箱庭世界の博物誌 -作ろう異世界動植物図鑑-
鵲
prologueの章
第1話 創造神の憂鬱
暖かな光を凝縮したかのような真っ白い部屋。
部屋の真ん中には、一見質素に見えるが、実際には緻密で精巧な金属細工に彩られたテーブルと、それを取り囲むように配置された、同じ意匠の椅子が四脚。
そこに突然現れた、ヒトらしき輪郭を持った金色の輝き。
この姿が最近のマイブームらしい。
そして部屋の片隅には、室内の白に溶け込むように佇む、もう一人の人影。
真っ白な1枚布を身体に巻きつけ両肩で留める【キトン】と呼ばれる衣装を身に纏い、ロングストレートの銀髪を腰の辺りまで伸ばしたその姿は、そこにいながらも今にも溶けて消えてしまいそうな儚さを漂わせている。
金色の人影が、何もない白一面の壁に手をかざすと、壁面の一角が様々な情景を映し出すモニタースクリーンとなった。
そしていつものごとく、壁一面に展開された数多くのスクリーンを眺めながら、何度目になるか数えきれないため息をついた。
「また、この結末か・・・」
モニタ画面には、完膚なきまでに破壊し尽され廃墟となった<都市だったモノ>が映されていた。
生けるモノはどこにも見当たらず、地面にはいつ止むかも知れない黒い雨が降り注いでいる。
「こいつらはなぜ、いつもいつも同じ選択をするんだろう」
これまで幾度となく迎えたバッドエンドが、本当にうんざりだと言うように『それ』は一人呟いた。
もはや、修復不可能にまで死に絶えた<星>を映し続けるモニタ画面に手をかざし、ゲームセンターにある格闘ゲームのコントローラーのように、いくつかのボタンとつまみのようなものが付いたコンソールを出現させた。
手慣れた操作でいくつかのボタンを押すと、画面に「reset Y/N」と書かれた文字が浮かび上がった。
ごく短い時間の逡巡を経て<Y>のコマンドを入力したとたん、画面一杯に眩い光が溢れ、光が収まった後には、漆黒の空間の中で渦を巻く、輝く粒子の流れが映し出された。
この輝く粒子たちもまた、いつかお互いにくっついたり衝突しながら、新しい<星>へと姿を変えていくのだろう。
そのとき、部屋の隅で置物のように固まっていた白い人影が、突然声を発した。
「主様、箱庭世界【テンズ】の消去作業により、存在力のストックが21%にまで減少いたしました。
残存エネルギー量が20%を切った場合、当管理施設及び管理ユニットは全て、スリープモードに移行いたします」
「え?
もうそれっぽっちしかないの?
じゃあ、デンドログラムはどうなるの?」
「今あるストックを維持したまま、収拾及び再配分システムが休止となります」
「それは拙いね。
残りの三つは放置しよう。
しばらくは、母星である地球の成り行きだけを見守ることにするよ」
「主様、もう一つ興味深い報告が」
「なんだい?」
「残存する箱庭世界のうち【フィフス】が、安定を保ったまま2000年目に突入いたしました」
「【フィフス】って、例のアレかい?」
「はい」
「キミがそう言うなら、ちょっと覗いてみるよ」
「良い結果に繋がる手がかりがあればいいのですが」
「そうだね。
このままじゃ、いつかまた長い休眠に入らざるを得なくなるからね」
彼は半分諦めたような、それでいて期待半分な面持ちで、長らくずっと放置していた『世界』のチャンネルを開いた。
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