第13話 怒鳴りたい時、アワアワする私


 日本は海に囲まれ地続きで国境がないと当たり前に思っているけど。実際は日本に国境があった時代のほうが長かったんだ。江戸時代でさえ、あれは現在の米国のように連邦制だったからね。


 だから、戦国時代の人間は歩いている道のどこかで国境を超える。

 国がカッチリと線で分けることもないし、国境警備隊やらゲートがあったわけでもなく、関所も適当だったけどね。


 ごうつくばりな関所もあれば、形ばかりのものもあった。京都近辺はわりと厳しかったものだ。金儲けの通行税をとるヤクザまがいの戦国大名もいたしね。


 その上、日本国内で言語も違っていたんだよ。標準語はなかった。標準語ができたのは明治以降、まだ100年ほどの歴史しか経てない。


 宮中言葉も特異だ。宮中に出入りしたことのない地方の大名は、例えば、織田信長も天皇の言葉がわからない。だから明智光秀を通訳に使ったという話もある。


「およなかはお冷のおずるを」なんて、雅に言われたってね。

(夜食にはそうめんを)って意味なんだけど。

 まったくわからないから。


 まあ、そんなふうに、戦国時代はゆる〜く国が分かれていた。なんなら国内にボーダーがあるって、かっこつけてもいい。


 例えば、私がいる近江は琵琶湖周辺をいい、京都よりの地域は織田信長の勢力下にあった。坂本城は国境警備の城でもあって、比叡山と京都を監視していた。


 さあ、話を戻そう。


 坂本城の簡易宿泊所に戻った。

 三の丸にあるそこは兵士たちがくつろぐ場所らしいけど、雨露を凌ぐ程度の本当に簡易って、いっそ外だろってほど適当な場所だった。


 私の身体は20歳でも、さすがに疲れが激しく、疲れると人ってイライラする。


 宿泊所の粗末な寝床、1日2食の粗末な食事、あわや麦にその辺の草を放り込んだ雑炊で、味付けは塩か味噌だけ。バリエーションといえば、中にはいる野菜に変化があるくらいだから、そこでもイラっとした。


 白いご飯が夢にでてくる。ステーキだって、ケーキだって夢で見たけど、もうね、夢がね味まで確信できるほどリアルな夢になっていた。消費期限切れで固まったアンパンだってご馳走になりそうだ。


「どうした。食べないのか」と、トミが聞いた。

「いえ」って声が拗ねてた。


 仲間は全員もう食べ終わっていて、オババでさえも。

 でも、頭のなかでは2020年のグルメが回っているわけさ。


 雑炊には鶏肉でしょ、卵でとじるでしょって。昆布出しとかカツオ出しとか、そういえば、確か明智光秀は信長に言われて、徳川家康を山海の珍味でもてなしたはず。

 あいつら、きっと、こんな時でも、いい食事してる。

 そう思うと、ますますイラついた。


(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る