妖精少女物語
赤城ハル
チェンジリング①
今日は母におつかいを頼まれて町まで来ています。
町には商店や雑貨屋、美容室、教会や役所など様々な建物が所狭しと建ち並び、往来には人が大勢います。村とは全然違います。
あ、人といっても人間ではありません。妖精です。ややこしいですが私達は自分達のことを『人』と呼ぶのです。もちろん、『人間』とは言いませんよ。
雑貨屋の前を通ると新商品が出たのか大勢の客が店にいます。すぐ近くの別の雑貨屋にも人が大勢います。
「どこもいっぱいだ」
私はぽつりと声を漏らしました。
雑貨屋は人気なので町のあちこちに建っています。なぜ人気かというと人間界の商品が売られているからです。私達、妖精は人間界のものが大好きで、雑貨屋には大勢の人が集まるのです。ですので雑貨屋が沢山建っているのです。
けれど人間界とは交流はありません。では、どうやって手に入れるのかというと妖精が人間界に行って直接購入。そして購入した商品をコピーしているのです。
でもテレビやラジオは精密機械なので、さすがにコピーはできません。せいぜいコピーできるのは生活用品です。それでも妖精界では物珍しいので人気があるのです。
そんな町も今日はいつもとは違います。人の数はいつも通りですが、町の人たちの会話の内容や雰囲気がいつもとは違うのです。皆、あれについてひそひそと話しています。
私はコートのフードを引っ張り顔を隠すようにそそくさと歩きます。
そして商会に辿り着きました。最初のおつかいは換金です。しかし、商会の門は大きく、子供の私には開けるのが一苦労なのです。
この門はドアノブがないぶん重いのです。ですからいつも門を開けるのに一苦労。
私は少し離れて準備運動としてピョンピョン跳ねます。
そして、
「えい!」
門を体当たりするかのように、おもいっきり押します。
少しだけ門がギギギと音を鳴らして開きます。
少し開いたら後はゆっくりと門を押すだけです。
商会の門を開けて中に入ると、商会もまたあれの話題で持ち切りでした。
何度か母に頼まれて換金に来ているので勝手は知っています。
3階に向かい、必要書類に記入を済ませてカウンターへ。
今日は人が少なく特に待つ必要もありませんでした。
私はカウンター台に記入した書類と母から手渡された書類、そして加工された魔石が入った包みを置きます。
カウンターの女性は書類と魔石を確認します。
いつもならすぐに判子を押して番号札を渡してくれます。
それが今日は違います。
「ねえ、お母さんは一緒かな?」
カウンターの女性は困ったように眉を八の字にさせて聞きます。
「いえ、私一人です」
「町にいるかな?」
「いません」
私は首を振って答えた。
「ちょっと待ってて」
カウンターの女性は奥へ引っ込みます。カウンターの向こうは事務机が並び、その奥には恰幅の良い体に鼻の下に髭を生やした男性がいます。
カウンターの女性はその男性に書類を見せ、何か話しています。
やはりあれが原因でしょうか。
母は大丈夫だと言っていたのですが。少し緊張します。
そして男性は私の方を向きます。私を見てやれやれと首を振り、女性にあれこれと指示をします。
女性はカウンターに戻ってきて、プリントに判を押して、私に向けます。
「次からはお母さんか大人の人を連れてきてね」
「はい」
私は判の押された番号札を受け取り、2階の換金所に行きます。
換金所で番号と名前を呼ばれカウンターに。そこで判の押された番号札を渡し、代わりにお金を受け取ります。
商会の後は商店街へと向かいます。商店街には色んな村が物を売ったり、買ったりとひっきり無し。
……のはずなんのですがここもいつもと違います。
私はメモを手にしながらお使いを済ませます。
まずは青果店。
「すみません。リンゴ3玉とバナナを1房ください」
「あいよ」
店主は紙袋にリンゴ3玉とバナナ1房を入れます。
私は店主にお金を渡します。
店主は硬貨を数え、
「あい、丁度ね」
と言って紙袋を私に渡します。
そこで店主は気付いたのでしょう。
「君、フ……」
「どうも」
私はさっと紙袋を受け取り、すぐその場を去ります。
店主の対応を見ていた客が私に気付き、連れに、
「あの子、フォレストじゃない」
その言葉を背で聞きながら私は次のお店に向かいます。
◇ ◇ ◇
次のお店に向かう途中で名前を呼ばれました。
「ミーウー! ミーウー!」
振り向くと緑のコートを羽織った金髪の少女が私の下に駆け寄ってきます。そして私の前で立ち止まり膝に手を置き、息を整えます。彼女は友達のセイラです。
ちなみ私の名はミーウーではなくミウですので。
「どうしたのセイラ? 町で会うなんて珍しいね」
村で会うなら分かるが少し遠くの町で会うのは珍しいことだ。
セイラは息を整えた後、
「ちょっとお使いでね。それよりミウあのこと知ってる?」
と聞くので私は周りを確かめてから声を潜めて聞き返します。
「もしかしてチェンジリングのこと?」
セイラはそうだと頷きます。
「ごめんね。私、何も知らないの」
嘘です。本当は聞き耳を立ていたので知っています。
「でもチェンジリングなんてびっくりだよね」
「……うん」
「たしか500年ぶりなんだっけ?」
「……らしいね」
チェンジリング、それは人間と妖精の子を取り替えるという話。妖精界に来た人間の子供は妖精の子と同じ様に育ち、人間界に送られた妖精の子は病弱になるという。そしてそれは500年前に廃止となった。今となってはなぜそのようなことを行ったのかは不明である。
だが今回、廃止されたチェンジリングが行われたことが判明し、村や町は混乱に包まれた。
やはりチェンジリングには私達子供には知らされていない何かがあるのだろうか。
「やっぱり今まで隠れてやってた人たちいるのかな?」
「さあ? いないんじゃない。今回だけでしょ?」
「そうなのかな?」
「……ネネカは何か言ってた?」
「それがネネもよく知らないんだって」
それは本当だろうか?
読書好きのネネカなら何か知っていると思うのだけど。もしかしたら変に混乱させないために知らないふりをしたのかもしれない。
チェンジリングというだけで町中で騒ぎこそはないが皆、空気が重く不安がっている。そこに危険な何かが加わればどうなるのでしょうか。
私はなるべく事が穏便済むようにと心の中で祈りました。
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