第35話 魔獣前線(12)
――これほどまでに、緊張する戦いはあったのだろうか。
そう考えるミリアとティーアは先程よりも激しく襲い掛かってくる魔獣たちを処理しながら、同じことを考える。
それはきっと守るべき相手が身近にいるから、復讐すべき相手が目の前にいるから。なのだろう。
「……ふぅ…………はあぁああ!!」
ミリアは息を整えて一泊置くと、足に力を籠め大きく跳躍する。その行動は魔獣の注目を集める。しかし落下の勢いと才能を使った剣捌きでまとめて殲滅していく。……ただの剣で、こんなことができるのかいささか疑問だが、ミリアはできると確信していた。自分の才能の限界が気になり始める。
そして、そこから少し離れたところで、誰の目にもつかず死体の山を積み上げる者がいた。
瞬きすれば、一つ山ができあがり、数秒もすれば血の雨が降り注ぐ。
「……死ね魔獣!」
明確なる殺意を以て、遅く進む時間の中で的確に急所を貫いていくティーア。その勢いは殺せば殺すほど、加速していく。常人ならばすでに目で追いつけない領域にいるというのに、「足りない」と言わんばかりに焦るように、次の獲物を定める。
「…………遅いっ」
その眼差しは、恐ろしいまでに見開いて、マナは尽きることなく高まっていく。感情を薪にくべて、どんどん突き進む。
短剣を逆手に構えて、魔獣の弱点を一突きで仕留めて……仕留めて、邪魔な障害物を取り除くように、殺していく。
「……」
そんな光景をミリアは憐れむように、見つめている。
それが戦場でよく見かける、復讐に走る者の眼とそっくりだったからか……それとも、ヴィルの知り合いが傷つくように戦っているからだろうか。無性に気になって仕方ない。
襲ってくる魔獣の首を切り落としながら、ミリアは考える。しかし、数が増えてきたので、囲まれないように一度態勢を立て直す必要がある。
「……よい、しょっと!」
一度魔獣から距離を取り、壁際まで移動する。
地を蹴り、一か所に留まらないよう常に移動しながら、三角跳びの要領で制空権を握っていく。
飛び降りた際に、魔獣を斬りつけることは忘れずに何度も繰り返していく。
「――ッ!」
しかし、何度も同じ攻撃をしていてはさすがに学習されるのか。同じように壁を蹴って高さを稼ぐことで、左腕にかすり傷を負わされる。ちょっとした傷だったけど即座にその魔獣を足場にして、離れる。
そのタイミングに合わせるように、ミリアを取り囲み一斉に攻撃を仕掛ける。全方向から同時に襲い掛かり、流石のミリアでも対処は難しいか……そのように思われるも、
「甘いよっ」
一瞬だけ姿を見失うと、横からひょこっと現れる。
一対多はミリアの最も得意とする分野である。味方同士を衝突させるように身をかがめ、ぶつかった頭部を切り捨てることなんて息を吸うようにできるのだ。
攪乱するように背後を取ったり、魔獣の下を滑り込むように入り込み、胴体を斬る。
けれど、数にキリはなく、比較的軽傷とはいえ疲労はいつか限界を迎えるだろう。そして、住民の被害も計り知れない。
自分のことだけはきにしていられないのだ。
「……あと、どれくらい……――っ。かはっ――」
周囲のマナの高まりから、《転移》を使って住民を避難させることは予想できるけどこの数の魔獣をどう殲滅するのか。あとどれくらいで非難は完了するのか。
街の構造も理解できていない。それに、こうして泥戦になっている時点で作戦を立てても意味をなさないだろう。だから、転移発動までに私が何とか堪えなければいけない。
「はあ……はあ……が、ぐぅ……」
そう考えていたミリアは即座にその考えを捨てる。肌に突き刺さるように感じるその『圧』に押しつぶされて膝をついてしまった。戦場では死に直結するようなあまりの失態だが……それは他の魔獣も一緒のようで、例外はティーアくらいなものだ。彼女だけは気にせず、嬉々として魔獣を狩り続けていく。動かなくなったことに疑問すら抱いていないようで、目の前の魔獣しか見えていないようだ。
「これ、は……ガリア団長の?」
気配は似ている。
けれど、その高まり方が異常だった。どんどん上昇していって未だに上がり続けている。
「そう言えば、聞いたことがあったけ? ――『『黒竜狩り』の力は、普段は抑えられている。それは何故か? 竜と同等の力を隣に、落ち着いて寝られるか? つまりはそういうことだ』って。ただの噂だと思ってたけど……あながちデマとは言い切れないかもしてないね」
もし竜という厄災があるとすれば、こんな絶望を言うのだろうか? あまりの圧倒的な力にミリアは思わず、人と竜を錯覚してしまう。
恐怖と畏怖。
真の英雄に対して、そう再認識するのであった。
***
……ガリアは、全神経を集中させてこの力の奔流を制御することに費やしていた。
久しぶりに発動させる、本気の『オーラ』はガリアの手に余るほど強大な生命力で、『黒竜』を相手にしたときよりも強まっていた。
「やはり、謎が、多いな……この技法は……」
「な、なんなんですか~それ~」
「む、すまんな。だが堪えてくれ。これでも精一杯なのだ」
「……ええ~」
一見余裕そうな口調だが、膝はガクガクと震えて手に持つ杖を取り落として子供のように情けなく喚き散らして、命乞いをしていたかもしてないほどに恐ろしかった。
でも、これが……英雄の力。
「……ぐ、ぅぅぅ」
「……」
固唾を呑んで見守るしかなかった。《転移》発動まであとは時間をかけていくしかないので、途中で失敗しないよう慎重に術式を組み立てていく。
緊迫した空気の中で、留まるところを知らずに上昇していくガリアの力を感じながらマナを調節して、街全体を覆っていく。
「……セエエヤアア――!!」
両手剣を天に掲げ、オーラを刀身に纏わりつかせると恐怖に耐えかねて襲い掛かってくる魔獣たちをまだ間合いの外だというのに、一刀両断する。
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