第6話 妹の気持ちが分からない
美桜と目が合う。俺は久しぶりに妹とスキンシップをしているのが、嬉しいので笑いかける。
だが、美桜は俺から目をそらした。
「そ、そろそろ離して下さい」
「おー、悪い」
美桜は、ソファーに寄りかかってぐったりとしている。やはり嫌がられているのだろう。
「おやまぁ、大丈夫? ユウトさんあまり美桜をからかわないで下さい」
母親が、美桜の背中をさする。
「んな大袈裟な。兄妹やぞ?」
再びゴクリと、俺は牛乳を飲む。美桜が口をあんぐりと開けていたが、キッと俺を睨んで、ソファーのクッションを投げてきた。
「に、兄様の変態! エッチ!」
「? ちょお?! 何やねん?」
俺はわけも分からず、投げられたクッションをキャッチする。
ぜーぜーと息が荒くなった美桜は、リビングをバタバタと出ていって、二階の自分の部屋にかけていった。
俺はそれを唖然として、見ていた。
「何やあいつ?」
全く、妹だというのに、何を考えているのか分からない。
「ユウトさん。美桜はお年頃なんですから。扱いは丁寧にしていただかないと」
「丁寧にって。いや、妹やし……」
「それでもです」
柔和な笑顔を向けているが、彼女は怒っているようだ。俺は肝が冷えるのを感じて「分かった、ちょっと謝ってくるわ」と言って、二階へ上がった。
◆◆◆
美桜はお年頃。確かにそうなんだろう。中学に上がり、美桜は俺と距離をおくようになった。
今は母親と同じ様な言葉使いに変わっているが、小学生の頃は彼女も関西弁だった。
天真爛漫なじゃじゃ馬娘といった感じであったが、中学に入り急にキャラ変している。
短い髪も伸ばして、おしとやかなキャラになってしまった。
思春期の娘とはいえ、人ってそんなに変われるものなのか。
それとも母親のDNAがそうさせたのか。まあ、なんにしろ中学生になってからの美桜は、俺には理解しがたい存在となった。
一応、さっきの様に会話位はしてくれるが、何というか他人行儀な感じがして、兄としては寂しいかぎりだ。
俺は美桜の部屋のドアの前に立つ。何故か言い様のない緊張感が部屋から漂っている気がする。
「美桜、入るで?」
俺はドアをノックして、美桜の部屋に顔を覗かせた。美桜は学習机の椅子に座っていて、俺から背を向けている。
「何ですか?」
美桜は後ろを向いたまま、返事をした。
「いや、何か悪かったなって……イヤやったんやろ?」
「……別に気にしてないです」
思いっきり気にしてるじゃないか。と思ったがそれ以上は藪の中の蛇をつつくようなものだ。
「そうか。じゃあ……」
俺がこれでドアを閉めようとすると、美桜が「ところで、兄様。いつも日曜日は家にいるのに。今日はどちらへ?」と尋ねてきた。
「ん? あー、リョータと合コン行ってきたわ」
「え?! 合コンって……兄様! 本当ですか?」
美桜がものすごい勢いで、俺の目の前にやって来た。
「リョータ先輩って、一度ウチにいらっしゃった方ですよね?」
「まあ、そうだけど……」
一度だけだが、リョータがウチに遊びに来たことがあり、その時に美桜はリョータと会っている。
そして、この食い付きようから、もしかして美桜はリョータに関心があるのではないかと、考えた。
真由菜といい、美桜といい、何故リョータにばかり……。確かにイケメンなのは認めよう。運動神経もよく、成績も優秀、多分、性格も良いだろう。
何だ……、モテるに決まっているじゃないか。
だが、まさか妹までその毒牙にやられるとは……。
俺は美桜の様子を冷静に伺う。目が据わっているし、何故か俺が睨まれている気がする。
「いや、俺が誘ったわけちゃうで、リョータが誘ってきたんやで」
「そんな事は説明されなくても、分かります。兄様にそんな伝はありません。それよりも何故、そんなものが必要なんですか?」
「何故って……そりゃ、出会いの一つとして……」
「だから、何故そんなものが必要なんですか?」
私がいるのにっていう事か。そんなにリョータの事が……。
俺は美桜の肩に手をおいて、慈愛に満ちた目でこう言った。
「お兄ちゃんとしては、美桜の恋は応援したいところや。だが、リョータは皆狙っとるんやから、ほどほどにするんやぞ?」
「は? い、いつ私がリョータ先輩を好きだと言いましたか? バカなんですか? それよりも兄様はその合コンは上手くいったんですか? 上手くいくわけないですよね?」
「はぐらかすなや……まぁ、えーケド。お察しの通り俺は相手にされてへんわ」
「そ、そうですか。なら良いんです」
心なしか美桜は、ホッとしたような顔を覗かせた。俺がモテないのがそんなにうれしいのか。なんとも嫌われたものだ。いつからそんな風になってしまったのか……。
美桜は自分の髪をそっと触る。同じ兄妹とは思えない程、容姿が整っている。
俺にも同じDNAが流れている筈なのであるが、自分の顔にはそれが表れなかったようだ。
先ほど知り合ったエリにもラインを送ったが、既読スルーされている。
これがリョータならすぐにラインでのやり取りが進むのだろう。
俺は美桜との会話を切り上げて、自分の部屋に戻った。
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