第二章 繋がる世界と侵略者

第41話 旅立ち


 竜が去って、一ヶ月。

 その間、いろんなことがあった。俺が騎士に叙勲され国の危機を救った英雄として掲げられたり、各地に出向いて魔獣から人々を守ったり……でも、その度に気付いてしまった。


 ――自分が関わる、その度に誰かが死んでいる。


 そんなわけないと、初めは思っていた。でもなにも、俺が全ての事件を解決しているわけではないから……被害報告を比べて、気付いてしまったのだ。

 明らかに有利な状況にも関わらず、死者数、それに味方も傷ついていく。


 獣と精霊は言った――俺の身に、過酷な運命が待ち受けていると。


 きっとそれは、俺自身のことではなかった。大事に思うほど、その存在が大切であるほど……その運命は俺に牙を向ける。


 だから、こんなことになってしまったのだ……


「あ、あああ……あああああ!!!」


 まず、ミリアが深手を負った。

 次にガリア師が、致命傷を負って生死の境を彷徨っている。

 ティーアが魔獣に、食われて……片腕を失って、今では魔術で左腕を模って補っている。


 これも……全て、俺の目の前で。


 だから、俺は願った。王に、この国を統括する支配者に進言した。



 ――どうか、俺に各地へと旅立つことを許可してくれないか……と。



***



「ふぅ……この山を越えれば、次の街……か」


 登山の途中で、猛吹雪に見舞われ仕方なく洞窟で身を潜めて居る。無理に進んでも、迷うだけなので近くに洞窟があってよかった。

 俺は火を魔術でつけると、暖を取るために近くまで手を伸ばしかじかんだ体を溶かしていく。


「ううう……寒いです……」


 と、何もここにいるのは俺だけではない。

 俺の旅の同伴者――カナリア殿下は、身を震わせながら必死に温まっている。

 そう……学院の図書館に迷い込んだと思っていたあの少女……だったのだが、再開したときはまさか王族だったとは知らず素っ頓狂な声を上げてしまった。


「……だったら、もう少し近くにくればいいだろう」

「ですが、ここは一番頑張っている騎士様があったまるべきです」


 カナリア殿下は旅の進行がスムーズにいくように補佐役として抜擢されたらしく、幼いながらもかなり頭が切れていた。

 見た目は小さいのに大人相手に啖呵を切るところはさすが王族というべきか。おまけに魔術もかなり使えるので、役には立っている。


 ……そして、なぜか俺を英雄視しているのかかなり慕ってくれている。正直に言えば、少し鬱陶しい。きっとミリアのせいなのだろうが。


「……いや俺の方は、丈夫だから問題ない。それよりカナリア殿下のほうが幼いのですから、俺より冷えているはずです」

「ですが……お役に立てない私など……」

「……ここで、熱でも出されたほうが迷惑です。さっさと温まってください」

「……はい」


 少し強めに言わないと、こちらの指示に従ってくれないうえに妙に自分を下に見ているせいで、一々このやり取りをしなくてはいけない。面倒くさい……だが、助かっている部分もあるため、あまり強くは言えないので大変だ。


「あったかい……」

「そりゃ……火ですからね」


 何を当たり前のことを……とも思ったけど、よく考えてみれば王族に“凍える”なんて経験するほうが珍しいので、暖まるってこともないかと納得する。

 きっと全部が輝いて、素晴らしいものだと見えているのだろう……昔の俺がそうだったように。

 今は、そうは思えない。この世は、すべてが不条理でできていて……そてをただ必死に見ないふりをしているだけなのに。そうとは知らない、この子が少しだけ羨ましく思えてしまうのは……きっと我儘なのだろう。


「さて……このまま吹雪をやり過ごしますが、今夜中に街までたどり着くことは不可能でしょう」

「そうですね……この悪天候ですもんね」

「はい。ですので、今夜はここで野営をすることになりますが……よろしいですね?」

「――! もちろんですっ!」



 こんな状況だというのに、やっぱりうれしそうに輝いて笑うカナリア殿下は……少しだけ鬱陶しい。

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