第48話 暗闇
――その真っ暗な空間は、時間間隔を奪っていきいったいどれくらい経ったのか俺は分からなくなっていた。
「…………」
警戒を続けながら、前へと進んでいく。
神器のおかげで、まだ活動はできているが……この均衡がいつ終わるのか、不安になりながら、ずっと――
「――っ!?」
しかし、突如足元が掬われる。
泥に足を踏み込んだときのように、ずぶずぶと沈んでいき――とっさに、剣を突き立てて沈まないようにするも、突き立てた剣ごと引きずりこまれていく。
……そこは、先程までの暗闇とはまるで異質な空気を放っていた。
「ここ、は……」
果てしなく広がっていると、理解させられてしまう。
暗いのに、輪郭を捉えることができるという矛盾。
恐ろしく、そして心臓の鼓動が早まる……ここを知っていると、脳が錯覚する。
妙な既視感。
水晶の竜絡みかと思っていた。
でも、この熱く、深く、呑み込まれるような感覚――まるで、『獣』と深く混じり合ったときのようなこの感覚は……。
「あ……ぐっ」
息が詰まり始めた。
いつのまにか神器を手放していたようで……泥が俺を襲い始める。
再び神器を出現させようと、手に力を込めるが、まったく反応しない。……まるで、あの精霊との繋がりが断たれてしまったかのように、体の中の力をまったく感じることができない。
苦しい。
何かが口の中に入りこむ。
必死に吐き出そうとしても、体の中に入りこみ……侵されていく。
「がはっ――」
溺れるように、肺の空気を吐き出し――そうして落ちていく意識。
俺は、天と地の判別も付かぬまま、必死に手を伸ばす。
ここで、終わってはいけない。まだすべきことがある……そう思い、生にしがみつこうとする。
「――グオオオオオ!!」
自分とは思えない、咆哮を耳にしながら……俺は意識を閉ざすのだった。
***
「……はっ!?」
そうして、目が覚めると……先程まで魔獣を討伐していた雪山に寝転がっていた。
空間を侵食しているような泥は見当たらず、綺麗な雪景色が広がっていた。
「なん、だったんだ? さっきのは……」
夢でも見ていたかのように、ふわふわとして感覚が体に残っていた。
しかし、心臓だけはドクドクと少し煩かった。
……考えても仕方ない。とりあえず、なんでもないなら、急いで街に戻るべきだろう。
そう考えて、体を起こし街まで駆け抜けようと、力を込めた。
「……っ」
けれど、獣の力はうまく発動せず、がくんと膝から崩れ落ちる。
「……?」
再び立ち上がり、獣の力を発動させようとして……今度はきちんと発動する。
先程の失敗をなかったことにするように、体中に満ち溢れるくらい力を感じる。
「…………」
俺は、疑問は後回しにして……今は、迅速に街に戻ることを優先しその場を後にする。
――首に走る、黒い紋様に気付かないまま。
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