第24話 魔獣前線(1)
俺たちが向かっているのは、魔獣がうじゃうじゃいる群生地の近くにある街で、周期的に魔獣が大群で襲ってくるそうだ。
そもそも、なぜ魔獣の群生地の近くに街があるのか。
それは単純明快、溢れ出るを食い止め定期的に駆除するためである。それは冒険者と呼ばれる何でも屋だったり国の兵士、騎士だったりとそこに住まう者全員で連携し、戦い守る。
しかし、今回は魔獣の大氾濫――スタンピードと呼ばれるそれは今までの比でないくらいに大量だそうだ。
「……そこで、ガリア師が呼ばれるのは分かりますし、ティーア先輩が連れていかれるのも、まあ理解できます。けれどなんで俺まで、一緒に行くんですか?」
そこで、国の命令でガリア師がその街へ支援に向かうそうだ。しかし、なぜか俺やティーアも一緒に連れていかれたのだ。
「そうだな。少年がスタンピードで役に立つかと言われれば、そうではないだろう。……だが、足手まといというほどではない」
ガリア師は俺の頭を乱雑になでて、俺の髪をぐしゃぐしゃにする。照れくさくて、顔を背けるがその先にはティーアの顔があってさらに恥ずかしくなる。
「少年が頑張っているのは知っているし、過大評価も過小評価もしていない。自覚はないかもしれないが『オーラ』は確実に増えている」
「……そうですか」
「ああ。だから自信を持て」
「……
そう言われて、これ以上反論する気も起きない。自分の頑張りが認めてもらえるっていうのは、今までにないことで思ったよりもうれしくて「期待されている」その心が伝わってくる。
「がんばりますよ」
「おう」
「……うん」
外の景色を眺めながら、その街の到着を待つ。騎士団の団長のもなればいい馬車をもらえるのか快適でさらに移動速度が速い。
馬車の旅といえば、村から王都への移動の旅を思い出すが……あの頃はお尻は痛いわ、揺れるわで馬の休憩がなければひどい有様になっていた。
おまけに、ヴァーグ村は王国の端っこに近いので距離も遠く何日もかけて移動していたので、今と比べるのがおこがましいほどだ。
***
そうして馬車で揺らされること数時間。日は高く昇り切ったところでようやく到着した。
そこは、ごちゃごちゃいていて人の行き交いが多く酔ってしまいそうになる。
「うぅ……」
それは、ティーアも同じようで馬車から降りた途端にふらついていた。
ガリア師は……常に注目を集めて衆人環視の中にあるようなものなので慣れているようだった。
「ふむ。俺はさきに冒険者組合に向かうが……お前らはどうする?」
「冒険者組合、ですか……できれば行ってみたいですね」
冒険者たちが集い、依頼を受ける窓口となっている冒険者組合。誰でもなれるし、その需要は幅広い。村にも騎士よりも一攫千金や完全な実力主義の冒険者に憧れる者のほうが多かった。俺は騎士一筋なので冒険者というものには知識にある程度にしか興味ないが。
「そうか。……ティーアは――」
「無理……でも独りはいや」
「ならば、しばらく辛抱してくれ」
ティーアは俺の後ろに隠れながらガリア師についていくことにしたようだ。ガリア師が御者にお礼を言うと、冒険者組合までの道のりを尋ねていた。
すると御者は一際人の多い場所を指して、そこの通りにあると言っているのを聞いて俺とティーアは眩暈がする。
「ええと、えぇ……」
「本気?」
「……いや、お前らこれくらいの人混みくらいで根を上げるのは情けないぞ」
「その……村育ちで王都にもそんなに出向いていなかったので、慣れていなくて」
「同意」
「はあ……まあ、よい。はぐれないように、それだけは気を付けておいてくれ」
俺たちを気遣って、ゆっくりと先導するように道を歩いていく。人混みをかき分けて進んで、一定の距離を保っている。
「ふぅ……まさかここで、王族のお忍びでの護衛の経験が活きてくるとはな」
「……」
「……」
「…………すまん。忘れてくれ」
何か騎士団長という地位の闇を覗いた気がするが気のせいとしておこう。しかし、鎧を身に纏い身長も高いガリア師は威圧感が半端ではない。
後ろ姿であっても凄みを感じる。
「うっ……」
「……んぅ」
しかし、その頼もしい背に守られているとはいえ人混みのなかにいるという事実がかなり堪える。血の気が引いて、頭が真っ白になっていく。
「本当に、苦手なのか」
そんな様子を見て、ガリア師は申し訳なさそうにする。しかし自分からついていくと言ったので、ここで引き返したくはない。
「そういえば、先輩は冒険者に興味あるんですか?」
「……ない」
「あれ、そうなんですか」
「ん……
「ああ……まあ、粗野な人が多いとは聞きますよね」
「苦手……」
気晴らしに盛り上がりそうな冒険者について話そうと思っていたが、どうやら話題を間違えたらしい。ティーアと何か他の共通の話題と言ったら……何かあっただろうか。
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