全てを持つ者が全てを奪われ堕ちるまで

しゃむしぇる

序章

第1話 神には気をつけろ

 「転生者」……ある世界で不幸な死を遂げた人間が物好きな神によって再び命と特殊なスキルを与えられ異世界に転生した存在の総称。

 

 疑問に思ったことはないだろうか。その転生者に与えられるスキルは一体どこから引用されているのか……。

 

 神が生み出し与える?

 違う


 自分の潜在能力を引き出しスキルを覚醒させる?

 違う。 


 誰かから奪う?

 ……それは実際に目の当たりにしてみれば良い。


 これは全てをとして神と転生者に復讐をする物語。





 時は年歴825年。俺はこの世のスキルを全て習得した。魔王であるベルフを倒すために……。


 そして全てを習得した俺は万全の状態で魔王ベルフに勝負を挑み辛くも勝利する。

 なんとか勝った俺は荒く息をしながらも目の前に膝をつく魔王ベルフに剣を突き付けていた。


「……言い残すことはあるかベルフ。」


 そう問いかけるとベルフは口元を伝っていた血を手で強引に拭い、口角を吊り上げながら答えた。


「く……ふふふっ優しいなルーシー、じゃあ最期に一つだけ聞かせてくれ。なぁルーシー……君は神をどう思う?」


「神か、考えたこともないが……敢えて言うとすれば崇拝の対象と言ったところだ。」


 思わぬ質問に少し戸惑ったが俺はベルフにそう答えた。するとベルフはニヤリと笑いながらスッと立ち上がり、そのどこまでも紅い瞳でこちらをじっと見つめながらゆっくりと近づいてきた。


 致命傷を与えていたため立ち上がれると思っていなかった俺はあっさりとベルフの接近を許してしまう。

 しかしベルフは何も攻撃をする様子は見せずただ、俺の耳元でポツリと囁いた。


「ルーシー……神には気を付けろ。これは僕の最期の……忠告だ……よ。」


 その言葉を最期にベルフは俺にもたれ掛かるようにして死んだ。

 彼の遺体を横に寝かせ、俺は魔王ベルフの城を後にする。

 この忠告をしっかりと受け入れていれば……あんなことにはならずにすんだのだが。このときの俺は魔王の言葉に耳を貸すことなど無かった。





 魔王を打ち倒したことはすぐさま世界を駆け巡り俺は一躍時の人となる。

 そして世界から勇者の称号を受け賜るため、この世界の神を祀る神殿へと俺は足を踏み入れていた。


「……ここが果ての神殿。」


 目の前に佇む汚れやホコリ一つ無い純白の神殿は厳かな雰囲気を醸し出している。その神殿を眺めていると横から司祭が顔を出した。


「その通り、ここが世界で一番神に近いと言われている果ての神殿です。ここは勇者となる資格があるものと私以外は入ることすらできない神聖な神殿なんですよ?」


 司祭の口から出た神という言葉を聞いて俺の頭の中に魔王ベルフの最期の言葉が引っかかる。


 神には気をつけろ……。


 嫌に頭に残るベルフの言葉を振り払い、司祭に早く済ませるよう促す。


「……そうか、まぁいい。早く済ませよう。」


「わかりました。それでは中へ……どうぞルーシー殿。」


 そして中へと足を踏み入れると俺の目の前に突然ウィンドウが現れた。そこにはこう書いてある。


人柱オリジナルの適性を確認しました。これより適正者を神域へと転送します。】


「……?おいこれはいったい……ッ!!」


 司祭にこのわけのわからないウィンドウについて尋ねようと後ろを振り返ると、神殿の入り口で不気味ににんまりと笑う司祭がくつくつとこちらを見て笑っていた。

 問い詰めるために戻ろうとするが司祭と俺との間に得体のしれない壁があるらしく入り口から出ることができない。


「おいっ!!お前……これはどういうことだッ!!」


 渾身の力を込めて見えない壁をたたくがビクともしない。そして何度か壁をたたいていると司祭が口を開く。


「ルーシー殿、あなたにはこれからの国のため……世界のため生贄になっていただきます。」


「生贄だとっ!?ふざけるな!!」


 激昂し壁をたたきながら司祭を怒鳴りつけるが、司祭は淡々と話し続ける。


「世界のために生贄になれるのですよ?とても名誉なことではないですか……ねぇ?それにほら、もう儀式は始まっているんですよ。」


 司祭がニヤリと笑いながら俺の足元を指さす。その指の先に目を向けると、あろうことか足のつま先から光の粒に変わり俺の体が消え始めていた。

 

「くっ……これはっ!!」


「それではルーシー殿、世界のために……精一杯その身を捧げてきてくださいねぇ~。」


 司祭の言葉の後一気に粒子化が進み俺の体はあっという間に粒子の粒になって消えた。最後に頭をよぎったのはあのベルフの言葉だった。


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