第1話 歴史が変わる。とってもアカンやつだ!
私、やらかしました!
私は歴史大好きで、その辺りは鼻が高い。ピノキオばりに伸びてる。そんな私でも、戦国のリアル戦闘に秒速で吐いた。
朝倉義景を滅ぼす織田軍勢を尻目に、勝ち組軍隊で
あとさき考えずに逃げました!
虎御前山の砦に戻ってきたときは、何ていうか
弥助が携えてきた食料も底をつき、途中、敗残兵にもからまれ、50キロほどの距離を一昼夜かけて戻ってきたんだ。
12日の暴風雨で
織田軍は越前に総攻撃をかけ、一乗谷の城下を焼き討ちするという、さらに凄惨な戦いをしている頃だ。
女は暴行を受け、男は殺され、家は焼かれる。
言葉はいいよ。そういうことがあったんだって言葉だけだから。
若い時の信長は、これほど冷酷じゃなかったと思う。
弟をはじめ数々の裏切りにあって、きっと心が死んだ。特に、浅井長政の裏切りを知ったとき、信長は心底から愕然とした。
強すぎる自己肯定感に孤独と挫折が加わった。この3つの感情が信長を変えたのだと思う。
「なぜ、あの信長に命を託す」
だから、私は帰り道、弥助に聞いた。信長のためなら死ねるとまで言いきった彼の信頼する下人だ。
「なぜ? へぇ、考えたこともねぇ」
「考えたことがない」
「へぇ、ねぇでさ。ただ、信長さまは必死ですだ。わしゃ、あの姿が切ないんで。そいで、わしのような者にも対等に声をかけてくださる。あん方が怒るのは、やらんでもいい失敗をしでかした時だけでさ」と、弥助は言った。
朝倉軍が越前へと逃亡したとき、先陣であった佐久間信盛、柴田勝家、滝川一益、羽柴秀吉、丹羽長秀が出遅れ、それを烈火のごとく怒ったと史実には残っている。
「怒ると怖いのか」
「怖いって、そんなもんじゃねぇ。地獄の
「そりゃ、むちゃ怖いじゃないの」
「へぇ、そりゃあ、恐ろしいで」
私は5人の武将たちを思って、ちょっと笑った。日頃、偉そうにしている上の人たちがやられるって、そりゃ、庶民にとっちゃ娯楽なわけで。
「なんだね」
「勇猛な武将たちが、信長に怒鳴られて小さくなってる姿を想像した」
「ほお? 誰が怒られる」
「佐久間信盛、柴田勝家、滝川一益、羽柴秀吉、丹羽長秀」
弥助はムっとした表情を浮かべた。それは、あるかないかの微妙な変化だが、あきらかに苛立った表情を浮かべた。泥で汚れた黒い顔をかくと、それからモゴモゴと呟いた。
「あなた様は、本当に畏れを知らんのじゃな。わしだけならええが、そんなふうに呼び捨てしちゃあかんでよ」
「あかんか」
「あかん……、それにそういう態度はお館様の興味を引く」
「ふうん」
「気をつけたほうがええ」
「気をつけるって?」
「殿は手が早い」
思わず吹き出した。
弥助は首を振って、それから、馬の
平原に入り、見慣れた土地の先に虎御前山が見えた。
あの丘の頂上に砦がある。
「あの砦にいなさるんかね、そのオババという人は」
弥助が聞いた。
「そのはずだけど。別れてから六日も過ぎているから」
そうだ。
あの清水谷の城下に潜入して、その後、大嶽砦の戦いに巻き込まれ、朝倉軍から逃げて、そのまま織田軍とともに刀根坂まで行ったんだ。
「オババは足を怪我して。だから診療所にいるはずだけど。もう6日も過ぎている」
「診療所へ行けばいいだな」
「そう」
弥助が砦に入るとき、誰も
弥助は馬を預けに
診療所に入ると、多く兵が横になって苦痛に呻いている。
オババの矢傷を治療したときは、まだ誰もいなかったんだ。信長の夜討ちだけでなく、浅井長政との小競り合いも起きているのだろう。
「オババ!」
私は暗い室内に目が慣れるのも待てず、大声で呼んだ。
答えるものがいない。
「オババ!!」
簡易なゴザの上に寝ている傷兵たち、ひとりひとり確認した。
「オババ……」
心が冷えた。
どこに行った、生きてるのか。
と、その時、女の声が外から聞こえてきた。
「トミ、お前はそっちを頼む! ハマは向こう側じゃ。いい、傷兵たちの食事は私と、今日は誰がくる」
オババのひときわ高い元気な声だった。
思わず、私は走りだした。
「オババ!」
頭に手ぬぐいを巻いたカネ、つまり意識だけオババのカネが振り返った。周囲には仲間の女たちが盆をもっている。トミもハマもカズもいた。
「アメ! 帰ってきたか」
「オババ〜」
「なにを泣いとる」
「九兵衛は!」
するどい声を上げたのはヨシだった。
「ああ、ヨシ、九兵衛とは途中ではぐれたけど、たぶん、大丈夫だ」
そう言いながら、思わずオババをハグしていた。
この時代はハグなんてしないけど、だから周囲にいた女たちが驚いていたけど。私は、それほど心が弱っていた。
まあ、姑にいつか抱きつく日がくるなんて考えたこともなかった。しかし、唯一の現代人で、たった一人、私を理解してくれる。それはオババしかいなかったんだ。
(つづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます