ロイノ

一(にのまえ)

これは呪いだ

 かつての自分、それは不確定要素の塊であった。何をやっても中途半端で、結果が見えなければやる意味が無い。そうやって多くのモノと多くのモノに印を付けた。触れただけで、見ただけで、できないを決めつけ印をつける。いつか見つかるだろう天才的な才能に出会う迄。


 気が付けば右手にはインクの霞んだボールペンがあった。いつの間にかあるモノに触れている。殴る様に叩きつけられたペン先に求める理想を描くのだ。あぁであればや、こうであればなど、多くの虚像を生み出す。その全て、全て、全て、失敗を経験した人物が成功していく虚像ばかりだ。認められればそれで良かった、そうやって公開した自分の虚像に誰一人として見向きもしなかった。


 気が付けばペン先が描くのは現実の自分を慰める言葉ばかり。自分以外の人のことを非難する内容ばかりだった。誰にも認められないなら辞めて仕舞えばそれでいい。自分が描いた虚像は、自分と乖離した自分は、自分という存在があって初めて作品になるのだから。


 いつか、沢山のモノに触れてきた自分が描いてきた虚像を称賛する人物に会うまで、ただひたすらに描き続ける。

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ロイノ 一(にのまえ) @dezi_write

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