朝のホットケーキは100%優しさでできている

永瀬鞠

 


 顔を洗って居間に行くと、台所に立つ母の後ろ姿が見えた。のろのろと歩いて隣に並ぶ。

 母が作っていたのはホットケーキだった。母は私をちらりと見て、右手にフライ返しを持ったまま、左手で私の頭をするりと撫でた。

「やっと起きたわね」

「…うん」

「もうすぐ焼き終わるからそこの紅茶でも飲んで待ってて」

「…うん」

 フライパンの上でふつふつと焼ける生地。

 それをフライ返しで返す母の手。

 甘い匂い。

 窓から差し込む光。

 お皿に積まれていくホットケーキ。

 どこかで、ちゅん、と鳥が鳴いた。


 ―――泣いた夜の次の日の朝のこと。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

朝のホットケーキは100%優しさでできている 永瀬鞠 @nm196

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ