第19話 ヴィルの強さ・発芽(1)
俺が、ガリア師に連れられ王城にて指導を受けるようになってすでに一週間が経過しようとしていた。
朝から晩まで付きっ切りで修行する日々は常に俺へと緊張感を与え続けた。まず、ガリア師と一日中行動を共にして過ごす。騎士団長として部下を鍛え上げる仕事もあるようで、俺はそこに混ざっていた。特に不満を抱かれることもなく、むしろ互いに励ましあいながら頑張るくらいだ。
だが学生と現役の騎士では実力に違いが生じてしまう。なので、ものの数時間で体力が尽きてしまう。しかし、俺の本当の地獄はここからだった。
「立て! まだ終わってはいないぞ!」
「く……うぅっ」
ガリア師に叱責され、力の入らない四肢を奮い立たせる。情けないようだが剣を杖代わりにしてようやく立ち上がることが出来た。ガリア師は黙ってそれを見つめ……
「――ぐあああ!!」
「すべてを絞りつくして、空っぽにしてその身で感じ取れ! 身にまとう力の存在を! 世界に満ちるこの『オーラ』を!」
とても人間とは思えない拳の威力で殴られる。その際、温かい空気のようなものも流れ込んでくる。そうして、俺の体は活力を取り戻し、エネルギーで満ち溢れる。
痛みは感じるが、それもこのエネルギーが治してくれる。
――『オーラ』と呼ばれる誰しもが持っている力だそうだ。
ガリア師はこの修行を始める前に言っていた。俺には、才能が足りないと。
しかし同時に、だからこそ自分の後継者になれるかもしれないとも言っていた。『オーラ』を自在に操り、そのエネルギーを身に受け戦う騎士に。
――最初は、騎士団全体に広めようと試みてみた……だが、誰もが感じ取れるところから成長せず自分の“力”に気付かない。……それは、優秀な騎士であればあるほどにだ。
だからこそ、俺は少年に活路を見出した。確信できるほどに少年には何もなかったからな。
だから、こうして体のエネルギーを使い切った後は『オーラ』を流され感じ取る。そうしてまた使い切る……これを一日中だ。
死を感じることなんてこともあった。怖いし、恐ろしいし……でも、あの時の森での体験が俺に伝えてくる。この程度は何ともないと。
「はぁ、はぁ……」
「おー、がんばるなヴィルは」
「え、ええ。着実に強くなっていく実感があるので、そりゃ頑張りますよ」
休憩中の騎士に話しかけられ、俺はそう答える。
その騎士は思い出すように、空を見上げる。
「俺も受けたことあるが、一発で吐いちまったよ。そう考えれば、お前はよく続いてるなぁ……」
「……まぁ、俺にはこれしか道はなさそうなので」
「ほーん。ま、がんばれよ」
そう言って、持ち場に戻っていく。俺は先程やっていた訓練と魔術、《
「ふむ……では、今日はここまでか。各自自己鍛錬を怠らぬよう」
お昼を過ぎたあたり、ガリア師は騎士の仕事に向かって行く。当然『オーラ』による回復ができないので、体力が底を尽きたらそこまでだ。
しかし、だからと言って休めるわけではないが。
「……うへぇ」
渡された魔術書を読み込んで、魔術に対しての理解度を深める。王城の蔵書庫にあった物を片っ端から騎士団長の権限で持ってきたらしけど、正直難しずぎる。これなら教科書でも読んでたほうが、勉強にはなる。
それに学院にあった魔術書は読みやすかった。おかげで使い勝手がよさそうな《
「それに、他にも面白そうな魔術の術式を作ってたよなあ。これ作った人」
一体何がしたかったのか、それは分からないけどすっかり愛着が湧いてしまったこの魔術の作者ともなればさぞ気に入っただろう。並々ならぬ情熱と執念を感じるところがこの術式の丁寧さ、隅々まで余さず感じ取れる。
それに、勝手な思い込みかもしれなけど理想と情熱が現実に敗れた人……のような気がして、共感してしまう。
「ガリア師に言えば、取り寄せてもらえるか……?」
いや、やめておこう。ただでさえ訓練を見てもらって、ガリア師の家でお世話になっているんだから、取り合えずこの本を読み込もう。
「…………んあー!」
そう意気込むもこの本が難しいことには変わりないし、せめて魔術の一つでも覚えようかとも思ったが、複雑すぎて扱い切れる気がしない。
俺の魔術属性は“無”だし、ほかの属性の魔術となると《清水》みたいに初歩的なものしか使えないのだ。
「ああ、もう。魔術の練習もしとこ」
《
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