第9話 守る仕事

 魔獣とは、人を害する獣の総称であり意思疎通を図ることは不可能である。

 かつてこの世界を混沌に貶めたとされる魔王が生み出したとされており、その身には汚染されたマナ――魔術を行使する上での燃料、世界に満ちるエネルギー――を宿している。

 そのため、凶暴で危険なのだ。


「……さて。改めて今回の課外授業の一環である、魔獣討伐について説明する」


 そして、俺を含めた騎士学院の全員が王都から離れた街まで来ていた。理由は今目の前で話している教官の通りだ。


「この森には数多くの魔獣が生息している。いつもなら近くの街の傭兵に駆除してもらうが……今回は特別に訓練のために我々で行うこととなる」


 その言葉でこの場の全員に緊張が走り、皆が腰に携えている剣に自然と手が向かう。

 緊張から汗がつぅと頬にたれる。

 一般人では敵わない魔獣は戦闘を生業とする職業でなくては戦うことを禁止されている。

 今まで守られる側だった俺たちがついに守る側になるんだと、強く感じられる。


「怖いだろう。恐れてしまうだろう。……だが、授業で教えた魔獣の生態や弱点。訓練で培った技術と肉体があればお前らならば大丈夫だ!」


 教官が発破をかけ、俺らを鼓舞する。現役の騎士でもある教官のお墨付きだということで、徐々に自信がわいてくる。

 自分ならできる、立派な騎士になれる、と。


「では、これより自由行動とし班を組むのも個人で討伐するもよし。連携か個の力、どちらも騎士にとって必要なことだからな」


 と言われて、辺りを見渡すが俺を除いて全員が班を組んで事前に作戦会議でもしていたのかスムーズにサクサクと森に入っていく。当然一人となった俺はこうなることを予測していた。誰も足手まといなんて引き連れて成績を落としたくないからな。

 だから俺は一人で森へと警戒しながら進んでいく。木の背が高く日の光を遮っているのか薄暗く、気が密集していて視界が悪かった。なので物音に注意しながら、慎重に進んでいく。

 俺は騎士になりたい。でも実力が不足しまくっていることは分かっている……つもりだ。こうして、過剰に慎重に警戒しなければそこらの魔獣にやられてしまうだろう。

 それこそ同学年の騎士見習いですらにやられるレベルの魔獣であろうと。


「……ッ。……なんだ。ただのウサギ、か!?」


 衝撃。

 胸に鋭い衝撃が伝わり、突然のことで肺の中の空気が強制的に吐き出される。なんだと思い、見下ろすと先程見かけたウサギが俺に頭突きしていた。

 何か細く尖ったもので刺されている。胸当てがなかったら危なかった。


「ウサギの一角獣……このっ」


 それは魔獣の一種で、素早い動きと頑丈な角が特徴だ。さっきは角草むらで隠れていて気付かなかった。

 慌てて後退し、すでに抜いていた剣をウサギへとむけて構える。


「キュウー!」

「――ふっ」


 一直線に突っ込んでくるので、横に避けてがら空きの胴体を一突き。痛みでもがくところを地面に押さえつけて、何度も串刺しにして傷を負わせていく。


「……きゅう」

「ふぅ……はぁ」


 やがて動かなくなったことを確認し、ひとまず一匹は倒せたと一段落する。

 初めて魔獣を倒したことで若干の高揚感と達成感が残り、それにいつまでも酔いしれていたかった。


「ふ、ふふふ……」


 自然と口からは笑みが漏れ、血の付いた剣でさえ今は誇らしかった。

 しかし……


「はぁ……手間取りすぎ、だよな」


 今のが他の班なら数十秒ほどであっさりと始末していた。それも首や頭など弱点を狙ってきれいに。


「……」


 俺は自分が殺した一角獣を見ると、何度も剣で突き刺されたような傷だらけで、皮はボロボロだった。

 魔獣の毛皮は高く売れることもあるので、少し損をした気分になるが安全に駆除することだけを考えるなら、俺の場合はこれが正解だろうと納得させる。


「とりあえず、討伐の証明のために角だけでも折って持っていくか」


 俺は角へと手を伸ばし、パキッと折る。

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