33:陶芸教室 ~その後~
絵付けと釉掛けも無事終わり乾燥作業も済んだので、週末の休みを利用して本焼きを行った。
今回の目標温度は1300℃。
陶器にしてはちょっと高めだが、土にも釉薬にも微量ながら魔素化合物が混じっているため、高温には強いんじゃないかと考えたからだ。
今回は、いつもの【銀の鶴嘴】メンバーに加え、アイクさんも動員している。
この人達は、夜にこっそりと陶芸小屋を訪れ、真夜中までろくろを回していた常習犯達だ。
今回本焼きを行う作品のうち、2割ぐらいはこの人達の作品である。
陶芸工房が事業化した暁には、是非ともメンバーに加えてくれとお願いされている。
俺は来年になったらここを去らなくてはいけないので、どっちにしろ管理を受け継いでくれる人が必要だったし、兄弟子であるアイクさんなら心配も要らないだろう。
登り窯には部屋が複数あるので、それらを万遍なく熱し均等な温度を保つには、普通の窯より温度上昇速度をゆっくりにする必要がある。
目安としては、1時間に100℃ずつ上げていき、900℃を超えた辺りからは、煙突や余計な通気口を最低限にまで塞ぎつつ、3時間で200℃位上がるように調整する。
最終的な目標温度に達するまで約15時間。
最初と最後はみんなで、焼成中は2人一組の2時間ローテを2回だったので、それほど大変じゃなかった。
その後は素焼きと同じように、密閉して2日ぐらい放置。
ほぼ全校の教員と生徒が見守る中、窯出し作業を行うこととなった。
粘土で密閉された出入り口の目張りをバリバリと剥がし扉を開けると、奥の方でかすかにピキパキという甲高い音が聞こえる。
どっかで貫入でも入ってるのかなと思いながら、作品を人海戦術でどんどん運び出す。
出来上がった作品たちを学年ごとに区分けし、準備しておいた長机の上に全て陳列する。
俺や大人達の作品は、陶芸室の脇にある別の棚に並べてもらおう。
陳列棚の前で列を成し、作品を見ながら進んでいく生徒達の姿は、どこぞの動物園にあるパンダ舎での光景を彷彿とさせた。
丁度いいので、ここで総評をやってしまおう。
俺は見物人を棚から数歩下がらせたあと、各学年毎に、技巧に優れているモノ、独創性に優れているモノ、デザイン性に優れているモノをそれぞれ選び出し、どこがどう優れているのかを解説しながら褒めまくる。
この場で残念なモノを批評する必要は全くない。
子供は基本的に褒めて伸ばすものだ。
その後、他の先生達にも手伝ってもらいながら、各自の作品を家に持って帰るよう手渡す。
あ、一つだけ注意点があった。
「皆さん、解散する前に注目!
一つ大切なことを言い忘れてました。
よく見てて下さいね。
吃驚して手に持った作品を落とさないように気を付けて下さい」
みんなの視線が俺に集まる。
俺は自分の作品の中から、ヒビがかすかに入ってしまっている作品を手に取り、その手を真っ直ぐ前に伸ばす。
これから何が始まるのか薄々勘付いてる子達は、すでに顔を顰めて防御の態勢に入ってる。
指先で挟んだままぶらんとぶら下げているその作品から指を離すと、砂利舗装の路面にぶつかって『ガチャン!』と器の砕ける派手な音が響いた。
その音にびっくりして顔を背けたり「ひっ!」と吃声を出した子がちらほら。
俺はそれに構わず話を続けた。
「皆さんが今手にしている器は、普段使っている木や金物の器よりずっと割れやすいので、くれぐれも落としたりしないよう、気を付けてください。
固い地面や床などに落としたら、ほぼ確実に割れます」
俺は地面に散らばった破片の中から適当なモノを選び、仕上げに使っていた鹿の皮に押し当てながら説明を続ける。
「そして、割れた欠片の断面は刃物のように鋭いので、不用意に素手で触ったら怪我をします。
丈夫な鹿の皮も、ほらこの通り」
俺は破片を持つ手に力を込め、皮に押し当てたまま下に向かって勢いよく振り下げる。
鹿の皮は破片を当てた部分から下がキレイに切り裂かれた。
「これは、一部のお店や神殿の窓などに使われているガラスなどと同じ性質です。
特に小さな破片は、目や身体の中に入り込んだら思わぬ大怪我になったりします。
もし割れてしまった場合、大きな破片は割れた断面に触らないように気を付ければ大丈夫ですが、細かい破片などは素手で拾おうとせず、箒とちり取りなどの道具を使って処分すること。
しっかりと覚えておいて下さいね。
では、解散!」
みんなは「はいっ」と返事をしながら、自分が作った作品を落とさないように両手でしっかりと抱え、各々帰宅していった。
そしてこの場に残っているのは、数人の教師と大人達だけとなった。
その中に一人、面識の無い人が。
ピッタリとした礼服を身に纏った痩身の老紳士。
オールバックにまとめた白髪混じりの髪も、細くまとめられた口髭や顎髭も、油で固めたのであろうかピシッとしている。
俺が怪訝そうな顔で見つめていることに気が付いたのか、老紳士は優雅に腰を折り挨拶をした。
「お初にお目にかかる、サナダ殿。
私は王国内務卿付き筆頭秘書官のグリードと申す。
以後お見知りおき願いたい」
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