口の悪い子はキスに弱い 【バス編】

えまま

バスにて

 下校中の私達。

 バスのなかに居た。


「ふー……暑かった……」


 隣の彼女がそう呟く。

 夕方とはいえ、外は暑かった。

 バスの中はクーラーが効いておりひんやりと快適。


 窓際の彼女。

 夕日のせいか否か、その頬はほんのりと赤く染まっている。

 まだ暑いのか、スカートをパタパタ。下着見えてる。

 見られる心配はないのか。

 ……多分ないだろう。

 珍しいことに今、乗客は私たち以外いない。


 だから彼女もこういった行動を取るのだろう。運転手が見てるかもしれないが。前見て。

 そう思っていると。

 彼女がふと、こちらを見る。


「……なに見てんだよ、見せもんじゃねぇぞ」


 じっと見ていた私が気にくわなかったのか、彼女が悪態をつく。

 サービスで見せてくれていたのではなかったらしい。

 かわいいな。すぐ不機嫌になるのも愛らしい。


「……キスしてもいい?」


 ガタッとバスが揺れる。

 あ……本心が口から出てしまった。


「え……イヤに決まってんだろ……つか……その、昼……したし……」


 恥ずかしながら言う彼女。

 でも若干引いてる。

 けれども昼のこともまだ引きずっているらしい。


「二人きりだよ? ……だめ?」

「バーカ、ダメに決まってんだろ。ふざけたこと言うな」


 嫌がる彼女。

 その端正な顔に私は強引に近づく。

 彼女の顔が目の前に。

 睫毛まつげ長いなーとか今さらながら思う。

 バスがまたガタッと揺れた。


 私は唇を彼女に――。

 と思ったところで、彼女に肩をつかまれる。

 突き放すようにされ、私はすこし仰け反る体勢に。


「イヤだって言ってんだろ……クソが」


 吐き捨てるように言い、ふっと嘲笑あざわらう彼女。

 勝ち誇っているようにも感じる。

 このまま無理にでも……と負けじと迫る。

 しかしバスケ部の彼女。

 帰宅部の私。

 力では差があった。


 今回は諦めるか……。

 私は迫る力を緩めた。

 私が諦めたことを悟ったのか、彼女も力を緩める。

 その時だった。


 バスが揺れ。

 彼女が体勢を崩した。

 私に寄りかかるように。


 そして、唇が触れ合う。


 私の目の前には、彼女の瞳が。

 突然の事に、双方、呆然としている。

 車内には次の停車場所を示すアナウンスが、淡々と響く。


 そして、彼女は目を見開きハッとする。

 頬を朱に染め離れ。

 私から距離をとり、手の甲で口元を隠す。


「――ッ、ばか」


 呟き、そのままそっぽを向いてしまう。

 そんな彼女のこういう所も、私は好きだ。

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