魔王の娘と召喚された魔導師

遅筆屋Con-Kon

第1話:黒い鳥

「たあぁぁぁぁっ!」


「ぐぅ⋯⋯っ!」


 勇者の聖剣が魔王の胸に深々と突き刺さる。


「これで、終わりだっ!」


「⋯⋯ぐふっ!⋯⋯く、くくく⋯⋯」


 血を吐きながらも、魔王は笑みを浮かべる。


「な、何がおかしい!」


「⋯⋯お前たちはまだ知らぬ。⋯⋯これが、どういった事態を招くのか⋯⋯」


 魔王の意味深な言葉に、勇者は混乱する。


「どういう事だ⋯⋯?」


「お前たちには、⋯⋯想像すらもつかぬだろうよ。⋯⋯後は、⋯⋯我が、娘、が⋯⋯⋯」


「何っ?!」


 思いもよらぬ一言に、勇者は驚きを隠せない。


「娘⋯⋯、娘だと!どういう事だ!」


「⋯⋯⋯」


 勇者は問いただすが、魔王はすでに事切れていた。


 魔王の亡骸は次第に崩れ、最後には灰になった。


「⋯⋯くそっ!」


「⋯⋯勇者様、これからどうなさいますか?」


 悔しがる勇者に、仲間の聖女が声をかける。


 しばらくの沈黙の後、勇者は答えた。


「⋯⋯魔王の娘を探し出す。⋯⋯行くぞ」


「はい」


 勇者たちは、急ぎ足でその場を後にした。



 ◆◆◆



「はっ、はっ、はっ⋯⋯⋯!」


 魔王城の通路を走る者が一人。


 魔王の娘・アルステリアである。


 彼女の手には、鈍い光を放つ紅い剣が握られていた。


(⋯⋯父上は、もう殺された後か⋯⋯)


 上の通路から聞こえる足音が、魔王の死を確信させた。


「魔王の娘を探し出せー!」


 勇者の怒号が城中へと響き渡る。


(⋯⋯私には果たさねばならぬ使命がある。ここで捕まる訳には⋯⋯!)


「いたぞー!魔王の娘だ、間違いない!」


 通路の曲がり角から、王国軍の兵たちが現れた。


 さらに、後ろからも勇者たちの兵が次々と殺到した。


「捕らえろー!」


「⋯⋯!見つかったか、⋯⋯ええい!」


 アルステリアは手持ちの剣を思いっきり振り払い、目の前の兵たちを一気に吹き飛ばした。


「くそっ!こいつ、強いぞ!油断するな!」


「勇者様が到着されるまで、なんとしても保たせろ!」


「くっ⋯⋯!こいつらァ!」


 まだ成熟していないとはいえ、アルステリアは魔王の力を色濃く受け継いでいる。その戦闘力は間違い無く一線級である。


 しかし、圧倒的な人数差までは力だけではどうにも出来ない。戦闘経験が全く無いアルステリアは次第に押されていった。


 そして、ついに通路脇の倉庫部屋にまで追い込まれてしまう。


「よし!追い詰めたぞ!」


「このまま一気に押さえ込め!」


「⋯⋯くそっ!ここで、捕まる訳には⋯⋯!」


 その時。


 城内全体に白い霧がいきなり発生した。


「な、なんだこれは?!」


「これも魔王の娘の為せる事か?!」


 突然の事態に、王国軍の兵たちは混乱状態に陥った。


(これは⋯⋯)


『さぁ、今の内に窓から飛び降りなさい』


「!」


 突然の声ににアルステリアは訝しむも、他に選択の余地は無かった。


(⋯⋯仕方がないか!)


「ええい!」


 アルステリアは、謎の声に従い窓を突き破って脱出した。


 すると、黒い大きな鳥が待機していたらしく、アルステリアはすんなりと鳥の背中に着地する事が出来た。


「これは一体⋯⋯」


『しっかり掴まっているように』


「なっ!」


 その鳥は、アルステリアを乗せたまま森の奥へと飛び去っていった。

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