第21話 ヴィルの強さ・発芽(3)
ティーアは強く、そして稀有な才能を持っている。それは、“刻測”という魔術属性故にだ。秘密だと詳しくは教えてくれなかったが、実際に戦ってみるとその属性がいかに強力かが分かる。
「くっ――」
「……
「ちょ、やっぱ、はやっ……!?」
右から斬りかかられたと思えば、今度は左から。多方面から同時に攻撃され、対処が追いつかず切り傷が増えていく。
魔術が発動している証として、術式が体に浮かび上がり仄かに光っている。一瞬だけ、大きく輝いたかと思えば、背後にストンと立たれる気配がして振り向きざまに横に大きく重く振るうが、片手剣で簡単に受け止められ空いているもう一つの剣で刺突してくる。
「――《
「……っ!」
それを事前に左腕に仕込んでおいた茨を巻きつけることで防御し、そのまま華奢で軽い体を引き寄せ胴体を蹴り飛ばそうとする。
「……温い」
「う、ぐぅっ」
引き寄せる力を利用して跳躍し、再び背後に立つと巻き付いた茨を絡め取り逆に地面に、押し倒される。
「
「まだ、まだぁ!」
起き上がりざまに茨を地面から生えさせ、拘束することで身動きを封じてから……攻撃する! 瞬時に術式を組み上げ、足元から現れるように設定する。
避けられることなく拘束することができ、剣でその首へと目掛けて構える。
「はあああ!」
「…………
「え?」
「《タイムカウント 1:2.5》」
同時に茨が千切れたように見えると、そこから先は暗くなってきた空を見上げていた。そこへ、首元に剣を突きつけられ俺は降参の意味で武器を手放し、両手を上げる。
これで今日の戦績は『5戦0勝5敗』。完敗である。
「……はぁ」
「勝利」
勝てるとは思ってもいないが、せめて最後のアレくらいは見えるようになりたい。とにかく速いのだ、ティーアは。
動作の初動が見えず、気がついたら移動している。武器を振るっている。初めの頃は、それすら見えず気がついたら転ばされていた頃に比べたらだいぶ進歩していると思うけど。悔しいがまだ目標にはほど遠く、改善点も反省点も山ほどある。
「……約束。シチュー」
「分かってますよ。ガリア師も構いませんか?」
「構わん。作ってくれるだけで助かっている」
しかしそれは、夕食のあとでもいいだろう。
この試合では、夕食の権利をかけて勝ったほうが好きなメニューを相手に求めることができが俺が勝てるわけはないので、ティーアが常に決めている。
「材料あったっけな?」
貯蔵庫の中身を思い出しながら服についた土を落としていく。たしか、芋はあったのでたくさん入れてあげれば喜ぶだろう。
俺も好きだし、ティーアの好物でもあるため様々な料理に使える芋は便利で日持ちも腹持ちもいい。
「
「あ、大丈夫ですよ先輩」
「そう……」
「今日は芋をたくさん使うので、楽しみですね」
その瞬間、目の色が変わったことを見逃すことは難しかった。身を乗り出して、俺の顔を覗き込んでくるんだから分からないはずがない。
「帰るか」
ガリア師は腹がへったと言って、王城から出るために門の方へと向かっていくので慌てて追いかける。ガリア師がいなければ門を潜ることもできないので先に変えられると王城から出られずに夜の警備で捕まってしまう。
それはごめん被るので、置いていかれないように後ろを歩く。
王城を出たすぐ近くの小さめな屋敷がガリア師の家であり、俺がお世話になっている家でもある。こんなに広いのに、使用人の類はおらず俺がくるまでガリア師一人だけで暮らしていたらしい。ティーアはまた別の場所で暮らしていたが、俺が料理を作ってごちそうしたら居着いてしまった。
「……俺はこのまま夕食作るので、できたら呼びますね」
「うむ」
「……うん」
台所と貯蔵庫に向かってやや手間取りつつ料理を作り終え、3人で一緒に食べていると毎回実家を思い出して元気にしてるだとか、たまには顔を出したほうがいいかとか考えてしまう。
その暇はないし、作るつもりもないが誰かと食事というのが久しぶりで感傷的になっているのだろう。
「味は大丈夫ですか?」
「……ん」
「ああ。問題ないぞ」
「美味」
「なら、よかったです」
しっかり味見してるとはいえ、他人に食べてもらうのは緊張する。けれど二人とも食べる速度が落ちずに次々に口に運んでいくので、見ていて少し面白い。
特にティーアはあっという間に皿の中が空になるので、すぐに鍋からまたよそって渡せるように常に目を光らせているが……いつも気がついたら皿を持って、「おかわり」と渡してくる。
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