孤独な箱庭

ねむりねずみ@まひろ

【声劇台本】♂3:♀2

⚠️注意事項⚠️

■CAS生声劇、Skype劇、ボイスドラマ、イラスト作成、演劇、朗読など、金銭の絡まない物に対しては、無償でお使い頂けます。

イベントで販売したい、お客様を呼ぶ演劇に使いたい、など金銭の発生する物は、別途ご相談ください。


■キャラクターの性別は、絶対ではありませんが、世界観を壊すような無理な変更はやめてください


■ CASで声劇する場合、事前に教えて頂ければ聞きに行けるかもしれませんので、よかったらご連絡ください!

Twitter→ @nanakoenana



『キャラクター』


東雲 薊 (しののめ あざみ)

母親は幼い頃に病死

東雲家当主である父親も死亡。死因は不明

幼い頃、道端で孤児を拾い、使用人として 身の回りの世話を任せた


東雲 百合 (しののめ ゆり)

薊の腹違いの妹

東雲家の後妻と共にやって来る

大人しく 控えめな性格で、皆から寵愛をうける

薊の嫉妬の的となり 嫌がらせを受けるが 笑顔で接するが、時折言葉に刃を載せる


吾妻圭一 (あずまけいいち)

薊が百合を屋敷から追い出す為に 利用した男

薊と百合の幼馴染であり、百合の婚約者

人が良く大人な優しい、常に大人対応をしている


晴仁 (はるひと)

幼い頃、薊に拾われ 東雲家の使用人となる

両親共に、既に他界しており天涯孤独

薊と恋仲であるという噂が流れている


東宮弥彦 (とうぐうやひこ)

亡き当主の遺言と思われる書名を持ち、

今更東雲家の婚約者として現れた男

人につけ入るのが上手い



コピペ用配役表


「孤独な箱庭」

薊:

百合:

晴仁:

吾妻:

東宮:


以下台本

--------------


窓際から木に止まる鳥を眺める薊

ふいにドアがノックされる


晴仁「失礼致します、お嬢様、本日のご予定ですが…」


薊「…」


晴仁「お嬢様?」


薊「晴仁、2人きりの時は、名前で呼ぶようにと言わなかったかしら?」


晴仁「…失礼しました、薊様」



立ち上がり、晴仁を突き飛ばし壁際に押しやる薊



薊「晴仁!貴方は誰の物か解っているの?!」


晴仁「…私は幼少の頃、薊様に拾われて以来、貴方様の物でございます」


薊「だったら!!言われた通りにしなさい!!」


晴仁「畏まりました…薊」


薊「ああ…晴仁。そうよ?2人きりの時は必ず名前で呼んで頂戴?愛する人に距離をとられるのは嫌なの」


晴仁「薊…私も貴方を愛していますよ」


薊「本当?嬉しいわ、幸せってこういう事を言うのよね、ふふふ。それで、今日の予定は?」


晴仁「本日、百合様と婚約者の吾妻様がいらっしゃいます」


薊「百合達が?」


晴仁「はい。到着時刻は11時を予定しておりますので、御一緒に昼食を取られるかと」


薊「そう…。なら、メニューは磯崎に任せるわ。」


晴仁「かしこまりました、磯崎に伝えておきます」


薊「………」


晴仁「…薊?」


薊「ねえ、晴仁。貴方から見て、百合はどう見える?」


晴仁「どう…とは?」


薊「そのままの意味よ、女性として魅力を感じるのかしら?」


晴仁「……いえ、特になにも」



晴仁の頬を叩く薊



薊「だったら、なぜ言い淀んだのかしら?! お父様が亡くなった後、あの子は婚約者の元へ嫁ぐ為に、この屋敷から出ていったはずよね? なぜ今更、取り次いだのかしら?」


晴仁「申し訳ございません」


薊「謝罪なんて要らないわ!…晴仁、貴方私を裏切るつもり?」


晴仁「いいえ、愛する薊を裏切る事はありません」



叩いた頬を愛おしそうに撫でながら 晴仁を見つめる薊



薊「そうよ?貴方は私の恋人。百合になんて渡すもんですか」


晴仁「私は薊のモノですから」


薊「…愛しているわよ、晴仁。良いわ、百合達に会いましょう」


晴仁「畏まりました…それでは失礼致します」



虚ろな眼差しの晴仁を背に、薊は自室の机へともどって行く

一礼をし、部屋から出ていく晴仁



薊「…百合…今度こそ…」



屋敷のベルがなる

百合と吾妻が立っている



晴仁「お久しぶりです、百合様、吾妻様」


百合「晴仁さんお久しぶりです」


吾妻「突然の来訪、すまなかったね」



にこやかに挨拶する百合

屈託のない笑顔に ふわふわとしたブロンドの髪がなびく



晴仁「いえ…」


百合「お姉様に会いたくなって…来ちゃったのだけれど、ご迷惑だったかしら?」


晴仁「いえ、そのような事は。百合様、吾妻様、どうぞお入りください」



【応接室】


薊「ようこそ、東雲家へ」


百合「お久しぶりね、お姉様」


吾妻「お久しぶりです、薊さん」


薊「久しぶりね百合…吾妻さんも…楽にしてちょうだい。晴仁…お茶を」


晴仁「畏まりました」



お茶を入れながら配る晴仁



薊「それで、貴方達は何の為に来たのかしら?」


百合「あら、お姉様…実家に帰るのに、理由なんているのかしら?」


薊「用もなしに突然やってくるなんて、随分と暇なのね」


百合「ふふふ、それはお姉様も一緒じゃない。暇な私達の相手をしているんですもの」


薊「そうね、用がないなら、さっさと帰ったらどう?」


百合「あら、お姉様?私達が帰った方が都合が良いのかしら?たとえば…恋人との逢瀬を邪魔されるから…とか」


薊「さぁ、なんの事かしら」


吾妻「こら、百合…」


百合「ふふふ、ごめんなさい吾妻さん。お姉様、私達しばらく泊まって行くから。晴仁さん、部屋の用意をして頂戴?」


晴仁「畏まりました、百合様」


薊「っ!!晴仁!!貴方、誰の許可を得て動こうとしたの?!」


晴仁「…申し訳ございませんお嬢様」


百合「あははは、お姉様、何をそんなに怒っていらっしゃるの?私は、私の実家の使用人である、晴仁さんにお願いしただけよ?」


薊「晴仁は私の使用人よ!」


百合「私の?ふふふ、違うでしょうお姉様…晴仁さんは東雲家の使用人よ?」


薊「…どちらでも同じことよ!」


百合「あはははは、聞きました?吾妻さん、お姉様は、ご自分の身分も忘れて、そこの使用人に夢中みたい、これじゃぁ…ねぇ」


吾妻「こらこら、百合…あまり薊さんをからかってはいけないよ?すみません、百合は天真爛漫で…」


百合「うふふ…ごめんなさいね、お姉様…でも…ふふふ」


薊「…何が言いたいの」


百合「あら、お姉様、怖い顔…どうかなさったの?」


薊「いい加減にして、要件があるならさっさとしなさいよ!」


百合「あぁ怖い怖い…お姉様への用事は、昼食の時にでも話すわ…さあ、吾妻さん行きましょう?」


吾妻「そうしよう、百合。薊さんには落ち着いて話を聞いてもらいたいからね」


百合「…晴仁さん、案内を」


薊をみる晴仁


薊「…行きなさい、晴仁」


晴仁「…畏まりました」



薊を残し去る3人



薊「百合…。あの子はいつもいつも…そうやって私から全てを奪っていくのよ…忌々しい……そうよ、あの子がいるからいけないのよ……(電話をかける) 磯崎!昼飯のメニューを変更して頂戴…ええそうよ。そう、…なんですって?出来ないとでも言うのかしら?…そんな事が許されると思って?!…そう、…初めからそうしなさい…貴方も、まだ死にたくないでしょう?…頼んだわよ」



電話を切る薊



薊「百合…今に見てなさい」



東雲邸 廊下



百合「晴仁さんも大変ね、あんなお姉様と2人きりだなんて。不満とかないの?」


晴仁「いえ、特には」


百合「そう…凄いわね。私なら耐えられないわ」


吾妻「百合…大丈夫かい?」


百合「ありがとう、吾妻さん。晴仁さんは、お姉様が 私にした仕打ち、ご存知でしょう?」


晴仁「…ええ、存じ上げております」


百合「…この屋敷にいる間は、地獄だったわ。後妻の子というだけで、後ろ指を刺されていたのに…そのうえお姉様がアレですもの。最初は、理不尽な八つ当たりだけだったのよ、お互いまだ小さな子供だったし、お父様を取られたと思ったんでしょうね…」


晴仁「……」


百合「酷くなったのは、晴仁さんが屋敷に来てから… お姉様は、人が変わったように晴仁さんに執着して、私が晴仁さんに話しかけただけで、階段から突き落とされたり…飲み物を掛けられたり…お父様が吾妻さんとの結婚を決めるまで…ひたすら怯えているだけだったわ…」


吾妻「出会った時の百合は…その、可哀想な位怯えていた。傷だらけで…しまいには女性にとって大切な顔にまで。百合の右目、幸い失明には至らなかったようだけど、薊さんに熱湯を掛けられた時に、視力が落ちてしまったそうだよ。」


晴仁「そうでしたか」


百合「…そんな私の事を、吾妻さんは娶ると仰って下さったの。顔に傷を負った女なんて…何の価値もないのに…」


吾妻「私はそんな価値に興味はないよ。百合の心優しい姿に惚れたんだ。君以外考えられない」


百合「ふふ…幸せってこういう事をいうのね。晴仁さん、貴方は今…幸せ?」


晴仁「さあ…私にはわかりかねます。到着致しました…百合様は、こちらのお部屋をお使いください」


百合「ありがとう、それじゃ、吾妻さん、晴仁さん、昼食の時にまた」


吾妻「ああ、また後で」


晴仁「吾妻様は、こちらのお部屋をお使いください」


吾妻「ありがとう…私が言うのもなんだが…薊さんには気をつけた方がいい。君が彼女

恋仲なのは百合から聞いていたが…その…彼女は…普通じゃない。」


晴仁「ご忠告痛み入ります…昼食の準備が出来たら呼びに参りますので…失礼します」


吾妻「ああ、頼んだよ。」


【食堂】



薊、晴仁が既にいる

少し遅れて百合と吾妻が入ってくる


吾妻「おや、少し遅れてしまったかな?」


晴仁「いえ、問題ございません。お2人のお席はこちらになります」


薊「…早く席につきなさい」


百合「はぁい、お姉様。吾妻さん行きましょう」


吾妻「ああ、百合、手を…足元に気をつけて」


百合「ありがとう」


晴仁「吾妻様はこちらに」


吾妻「すまないね」


晴仁「百合様はこちらに」


百合「お姉様の隣…ね」


晴仁「如何なさいましたか?」


百合「ふふ、なんでもないわ」


晴仁「そうですか。百合様どうぞ」


百合「ありがとう、晴仁さん」



椅子を引く晴仁の腕に、必要以上に触れる百合


薊「晴仁!!百合の相手はいいから、さっさと料理を持ってきなさい!!」


晴仁「…畏まりました、お嬢様。失礼致します」


晴仁 部屋を後にする



百合「お姉様ったら、そんなに晴仁さんを叱ったら可哀想だわ?…男性にはもっと優しくしないと…ね、吾妻さん」


吾妻「ははは、確かに優しい女性は魅力的だね」


薊「貴方達に認めて頂く必要なんて無いわ」


百合「お姉様は、余程 晴仁さんが大事なようね」


薊「…貴方には関係の無いことでしょう」


百合「あら?何を言っているのお姉様?お姉様は東雲家の当主、その立場をお忘れになったの?」


薊「何が言いたいの」


百合「身分の差…」


薊「関係ないわ」


百合「…関係ない?あはははは!!お姉様、東雲家当主ともあろうお方が、ご自分の一緒家を潰すおつもり?」


薊「出ていった貴方には、関係のない事よ」


百合「ふぅん…まあ、いいわ」



コンコンとノックがなり、ドアが開く

ワゴンから カチャカチャと食器の擦れる音がする



晴仁「皆様、お待たせ致しました、昼食をお持ちしました…こちらは、薊様」


薊「ありがとう、晴仁」


晴仁「こちらは吾妻様…」


吾妻「ああ、ありがとう」


晴仁「最後に…こちらが百合様の分となります」


百合「…ありがとう、晴仁さん」


薊「晴仁!並べ終えたら、さっさと離れなさい!!」


晴仁「畏まりました」


薊「では、頂きましょ…」


百合「待って下さらない?」


薊「何かしら…」


百合「お姉様達のサラダ…私のと少し違うわね」


薊「…なんの事かしら」


百合「1人だけ違うのは怖いの…今更磯崎に作り直させるのも可哀想だし、ねえ、お姉様のサラダと交換して下さらない?」


薊「っ!!………。」


百合「お姉様?どうなさったの?やましい事が無ければ交換して下さるはずよね…?」


薊「ちっ…晴仁」


晴仁「畏まりました」



薊と百合の料理を入れ替える晴仁



薊「では、頂きましょう…」


百合「ええ、お姉様…全ての食材に感謝を…」


薊「我らの血肉となり…共に歩む事を…」


吾妻「明日もまた…健やかである様に…」


3人「いただきます」


吾妻「おお、これは美味しそうだ」


百合「そうね、吾妻さん。磯崎の料理…久しぶりね」


吾妻「ああ、幼い頃にも食べたが、かなり美味しかった記憶がある」


百合「それはそうよ、磯崎師は、昔、有名な店で働いていたそうよ?」


吾妻「ああ、たしかメゾットのシェフだったかな?あそこは三ツ星だったはず。尚更楽しみじゃないか!」


百合「ふふ、吾妻さんったら子供みたいにはしゃいじゃって」


吾妻「すまない、昔から美味しい店を巡るのが好きでね、磯崎師がまだ現役と聞いて嬉しくなってしまったよ、晴仁君も磯崎師の料理は食べるのかい?」


晴仁「ええ、使用人用の賄いがございますので、そちらを」


吾妻「なんと!磯崎師の賄いか…是非とも食べてみたいものだ!薊さん、今度厨房を見せてもらっても構わないかね?」


薊「…ええ、どうぞご自由に」


吾妻「ありがとう、その際は晴仁君に案内を頼もう」


晴仁「…畏まりました」


百合「あら、吾妻さん!私の事、置いていっちゃ嫌よ?」


吾妻「百合、もちろん君も一緒にどうかな?」


百合「ふふ、嬉しいわ!吾妻さんと、晴仁さんと一緒に居られるなんて!」


薊「……ちっ」


百合「お姉様、どうかなさったの?」


薊「なにも」


百合「うふふ…お姉様、さっきからサラダ全然食べてないのね?」


薊「…どう食べようが貴方に関係ないわ」


百合「こうやって、ちゃんとバランス良く食べなくちゃ…」



自分のサラダを1口口にする百合

飲み込んだ 途端に 呼吸が乱れ苦しそうになり

上手く、息が出来なくなる



百合「…っ…あ……がっ…」


吾妻「百合?!どうしたんだい!?」



椅子から落ち、首を抑えもがき苦しむ百合



吾妻「百合!!!しっかりするんだ!!百合!!どうしたんだい?!……晴仁君!!百合を、百合を部屋に!!」


晴仁「畏まりました」



バタバタと居なくなる3人

1人残された薊は、自分の皿を見つめている


薊「どういう事なの…百合が倒れた?お皿は交換されたのに…まさか、最初から私の料理に?……磯崎…裏切ったわね」



【百合の部屋】


吾妻「晴仁君、そこに百合を!」


晴仁「畏まりました」


百合「ぐっ…ぅぅぅ…」


吾妻「…百合、今アドレナリン注射を打つから、少し痛いが我慢するんだよ」



注射を打つと百合は、少しづつ落ち着きを取り戻し、そのまま眠ってしまう



百合「…ぅっ……」


吾妻「間に合って良かった」


晴仁「吾妻様、百合様は…」


吾妻「ああ、百合は桃にアレルギーを持っていてね…少量でも口にすると、アナフィラキシーショックを起こしてしまうんだよ…小さい頃からあったと聞いていたから、磯崎師は知っていると思うんだが…」


晴仁「…申し訳ございません」


吾妻「いや、晴仁君のせいじゃない。元々入って居たのか…それとも…」


晴仁「…念の為磯崎にも確認しておきます」


吾妻「そうだね、そうしてくれ。それと

百合はしばらく動けないだろうから、夕食は部屋に持ってきてくれ、ああ、もちろん粥等の軽いもので」


晴仁「畏まりました…吾妻様はいかがなさいますか?」


吾妻「私もここで取るよ」


晴仁「畏まりました。」



不穏なまま 一日目がおわる


ACT2 【翌日】


朝食の時間、百合と吾妻は食堂を訪れる。

食堂には、既に薊と晴仁が居た



晴仁「おはようございます、吾妻様、百合様」


吾妻「ああ、晴仁君…おはよう」


百合「……」


吾妻「百合、大丈夫かい?気分が優れないのなら部屋で朝食を…」


百合「大丈夫よ、吾妻さん…ええ…私は大丈夫」


吾妻「そうかい?何かあったら直ぐに言うんだよ?無理しないでおくれ…」


百合「ありがとう」


晴仁「では…百合様はこちらの席へ」


百合「ありがとう晴仁さん」


晴仁「吾妻様は、こちらの席へお願い致します」


吾妻「ああ、ありがとう…遅くなってすまなかったね、薊さん」


薊「ええ、もう来ないと思っていたわ」


吾妻「ははは、百合がどうしても食堂で取ると言ったからね、夫になるなら愛する妻の願いは叶えてあげたいものさ」


薊「…そう」


百合「おはようございます、お姉様…昨日は素敵なプレゼントをありがとう」


薊「……」


百合「さぁ、頂きましょう?お姉様。…全ての食材に感謝を…」


薊「我らの血肉となり…共に歩む事を…」


吾妻「今日もまた…健やかである様に…」


3人「いただきます」


百合「あら?今日は毒は入って居ないのねお姉様…」



薊の手からナイフが落ちる



薊「…何が言いたいの」


百合「何も?ふふふ、何を動揺しているのお姉様?可愛い可愛い妹の、冗談じゃない…」


薊「…笑えない冗談は嫌いよ」


百合「昨日私が食べた料理…あれお姉様と交換した料理でしたわね…」


薊「……」


百合「もし…私と交換していなければ…お姉様は今頃…」


薊「デタラメな事を言うのはやめなさい!!」


百合「デタラメと言うなら…磯崎に確認させて?あの料理に…何か入れたのかって…ねえ?お姉様、私は死にかけたの…愛する吾妻さんが助けて下さらなかったら、命を落としていたかもしれないのよ?私には、知る権利があると思うの…」


薊「……ちっ」


晴仁「申し訳ございませんが、磯崎に確認を取るのは少々難しいかと…」


吾妻「ん?どういう事だい、晴仁君?」


晴仁「磯崎は、今朝…厨房で亡くなっておりました」


吾妻「な…磯崎師が…亡くなった?」


晴仁「はい、昨日、夕食後に昼間の確認をしようと厨房を覗いた所、不在でした。屋敷内をくまなく探したのですが、どこにもおらず…今朝方、再度厨房を覗いた所…冷たくなった磯崎がおりました」


薊「……」


百合「そう…磯崎が」


吾妻「何ということだ…」


百合「残念ね…お姉様。磯崎に確認が取れなくなってしまって…」


薊「…そうね」


百合「確認が取れない方が、お姉様にとっては良かったのかもしれないけれど」


薊「っ!!!」



咄嗟にワインを百合に浴びせる薊



薊「黙りなさい…」


百合「ふふふ…冷たいわ…お姉様」


吾妻「薊さん…なんてことを。あぁ…百合、ワインが…大丈夫かい?」


百合「大丈夫よ?でも、お姉様が大丈夫じゃないみたいだから、残りは部屋でとるわ…ああ、その前にシャワーも浴びないと…晴仁さん部屋にタオルをお願いね」


晴仁「かしこまりました」


吾妻「私も失礼しよう…さぁ百合、行こう」


暗転

同日昼過ぎ 屋敷のベルがなる

晴仁が扉を開けると 胡散臭そうな

和服の男性が立っていた



東宮「ごめんください、こちらは東雲八雲さんの屋敷で間違いないかな?」


晴仁「生憎、セールスは間に合っております。それに先代様はもう…」


東宮「ああ、違う違う。セールスではないよ。東雲八雲さんの件で来たんだ」


晴仁「…どのようなご要件でしょうか?」


東宮「ここでは明かせないなぁ…」


晴仁「当主に確認を取ってまいります…お待ちくださいませ」


東宮「ああ、よろしく頼むよ」



ひらひらと手を振りながら 玄関で待つ東宮

晴仁は薊の元へ急ぐ

薊は書斎に籠り 何かを考え込んでいるようだった



晴仁「失礼します、お嬢様」


薊「………」


晴仁「お嬢様?」


薊「っ?!…ああ、晴仁…どうかしたの?」


晴仁「お嬢様、お客様がいらっしゃいました」


薊「客?今日の予定に無いわよね、帰しなさい」


晴仁「ですが、先代の八雲様絡みの件でと仰られています」


薊「…お父様の…」


晴仁「如何なさいますか?」


薊「…ちっ、通しなさい」


晴仁「かしこまりました」


東宮「やあ、そう言ってくれると思ったよ」


晴仁「なっ?!」


薊「許可もなく入ってくるなんて非常識でなくて?」


東宮「ああ、ご心配なく。先代からの許可は得ているからね」


薊「現当主は私よ!」


東宮「君が東雲を継いだのか…なるほど」


晴仁「お嬢様、排除致しますか?」


薊「……」


東宮「おっと、僕に危害は加えない方がいい…僕は先代の遺言を伝えに来たんだ」


晴仁「それを信じろと?」


東宮「信じないもなにも、事実だ、ほら…これ」



懐から、2枚の封筒を取り出し机の上におく



晴仁「失礼します……お嬢様、この封蝋は間違いなく、東雲家の印です」


薊「っ…そう」


東宮「ふふ、認めて貰えて嬉しいよ。それじゃあ、さっそく本題にはいろうか…」



封筒を晴仁から受け取り、書斎のソファに腰掛ける 東宮

無音の部屋に、レザーのソファの軋む音が響く

東宮は、1つ目の封筒を開け、中の文章をみせた



薊「晴仁、読んでちょうだい」


晴仁「失礼します… 東雲薊、東雲百合、双方どちらかとの婚姻を 東宮に託す…」


薊「なっ…なんですって?!」


東宮「何をそんなに驚いているんだい?先代からしてみたら、跡継ぎを考えるのは当たり前だろう? ましてや、遺言状を書かざるを得ない状況だったのだとしたら…ね」


薊「…何が言いたいの」


東宮「ふふ…最後まで読んでみたらどうだい?」


薊「…晴仁、かしなさい。」


晴仁「どうぞ」


薊「………ちっ、死してなお私の邪魔をする気なのね」


東宮「あはは、いいねその眼…とても魅力的だ。とにかく、君か妹の百合さんか…どちらかと…ああ、そう言えば妹の百合さんには、すでに婚約者が居るようだね」


薊「……っ」


東宮「おや?どうかしたかい?」


薊「別に…何でもないわ」


東宮「そうかい。なら、遺言状の件は夕食の時にでも。それまでじっくり考えておくといいよ…今日はこの屋敷に泊まらせてもらうから…ね」


薊「……晴仁…部屋へ案内を」


晴仁「…かしこまりました」


東宮「…君がどういう選択をするのか…楽しみだよ、薊さん」



パタンと扉が閉まる

中から何かが割れるような音が響く



薊「はぁ…はぁ…どいつもこいつも…私の邪魔ばかり…許さない…ゆるさない」



夕食時、カチャカチャと食器の擦れる音がする


百合「あら、お姉様? 席が1つ多いようですけど…どなたかいらっしゃったの?」


薊「ええ…もうすぐ来ると思うわ」


百合「そう…どんな方かしら?楽しみね吾妻さん」


吾妻「はは、食事に人が増える事はいいね、賑やかな方が私は好きだな」


百合「ふふ、吾妻さんったら」


吾妻「そうかな…ははは!」



ノックの音と共に、晴仁と東宮がやってくる



晴仁「失礼します、東宮様…こちらへ」


東宮「ああ、ありがとう」



促されるまま自分の席へつく東宮



東宮「遅くなってすまないね、薊さん」


薊「いいえ、始めさせて頂いてるから…お気になさらず」


百合「あら、お姉様のお知り合いの方?」


薊「……」


東宮「皆様、食事中にすまない、そのまま聞いて欲しい。僕の名は東宮弥彦、先代の遺言を伝えに来た」


吾妻「ゆ、遺言だって?!」


百合「お父様の?それは…本物ですの?」


東宮「もちろん、遺言状は当主の封蝋がしてある事も、そこの使用人である晴仁くん、薊さん共々確認済みさ」


百合「そうでしたの、それで中にはなんと?」


東宮「晴仁くん、読んでくれるかい?」


晴仁「………かしこまりました」


吾妻「どうしたんだい?」


晴仁「いえ…失礼致しました…。遺言状には、旦那様の死後、薊様か百合様…どちらかと婚姻を結ぶこと…そして婚姻を結んだ方に、遺産相続の権利を託す、…と記されております。もうひとつの封筒は、まだ開けるなとも書かれております」


百合「…は?」


吾妻「婚姻…?」


東宮「そう。百合さんか薊さんのどちらか、僕のお嫁さんになった方が、先代の残した膨大な遺産を手にするって事です」


薊「…」


百合「…あの、東宮さん、私にはすでに婚約者の吾妻さんがいますし、申し訳ないのですが、無理ですわ。それに、この傷もありますし…ああ、そういえば、ここには、独り身でこの屋敷を守っているお姉様がいらっしゃいましたわね」


薊「…ちっ」


吾妻「私も、百合と婚約解消するつもりはないよ」


百合「吾妻さん…」


東宮「ははは、見事に振られてしまったかな?」


百合「ふふふ、」


東宮「まあ、期限は明日。どちらと婚約するかは、明日知らせるとして、今はこの晩餐を楽しもうじゃないか」


百合「そうですわね、お姉様の新たな門出をいわって…」


吾妻「気が早すぎるよ、百合」


百合「あら、ごめんなさい。お姉様、私ったらお姉様が幸せになるかもと考えたら嬉しくなってしまって…」


薊「…百合」


百合「なぁに?お姉様」


薊「……」


東宮「…ははは、君達はとても仲が良いようだ」


百合「ふふふ、大好きなお姉様ですもの…ねえ、お姉様…」


薊「…ちっ…晴仁…ワインを頂戴」


晴仁「かしこまりました」


東宮「ああ、晴仁くん、僕にもワインを」


晴仁「かしこまりました」



1人増え、賑やかなな晩餐が再開される



東宮「そう言えば、小耳に挟んだんだが…晴仁くんは元孤児らしいね」


晴仁「はい、幼少の頃、薊様に拾っていただきました」


百合「そうでしたわね、お姉様ったら ある日急に人を拾ってくるんですもの、あの時は驚きましたわ」


薊「…私が何をしようと貴方には関係ない事でしょう?」


百合「あら、そんな悲しい事を仰らないでお姉様…」


東宮「百合さん、さっき傷と仰ってましたが、その目の…?」


百合「ええ、幼い頃に少し…ねえ、お姉様」


薊「…しらないわ」


百合「あら、覚えてないの?お姉様…それなら思い出せるように再現して差し上げましょうか?あの日、お姉様が寝ている私の顔に…熱湯を…」


薊「…ご馳走様。晴仁、書斎へ行くわ着いてきなさい。」


晴仁「かしこまりました」


東宮「ああ、もういいのかい?薊さん」


薊「ごきげんよう」



バタンと大きな音を出して閉まる扉



百合「東宮さん、お姉様がごめんなさいね、悪気はないと思うのだけれど」


東宮「いや、まったく気にしてないよ…中々に気まぐれな子猫のようだし


百合「ふふふ、そんな…子猫だなんて」


吾妻「うーん…子猫と言うよりは、獅子の方が近いかもしれないなぁ」


百合「まあ、吾妻さんまで…ふふふ」


東宮「やはり、貴方には笑顔が似合う」


百合「お上手ですのね」


東宮「ありがとう」


吾妻「さあ、百合…食べ終えたなら部屋に戻ろう」


百合「ええ…それじゃあ東宮さん…失礼致しますわ」


東宮「…ええ、貴女に出逢えてよかった…そう言えば今夜は雷雨らしい…お気をつけて」


吾妻「さあ、百合…おいで」


百合「うふふ、では」



誰もいなくなった食堂に東宮の笑い声だけが響く



東宮「ふふふ…あははは!!」




その日の晩 雷雨の中で必死に逃げる


吾妻「はぁっはぁっ…なんで…どうしてっ!」


吾妻「嫌だ…嫌だ!…誰かっ!!」


吾妻「はぁっはぁっ…行き…止まり?」



コツコツと響く足音 止まったかと思うと不意に下ろされるナイフ



吾妻「ぐぅっ…痛いっ…痛いぃぃ」


吾妻「なんで僕がっ…ぎぃっ…」



雷雨と共に、何度も何度も、容赦なく下ろされるナイフ



吾妻「嫌だ…嫌だ!!嫌だぁああ!!!」


吾妻「あぁ……助け……………」



次第に何も聞こえなくなる

そして夜が明ける




【ACT3】


百合の部屋

ノックの音がなる



晴仁「おはようございます、百合様、吾妻様。お目覚めの時間でございます」


百合「おはようございます、晴仁さん…ねえ、吾妻さんを見なかったかしら?」


晴仁「いえ…」


百合「朝起きたら部屋に居なくてどこに行ったのかしら?」


晴仁「昨晩は雷雨でしたから…」


百合「ああ、馬の様子を見に行ったのかしら?」


晴仁「……」


百合「吾妻さんを探している間に、偶然お姉様に会うかもしれないし…晴仁さん、案内してくださる?」


晴仁「かしこまりました」



庭に出る2人



百合「ふふ、いいお天気…でも花達が倒れてしまったわね」


晴仁「…後ほど修繕致します」


百合「そうしてくださる?…あら…ここ…酷い…踏み荒らされてるわ」


晴仁「どなたかが花壇に踏み入ったようですね」


百合「なんて酷い…あっちに続いてるわね…晴仁さん見てきてくださる?」


晴仁「かしこまりました…」



建物の影に続く足跡を辿る晴仁

そして何かを発見する



晴仁「…ん?これは……っ!」


百合「晴仁さん、どうかしたの?」



何も知らない百合が近づいてくる



晴仁「百合様、お待ちください…今こちらへ来ては…」



晴仁の制止をよそに、近づく百合



百合「誰か倒れて…きゃぁぁぁ!!」


晴仁「百合様…失礼致します…こちらへ…」


百合「晴仁さん…顔がっ顔っ…」


晴仁「っ…」



よろける百合を支えながら、視界を遮る晴仁



東宮「…屋敷まで悲鳴が聞こえてきたが一体どうし…なっこれは…」


薊「いったい何の騒ぎ…っ!」 (死体よりも百合と晴仁に対して)


晴仁「東宮様…薊様」


薊「晴仁!何をしているの!」


晴仁「…申し訳ありません、倒れそうな百合様を支えて…」


薊「そんな事どうせもいいの!さっさと離れなさい!」


晴仁「かしこまりました」


東宮「おー怖い怖い…百合さん、大丈夫かい?」



百合の手をそっと取る東宮



百合「っ…東宮さん……誰かが倒れてて…血だらけで…」


東宮「そのようだね…酷い。顔を潰すなんて余程恨みがあったんだろう…怖いものを見たね、もう大丈夫だ…そう言えば、吾妻さんはどこだい?」


百合「それが…朝から吾妻さんの…姿が見えなくて…それで…探しに…あら?…あのスーツ…吾妻さんと同…じ…?」


薊「晴仁、確認して頂戴」


晴仁「…かしこまりました。…昨夜、吾妻様が着ていた物と同じようです。後は、近くにこれが落ちていました」


東宮「これは…ボタン?」


薊「そう…ならその死体は吾妻さんの可能性が高いわね」


東宮「……」


百合「うそよ…そんな事…吾妻さんが…死…んだ…」


薊「…晴仁、片付けなさい」


東宮「…さすが、冷酷だねぇ」



東宮の手を振り払い、倒れている人物の方へ駆け寄る百合



百合「…っ!…吾妻さんに触らないで!!吾妻さんは死んでなんかないわ!!!吾妻さん、こんな所で寝ているから皆が心配しているじゃない…早く起きないと…」


東宮「……百合さ…」


薊「晴仁、邪魔だから早く片付けなさい」


晴仁「………。」


薊「晴仁?何をしているの?ソレを片付けなさい!」


晴仁「…かしこまりました」


百合「…こないで!!!!…わかったわ…お姉様が…吾妻さんを殺したのね…」


薊「何を…」


百合「婚約者がいる私は、東宮さんと結婚は出来ない、つまり結婚するのはお姉様…でも、お姉様は嫌なのよね?愛する晴仁さん以外との結婚だなんて」


薊「想像力が豊かだ事」


百合「吾妻さんが居なければ、私が結婚するかもしれないものね!!それにそのボタン…お姉様の服のボタンよね?吾妻さんの近くに落ちていた事といい、吾妻さんが消えて喜ぶのはお姉様だけじゃない!あはははははは!!!そうよ、そうにちがいないわ!!ねえ、お姉様、返して?吾妻さんを返してよ!!!」



犯人は薊だと百合がつかみかかる

その手を叩き落とす薊



薊「埒が明かないわね。晴仁、さっさと片付けなさい」


晴仁「かしこまりました」


百合「やめて!!!吾妻さんに触らないで!!!」



血まみれになりながら、吾妻に抱きつく百合



東宮「百合さん、大丈夫ですから僕と戻りましょう」


百合「離して!!嫌よ!吾妻さん…吾妻さ…嫌ぁぁぁあ!!!」



錯乱したまま部屋にとじこもる百合



東宮「ひとまず、百合さんは部屋で寝かせているよ」


薊「そう」


東宮「おやおや、婚約者を亡くした妹に対してかける言葉は、それだけかい?」


薊「……関係ないわ」


東宮「そうか…まあ、もう日も遅い。詳しい話しは明日にしよう」


薊「そうね」



部屋を出ていこうとして、ドアの前で立ち止まる東宮



東宮「そう言えば…薊さん」


薊「何かしら」


東宮「百合さんが言っていたボタン…本当に貴方の服の物なのかい?」


薊「さあ、しらないわ」


東宮「そうか…では失礼」



百合の部屋


百合「~~~♬︎」



ドアに縄を括りつけながら 鼻歌を歌う百合



百合「~♪…うふふ」


百合「吾妻さん……」



ギシッと重たい音がした



【ACT4】翌朝


晴仁「お待たせしました、朝食の準備が整いました」


薊「晴仁…ワインを」


晴仁「かしこまりました」


東宮「ああ、晴仁くん、僕もワインを」


晴仁「かしこまりました」



広い食堂に、2人分の音がする



東宮「うん、やっぱりここの食事は美味しいねぇ」


晴仁「ありがとうございます」


東宮「そういえば、百合さんはまだ眠っているのかい?」


晴仁「………」


薊「…百合は死んだわ」



食事の手が止まり、無音になる



東宮「……と言うと?」


薊「晴仁、説明してちょうだい」


晴仁「昨日の事がよほどショックだったのか、朝食の案内をしに部屋に訪れたところ、百合様は…自室で首を吊っておりました」


東宮「そう…か。なら薊さん、貴方が僕の妻になるのかな?」


薊「……いいえ」


東宮「遺言に従わないなら、貴方はここから出ていく事になるがそれでも?」


薊「は?…なにを…」


東宮「2つ目の遺言状…まだ開けていなかったはず…晴仁君そうだったよな?」


晴仁「はい、2つ目の遺言状は、時が来るまで開けるなとのことでしたので、保管してあります」


東宮「その遺言状…あけてご覧。今がその時だよ」


薊「晴仁…読みなさい」


晴仁「かしこまりました……2枚目の遺言状には…薊様、百合様のどちらかが死亡した場合…残された方は、必ず東宮と婚姻を結ぶこと…破談となる場合…この屋敷の敷居は跨がせない…と書かれております」


薊「な…なによそれ!!」


東宮「と言うわけだ…薊さん…」



鞄から真っ白なヴェールをとりだし、薊の頭に被せる東宮



東宮「ああ、やはり真っ白なヴェールが良く似合う…薊さん…いや、薊。…僕と結婚しようじゃないか」


薊「……っ!絶対に嫌よ!!!」



おもむろに部屋から飛び出す薊。それを追う東宮と晴仁



薊「着いてこないで!!」


東宮「待ってくれ…僕の薊」


薊「貴方の物になった覚えはないわ!!」


東宮「拗ねているのかい?私が百合を選んだ事…」


薊「何訳の分からない事を…」


東宮「薊、何をそんなに怯えているんだい?」


薊「っ…怯えてなんかいな…きゃっ…」


中庭で薊に追いつき、薊の髪を掴む東宮


薊「痛っ…」


東宮「ああ、やっと捕まえた…僕から逃げるなんていけない人だ…」


薊「このっ…離しなさいっ!!」


東宮「離さないよ、キミは僕のものだ、さあ近誓のキスを…」


薊「っ!!!やめっ…んっ…私に、触れるなぁぁ!!」



無理やり唇を奪われ抵抗する薊

護身用の刃物で、東宮の腹を刺す

刃先から血がしたたり、膝から崩れ落ちる



東宮「っ…ははは…そんなものを隠し持っていたなんて…とんだじゃじゃ馬だ…」


薊「はぁ…はぁ…」


晴仁「…お嬢様…」


薊「晴仁っ…」


東宮「やあ、晴仁君…」


薊「晴仁、下がりなさい!!」


晴仁「………」


東宮「見ての通り…君のご主人様にやられてしまったよ…キスしたくらいで…酷い有様だ」


薊「黙りなさい!!!!」


東宮「僕が死んだら、先代の残した遺産の場所は分からないまま…残念だったね」


晴仁「…そうですね…東宮…いえ、吾妻様」


薊「…は?吾妻…」


東宮「…何故そうだと?」


晴仁「ずっと腑に落ちない点があったんです。吾妻様と百合様が居らしている時に、遺言状を持った人物が現れるなんて…タイミングが良すぎますからね。ですが、吾妻様と東宮様、お2人が共謀しているのなら話は別です」


東宮「それで、何故僕が吾妻だと…?」


晴仁「吾妻様だと思われた死体が握っていたこのボタンです」


東宮「は?」


晴仁「このボタンは薊様がオーダーメイドでお作りになられた、お召し物のボタン…」


薊「ボタン…?」


東宮「なら、薊が犯人だと思うのが筋だろう?」


晴仁「いえ、実はこのボタン…東宮様が来られる、前の日に着ていた服のボタンなんです」


東宮「なんだって?」


晴仁「前日に着ていたはずの服のボタンを、どうやって翌日の殺人の時に落とせるのでしょうか?それに、薊様はご自分で手を下さないんです、必ず人を使います」


東宮「…ふっあはははははは…まさか、アリバイ工作が裏目に出たか」


晴仁「……」


吾妻「正解だ…私が東宮と共謀し、偽の遺言状を作ったのだよ」


薊「なんですって?でも封蝋が…」


吾妻「忘れたのかい?百合だって東雲家の一員さ、先代当主から封蝋を預かっていても不思議じゃないだろう?」


薊「…そういう事」


吾妻「薊さん私はね、幼い頃から、百合よりも貴方が好きだったんだ…キミは知らないだろうが、婚約を決める際キミを指名した。だが先代は許さなかった…それどころか当てつけのように、当主をキミに譲り、百合との婚約を決めてしまった」


薊「何を…」


吾妻「知っているかい?東雲家が世間でなんて言われているか。」


晴仁「東雲家の血は呪われている…ですか」


吾妻「…そう、さすが晴仁君…」


薊「そんなの知らな…」


吾妻「先代から続く…裏組織、通称リベッタ…その存在を知らないとは言わせないよ薊。現に、磯崎を殺したのも奴等だろう?」


薊「…ちっ…」


吾妻「薊…私は君の事を好いていた…君と結婚してこの家を…裏稼業から切り離す…その為なら、百合が死のうとどうでもよかった…」


晴仁「ならば…何故貴方は泣いているのですか?」


吾妻「…はは、どうでも良かったはずなんだ…なのに、自分が死にかけて思い出すのは百合の事ばかり…目の前にキミが居るのに…百合の事が…頭から離れないんだ…」


薊「……」


晴仁「吾妻様は…百合様を愛していたのですね」


吾妻「…ああ、そうか…私は百合を愛していたのか。そうか…そ…う…か」



そのまま息絶える吾妻

中庭の花畑に2人残された薊と晴仁



薊「晴仁…戻るわよ」



吾妻に刺さったままの刃物を回収する晴仁



薊「…晴仁?」


晴仁「…薊様」



薊を抱きしめる晴仁…晴仁の温もりを感じた途端、胸に痛みが走る



薊「かはっ…え…何…血が…」


晴仁「……東雲の血は絶やさねばならない」


薊「晴仁…?なん…で…」


晴仁「薊様、幼少の頃に拾って頂き今までおそばにおりましたが…僕にはすべき事がありました」


薊「…痛ぃっ…痛いっ…晴仁…」


晴仁「しってますか? 東雲元当主である八雲様が、一夜限りの関係をもった女性がいた事を」


薊「かはっ…痛いっ…助け…て」


晴仁「その女性は、この帝都に春を運ぶ…いわゆる娼婦でした。八雲様と関係を持ったその女性は…たった1度の関係で身篭ってしまった…そして人知れず、男児を産んだんです」


晴仁「だが、八雲様の奥様は許さなかった…彼が9つを迎える誕生日の夜…東雲家お抱えの裏組織は、彼の目の前で女性を殺した…彼は逃げた…なるべく人混みの多い所へ、自分も殺されないように…走り続けた。そして、走れなくなり道端でうずくまっていた時…1人の少女に、声を掛けられたんです」


薊「……まさ…か」


晴仁「そうです、薊。貴方ですよ、つまり…僕にも東雲の血が流れているんです…」


薊「そん…な…うそ…」


晴仁「残念ながら全て本当の事です。ほら…東雲家の血筋のみに現れる痣…貴方と同じでしょう?」



手袋をはずし、手の甲を見せる



薊「…あ…あぁ…晴…仁」


晴仁「少し喋りすぎましたね…辛いでしょう…今楽にして差し上げます」


薊「…かはっ…それでも…私は、貴方のこと…愛して……た」


晴仁「おやすみなさい…」



誰もいなくなった中庭

納屋から一斗缶を持ち出し、辺りにばらまいていく



晴仁「…大丈夫です…東雲の血は残さない…僕も今…そちらへ行きます…」



カチリとライターで火を放つ

燃え始めた炎の中、晴仁は薊の亡骸を抱きしめていた



晴仁「 薊…僕も貴方を…愛していましたよ…」



燃え盛る炎が、すべてを焼き尽くした




END






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孤独な箱庭 ねむりねずみ@まひろ @sibainu_uta

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