第23話 おつかい②

 こじゃれたカフェ店でカエデはコーヒーを優雅に飲んでいました。


 やはりお嬢様だけあって他の人とはどこか違う気品さがあります。


 私と同じ8歳の子供なのにどうしてこうも違うのでしょうか。


「あ、ミウこっちこっち!」


 カエデが私に気付いて手を振って声を出します。


 その瞬間、気品は消え、年齢らしい子供の雰囲気になりました。

 私は苦笑して、椅子に座ります。ヴィレッタさんもカエデの隣の席に座ります。


「荷物はもう終わったの? 早いのね。こっちが先に終わりそうと思ってたのに」

「書類手続きも事前に終わってたから、あとは運送業者に渡すだけだったから」

「? それだとどうしてカエデは町に?」


 荷物を渡すだけならヴィレッタさんだけでもできたでしょうに。


「町にはまだ来たこともなかったからね」


 カエデはユーリヤの森に着てから2か月くらいは経っています。まあ、それでもカエデは倒れてばかりでしたからね。


 そこでウェイトレスがオレンジジュースを私の前に置きました。

 あれ? 注文はしていないのですが。


「ええと、あのう?」

「こちらの方で先に注文しておきました」


 とヴィレッタさんが言いました。


「お代は気にしなくていいから」

「でも……」

「こっちが勝手に頼んだんたし」


 カエデはウインクする。そしてコーヒーカップを口へと持っていく。一口飲んでから、


「それともコーヒーが良かった?」


 私は首を振ります。


「ううん。カエデはコーヒーが飲めるんだね」

「姉のせいね」

「お姉さん?」

「うちの姉がいっちょ前にコーヒーを飲めれるように練習してたの。それに付き合ってたら私もね」


 と言ってカエデは肩を竦める。


 本当なのかと私はヴィレッタさんの方に視線を向けました。


 ヴィレッタさんはほほ笑み頷きました。


「本当なの!?」

「もちろん、本当よ。で? どこに行く?」


 とカエデは聞きます。


「えーと、カエデはどこ行きたいとことかある?」

「ん~、お任せするわ」

「それじゃあ、洋服屋? アクセサリー店?」

「いいわね」

「まずは洋服屋に行こっか」


  ◇ ◇ ◇


 マルセイの町には東西南北に大通りが走っていて、東の大通りには洋服屋や様々なショップ店が連なっています。


「いっぱいあるね」


 カエデが連なる店々を見て言った。


「あの店が子供服の専門のお店だよ」


 私はウインドウに子供服を飾っているお店を指します。その洋服屋は全体的にクリーム色で、柱や壁に装飾がありかわいらしいお店です。


「あれね! 入ろう!」


 カエデは私の手を握り、お店へと駆けます。


「ちょっと! カエデ!」


 私は引っ張られながらカエデと共に洋服屋に向かいます。

 洋服屋の前でカエデは、


「ヴィレッタはここにね」

「はい」

「え? どうして?」


 私はびっくりして聞きます。


「大人が一緒にいると店員が付いてくるでしょ」

「ああ!」

「それにメイド服のヴィレッタだと私がお嬢様だと分かって絶対あれこれ勧めてくるわ」

「なるほどね」

「ミウさん、バスケットをお預かりいたします」

「そんないいですよ」


 私はいいですよと手の平を振ります。

 待たせてかつ荷物を持たせるなんて。


「でもミウ、バスケットあったら邪魔でしょ」

「まあ、確かに」

「中身に大切なものでも?」


 ヴィレッタさんが聞きます。


「いえ、中はもうほとんど何も入ってません」

「では持って置きます」

「ほらミウ、渡して」

「それじゃあお願いします」


 私はバスケットをヴィレッタさんに渡す。


「じゃあちょっと見てくるわ」


 とカエデが私の手を引っ張ってお店の中へと入ります。


  ◇ ◇ ◇


 お店に入るとまず目についたのが特売バーゲンコーナーでした。


 値引きされた靴下やTシャツが山のようにワゴンに積まれています。

 その中で変わったものがありました。


「これは何かしら?」


 私は黒くて薄いけど布とは違う硬めの長靴下を手にします。

 膝上の長さです。


「大人用?」


 間違って子供用に入っていたのでしょうか。でもこのお店は子供服専門のはず。背の高い子供用とか?


「それストッキングよ」

「ストッキング?」

「膝上までの靴下みたいなものね。足が引き締まって見えるの。他にもパンストっていうのもあるのよ」

「へえー」

「人間界で流行ってるというか普通に履かれているものよ」

「そうなんだ」


 私はストッキングなるものをワゴンに戻します。


「前にはルーズソックスが流行っていたのよ」

「ルーズソックス?」

「だぼだぼ靴下。ゴムが切れた長靴下ね」

「なんで流行ったの?」

「人間界では着崩すっていうのが若者では普通なんだって」

「着崩すってボタンを止めてなかったり、ネクタイが緩んでたりとか?」

「そんな感じ」

「ほー。流石カエデ。都会っ子!」

「いやいや、姉から聞いたものだから」


  ◇ ◇ ◇


 次に私達は小物が置いてあるコーナーに向かいました。


 小物にはリボン、ヘアピン、カチューシャ等が置かれています。


 かわいいものが多いゆえ子供達がたくさん集まってます。


 なかなか近付けません。

 他を見ましょうか?

 そうカエデに尋ねようと振り向くと、カエデは小物コーナーから少し離れたところにいます。


「何見てるの?」

「シュシュだよ」

「シュシュ?」


 またしても知らない単語です。それも人間界で流行っているものなのでしょうか?


 私はカエデが今触れているシュシュなるものを見ます。


 ごわついた布切れでしょうか?


 カエデが今持っているのはピンク色でぱっと見、ふわふわの花のようにも見えます。


「それは何に使うの?」


 カエデはシュシュを少し伸ばします。

 ピンク色の花が花ビラの輪になりました。


 どうやらそのシュシュと呼ばれているものは布切れではなく、中にゴムがあって輪になっているものでした。


「ブレスレットや髪留めに使うのよ」


 カエデは左手首に装着します。


「どう?」

「うん似合ってる。手首に花ビラが巻き付いたみたい」


 次にカエデがポニーテールにしてシュシュを髪留めに使います。


「いいね。ゴムの髪留めより、かわいらしいよ」


 ゴムの髪留めには基本リボンや球が付いているものです。

 しかし、シュシュにはそれらはなく全体が花ビラのようで新鮮味があります。


「へへ、ありがと。ミウも着けてみなよ」


 カエデはシュシュを外して私に向けます。


「い、いいよ。私、そんなに髪長くないし」


 私は肩ほどしか伸びていないのでちょっとポニーテールは苦しいです。


 髪留めはやはり長髪の人がするものです。

 私だと中途半端です。


「ブレスレットでもいいんだよ」


 カエデはシュシュを私の右手首に通します。


「こ、こう?」


 ちょっとかわいらしく両拳を猫の手にして顎に寄せます。そしてシュシュを前に。


「いいんじゃない。かわいい。似合ってる、似合ってる」


 本当でしょうか。2回も似合ってると言われると御世辞ぽく感じます。


「ほらほら、鏡見て」


 鏡を見ると右手首にシュシュを嵌めた私が写ってます。


 ん~? 着けていない時との差が分かりません。


「記念にお揃いのを買いましょ」

「え? あっ、ん~」


 値札を見ると安く、お駄賃で買えるものでした。


 まあ、ジュース奢ってくれたし。いいかな?


「じゃあ一個買おうか」

「うん! どれにする? 私はこの青色のにしよう」

「私はピンク色にしようかな」


 私は色違いのピンク色のシュシュを選びました。


 私達がシュシュのコーナーを離れると女の子のグループが入れ違いにシュシュを物色し始めました。


  ◇ ◇ ◇


 数日後のことです。


「最近、シュシュっていうのが町で流行ってるらしいわよ」


 夕飯の席で母が言いました。


「ついこの前までは見向きもされなかったのに、急にだって? あんた何か知ってる?」

「……さあ?」


 もしかして……まさか……ね。

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