第2話 え? 死ぬだけでデカ乳女神様に会えるんですか?

 俺は死んだ! と思ったが目が覚めた。 


「どうやら目覚めたようですね」


 女性の透き通る声が耳に届く。目の前にその声の主が居た。


 俺がいる空間は壁らしきものがなく、真っ白いツルツルの地面と横も上も果てしない空間。


「えっと……どちら様です? あっ、閻魔大王さんです?」


 そこには見目麗しい女性が立っていた! 長い銀髪に、優しさと気品を感じる顔立ち。ドレスのような綺麗な服装を着ている。


「ど、どうして閻魔大王だと思ったんですか?」


 苦笑しながらその女性が聞いてきた。


「だって、死んだら閻魔大王って感じで……あ!? もしや死んでいないんですか!?」


「いや、死んではいるんですけど……」


「あ、やっぱりそうですか……じゃあ舌を抜くなりなんなりしてください」


 やっぱ死んだのか。意識があるから死んでないと希望は持てたが、現実世界で死んだらしい。


「私は閻魔大王ではありませんっ! それに舌を抜くとか何か悪い事をしたんですか?」


「ん~悪い事したような、してないような。えっと……あれ? 何もしてないような気がする! というか何も思い出せないんですけど!?」


 記憶の糸を手繰り寄せたが、何もなかった。死んだ事は確かなんだけど。


「ご自身のお名前は憶えてますか?」


「名前……概峡部だった気がする」


 名前だけは憶えていた。ただ空っぽの箱に隅っこに偶然有ったような感じだが。


「その通りです。概さん。それではその他の事は憶えてますか?」


「え~と俺は死んで……あれ? 憶えてないです。記憶喪失みたいです」


 不思議な感覚だ。言葉は自然に出るのに、今までした事を一切思い出せない。自分の事は男だという事以外特に憶えていない。


「そうですか。それで私の事ですが――」


「はっ!? まさか!?」


 美しい女性をじっくり見た瞬間、頭に稲妻が走り、閃いた!


「ふえっ!? ど、どうされました」


 女性は俺が閃いた事に身を引いて驚いた。


「あの美しい胸はJカップッ!!」


 美しい女性の服の上でも強調が激しい胸! あれは間違いないJカップ!


「な、何故そのような事がわかるのですか?」


 女性は恥ずかしそうに胸を腕で隠す。


「どうやら俺にはそういう胸の大きさを見るだけで計れる才能があるらしいです。あぁすみません。気にしないでください」


 考えずとも、直感で理解した。憶えてはいないが、俺はそういう人間だったんだろう。


「そ、そうですか。確かに女性の胸に異様に執着した人生だったようですね」


「え? 胸に異様な執着っ!? 俺の人生がわかるんですか?」


「ええ。女神ですから。私は女神セリスフィールです。肉体を離れた魂を導く女神」


「女神セリスフィール……女神! なるほどそっち! 閻魔じゃなくてそっち! あぁそういう。記憶なくても理解いたしました。おっぱいが大きいし、閻魔大王じゃおかしいですよね。おっぱい大きいし」


「胸は関係ないと思いますが……こほん。では本題に入ります。概さんは死ぬ直前の記憶はないですよね?」


「はい。なんか、死んだ! という記憶はあるんですけどそれがどんな風に死んだかは不明で……」


 するとセリスフィールと名乗る女神は何もない空間から分厚い本を取り出すと読み始めた。


「では概さんはどのような死に方を……あ、あぁこれは……」


 女神が非常に言い難そうに口ごもる。恐らく死因が書かれている本だ。一体何が書いてあるんだ?


「あ、あの。俺はどんな風に死んだんですか?」


「……えっと、最終的な死因はショック死です」


「ショック死? どんな風にそんな死に方を?」


「詳しく申し上げますと……その……」


 目線を泳がせながら再び口ごもる。そんなに言い難いものなのか?


「もったいぶらないで言ってくださいよ!」


 痺れを切らした俺は女神を急かした。すると女神は頬を赤らめながら覚悟を決めた様子で口を開いた。


「概さんが生まれて初めて胸のプレイ……その……おっパブという、場所であれやこれやを興じ、その結果! 童貞ながらも! 性病にかかり、性病に極めて耐性がない概さんは帰宅途中! 体に異変が起こり! 倒れた! その時に怪我した場所からでた血を見てショック死したんですっ! ハァッ……ハァッ……」


 早口でまくし立てるように俺の死因を語った女神。女神は疲れた様子で息を切らしている。


「ど、童貞で! 性病になって!? ショック死っ!?」


 驚愕! 俺、とんでもない死因だった。


「は、はい……概さん」


「とんでもねぇ死に方だぁ……どんな人生を歩めばそんな死に方になるんですか!?」


「残念ですが概さんの過去についてはお話できません」


「なぜです?」


「それはこれから概さんには転生してもらうからです」


「てん……せい?」


「はい。これから概さんには異世界に転生してもらいます」


「あ、あぁ! なるほど! 転生ですね! 全て理解しました! 転生ならやりますよ! 異世界でファンタジーな世界に行くんでしょ? なんかそれなら憶えてますよ! やってやりますよ! まかせてください!」


 転生か! 記憶をなくしてもその知識だけはあった。死んだのはおそらく不本意だろうが、転生出来るなら嬉しい。


「あはは……最近の方は理解が早くて助かります。実は天界の協議の結果、あの死に方はあまりにも可哀そうという事で、もう一度チャンスを与えようという事になりまして、今回の異世界転生という形になりました。異世界では好きな生き方をしてもいいんです。労働者、騎士、もくしくは英雄にだってなれます。概さんが欲するものを自由に求めてください」


「俺の求めるものを自由に……」


「はい。よりよい人生を歩んでください。それと転生するには記憶は障害になりますのであらかじめ削除しておきました。ある程度の常識と言葉だけ持って異世界に行ってもらいます」


「え? それだけ? なんか凄いパワーとかないんですか? そういうのがないと野垂れ死にしそうですよ!」


「もう概さんにはありますよ」


「いつの間に付加してくれてたんですか。それでどんな能力が?」


「そうですね……言うならば運命に逆らう能力と言いましょうか?」


「すごそうな能力ですね……って! なんか身体が輝いているんですけど!? えぇ? これが能力!?」


 ふと自分の体を見てみると人の形はしているが、全身が輝いて真っ白だった。女神のおっぱいに集中していたから気づかなかった。


「今、気が付いたんですか……概さんは肉体はもうないので魂だけの存在です。ですから今あるのは仮の肉体です。これから新しい肉体を手に入れ、異世界に行ってもらいます。どの程度の年齢の肉体が欲しいですか?」


「好きに選べるんですか!?」


「はい。赤ん坊から老人まで。お好きに」


「うう~ん」


 やっぱり先の長い若者がいいよなぁ。かといって赤ん坊だと好き勝手に動けなさそうだし……いや、赤ん坊だと合法でおっぱい吸えるチャンスがあるぞ……


「合法的に授乳プレイ可能の赤ん坊か、普通に青年か……どっちか」


 赤ん坊か青年か。それが問題だ。


「概さんからやらしい気持ちが感じられるのですが……」


「あっ! やっぱり16歳くらいの身体ががいいです。赤ん坊の吸うオッパイが巨乳だという確証がないんで」


 あっぶねぇ。ちゃんと悩んで良かった。俺を育てる乳が巨乳だという保証はない。貧乳に育てられるのは成長にはなんら問題ないだろうが、本意ではない。


「は、はぁ。初めて聞いた理由です……まぁ良いでしょう。概峡部さん。これからあなたを異世界に送ります! よろしいですね!」


「はい! いつでも!」


「ではっ!」


 女神が両手を前に向けると、俺の周辺が淡い光で覆われる。どうやら俺は女神の言う通り異世界に転生するらしい。


「おぉ! おおおっ! これで異世界に! よしっ! 俺は異世界でおっぱい揉みにいくぞぉ!」


 高らかに宣言する。記憶を失った俺が唯一求める欲求はそれしかない。

 目の前に光が溢れる。包み込むような暖かな感覚の中、意識が飛んで行く。


「大丈夫なのでしょうか……」


 女神の心配する声が最後に聞こえた。

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