威圧感だったが、それが更に膨れ上がり、まるで熊でも相手にしているかのようだった。
観客の不安もバキュアの忠告も全く意に介した風も無く、リオナもまたバキュアに
「手加減なんてしやがったら、容赦しねえからな?」
両者の準備が整ったと判断したか、司会が開始の合図をする。
「何やら一波乱ありそうな予感ですが、誰が勝ち上がるも実力次第! 第六十三回チャンピオンズカップ第八試合、リオナ選手VSバキュア選手! レディィィィィイイイイ――、ファイッ‼‼」
「後悔するなよ、娘ッ‼‼」
「こっちの
リオナとバキュアの拳がかち合った。
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